エル・スールのレビュー・感想・評価
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父が不気味な他者と化す経験
ビクトル・エリセ監督作品。
陰影の画がすごい。
親がふとした瞬間に理解不能な他者として立ち現れる経験は何となく分かる。
子どもの頃は、常にそばにいて親とは一心同体な関係である。
しかし親には当然、子どもの生まれる前の思い出/記憶があり、別個の人間である。それが本作では、少女エストレーリャの初聖体拝受式を契機に象徴的に描かれている。聖体拝受式とは、正式に自分の意志でカトリック教徒になる儀式だという。だからこの儀式を通してエストレーリャは自立した「大人」となるのである。「大人」になった彼女は、父であるアグスティンと対等にパソ・ドブレを踊る。しかし踊りの曲は、父が捨て去った故郷の曲“エン・エル・ムンド”である。それは「大人」になった代償に、自分では分有不可能な父の記憶、父の他者性が到来してしまうことを示している。
この父の他者性は、最後に父娘が会話を交わすホテルでの食事シーンで示唆的である。エストレーリャが授業のために去った後、引いた画でアグスティンを撮るショットは、彼が何を考えているのか分からない禍々しい存在であることを十全に描いている。
本作では、スペイン内戦という〈出来事〉とそれにより引き裂かれる人々の記憶/物語を映画に昇華している。
歴史に根差した作品をもっとみたい。
「秘密」を描くのにこれ以上のものがあるだろうか。重要なのは、秘密そ...
「秘密」を描くのにこれ以上のものがあるだろうか。重要なのは、秘密そのものの中身やそれらを暴き出していくこと、といったありがちなやり方ではなく、秘密を持ってしまったこと、秘密があることを直観してしまったこと、それによってこれまで明らかだと感じていたことがうまくできなくなってしまったこと、そしてそれが簡単に解消できずに溜まっていってしまうこと、こうした秘密に関わるものたちの描き方にあるのだと感じた。
映画としての基調を成している部分の完成度もまた素晴らしい。独特の暗みがかった映像、抑制された音が作り出す静寂の重厚さそして、こどもが持つ危うげな視線の表現、これらがこの映画の雰囲気と美しさを仕立てあげていて、終始崩れないでいてくれることで、中盤終盤になってもだれることなく、引き込まれ続けることができる。
静かな映画でした
「エル・スール」とはスペイン語で「南」のことらしいですね。お父さんの出身地を指しているようです。(お父さんの乳母さんが魅力的でした)
主人公の(小さい頃の)女の子が、「大草原の小さな家」のローラに、少しだけ似ていた。
コントラスト
10年振りに再鑑賞しました。カメラから語りかけられる様な静かな作品で、光と影のコントラストが美しいです。父が秘密にしていた女性のことと自分の思想を隠さざる得なかった内戦の風景が重なりました。
格調高い秀作。でもちょっと眠気が……
「『瞳をとじて』公開記念 ビクトル・エリセ特別上映」で鑑賞。
気品あふれる、素晴らしい作品です。
巧みな光と陰の表現がとても美しい。
ストーリーには、上質な文学作品、たとえばヘミングウェイなど欧米の短編小説のような趣も感じました。
前作『ミツバチのささやき』同様、独特の「間合い」が見るものを魅了する。
そして物語は鑑賞者を知らずしらずのうちに人間存在の深いところへ静かにいざなってゆく。
「何がおもろいねん」というお話を、ここまでじっくりと見せてくれる手腕にあらためて感心。“魔法使いエリセ” と胸のうちでつぶやいちゃいました。
でもさすがに何度かちょっと眠気に襲われたということも、ここに告白しておきましょう。
あんまり疲れているときに見てはいけない映画ですね。
追記
アントニオ・ロペスを撮ったドキュメンタリー『マルメロの陽光』も是非、劇場で見たい!
少女が成長するにつれ、明かされていく父の秘密!
ビクトル・エリセ監督の最新作『瞳をとじて』の
予習として鑑賞しました。
主人公の少女エストレリャの視点から、
大好きだった父との関係性を軸に、母や祖母といった
家族との関わりや認識なども変わっていく、
せつなく心に沁み入る作品でした。
『ミツバチのささやき』同様、
俳優陣の表情や佇まいが素晴らしいと思いました。
主人公の心の機微を実に丁寧に描いているところが
好きですし、そこが見どころだと思います。
エリセ監督作品を2作立て続けに鑑賞し、
なんとなくではありますが、エリセ監督の特徴が
わかった気がします。
『瞳をとじて』、楽しみです。
主軸は、父と娘の話
静かで暗めで、少し眠くなってくるけど、終わりに向かって、だんだん面白くなっていきます。
だいたい理解できたんだけど釈然としなくて、いろいろ調べてみたら、けっこう分かってなかったな…と(笑)
観る前に読んだ紹介文に“暗いスペインの歴史を描いた”とか“スペイン内戦”とか書いてあったので、主軸はスペインの歴史だと思ってたけど、違いますね(笑)
その紹介文が間違ってる(笑)
スペインの歴史は関係なくはないけど、主軸は父と娘の話です。
その視点でも、けっこう分かってなかったんですけどね(笑)
あまり明確に分かりやすく描かれないので難しいです(笑)
『ミツバチのささやき』
『エル・スール』
『瞳をとじて』
の順で、2番目に好きです。
『コット、はじまりの夏』みたいなロケーションが出てきて、同じく絵画みたいな画が美しい。
黒バックに白字が無音で上がっていくエンドロールといい、寡黙な作風ですね。
これから観る方は、あらすじ読まず、あまり調べずに観た方がいいと思います。
あらすじにサラッとネタバレ書いてあるトコありました、注意!!!
光と影の中の少女:『エル・スール』の世界
✨「エル・スール」の魔法にかかる時。ビクトル・エリセ監督が、「ミツバチのささやき」以来10年ぶりに放つ長編第2作は、イタリアの名優オメロ・アントヌッティと共に、少女の目を通して見た暗いスペインの歴史を繊細に描き出します。この映画の中で、父親と母親の複雑な関係性の中で成長し葛藤する少女の視点は、フェルメールの風景画を彷彿とさせる街の景色とともに、画面の色合いの雰囲気を美しく昇華させています。一度見たら忘れられない、心に残る物語。🖼💔 #エルスール #ビクトルエリセ #オメロアントヌッティ #スペイン映画 #歴史映画 #フェルメール #映画美術 #映画レビュー #名作映画 #映画好きな人と繋がりたい #映画鑑賞 #心に残る映画
これぞ映画!と叫びたくなる
「ミツバチのささやき」よりこっちのほうが好き。アナの圧倒的に美しいまなざしの数々ような奇跡的なショットはないかもしれないが、宗教画のように美しいショットは前作以上。
前作も素晴らしい自転車のショットがあったが、今作もある。エストレリャが自転車で手前から向こうまで自転車で移動し、戻ってきたら7年経っているショット。往路復路で俳優も代わっている。これぞ映画!と叫びたくなる。
予算の都合で予定の半分しか撮れなかったということで、尻切れトンボなのかと思いきやそんなことはなく、開かれた良いエンディング。もちろん、完全版が観たかったがそれは叶わぬ夢。
ミツバチのささやきの監督、かなりの寡作。 前作は解説を聞かないとた...
ミツバチのささやきの監督、かなりの寡作。
前作は解説を聞かないとただ子供ながらの幻想混じりの話かなぁとなって、映画を通して訴えかけていることが暗示的すぎて理解しきれなかった。
今作も観る人たちに委ねる余白の多い作品だが、主人公のナレーションがある分理解しやすい。
ただ、前作のようなメッセージはないのかなぁと考えるとミツバチの〜方に軍配が上がる。
繊細なやりとりと美しい陰影
「エルスール」はなかなか劇場で観るタイミングがない作品だったのでうれしい
初公開ぶりに見直してみたけど、秘密を抱えてる父と娘との繊細なやりとりを美しい陰影の画面で見せる綺麗な作品だった。
娘のエストリァの服が素朴だけどおしゃれで可愛かった。
エリセ自身の追想の如き傑作
「ミツバチのささやき」から10年を経て1983年に発表されたビクトル・エリセ監督の長編第2作。
前作と違いスペイン🇪🇸の本格的な民主化が始まった時期に撮られただけに表現がストレートでわかりやすい。結果、内戦以降の歴史を俯瞰することとなった。
時は1957年、15歳の少女エストレリャの父アグスティンが失踪した。エストレリャは幼い頃からの父の記憶をたどった。
内戦で敗者となり投獄された左派の父は右派の祖父のもとを離れ南から北へ移住していた。
内戦後の状況がすっきりしたものの父の心情が語られることはない。南で愛した女性への思いもわかるが、それだけでは足りない。自分には到底理解できない父の焦燥を思った。
南を知らずに育ったエストレリャがひとり南へ向かう構図が凄いなぁ。激しくはげしく感動した。これが映画だ。
エル・スール、南へ、、、
そう、エストレリャはエリセだった。
「父 パードレ・パドローネ」「アレクサンダー大王」のオメロ・アントヌッティと再会した。予期せぬ再会だったけど嬉しかった。
ソレジャナイ
初見。
父と娘の美しい物語…と思いきや、途中からなんだか安っぽいメロドラマみたいな展開に…
俳優が子役も含めてみんな良くて、撮影がめちゃくちゃに美しいが、それに誤魔化されちゃってないか?
「ソレジャナイ…」と思ってしまった…
しかしスペインの人達にはずっと内戦の影が付いて回るんだな…
2024年2月13日はビクトル・エリセ祭り。個人的に。
監督ビクトル・エリセが33才で撮った前作『ミツバチのささやき』(1973年 99分)から10年後の42才くらいで撮った95分の思い出回想映画。主人公は女の子と、もう一人そのお父さんと感じる、前作と同じくらい好きな作品。
南が出てこない南の話
『ミツバチのささやき』がラストで希望の光が射す印象だったのに比べると、切なく、やりきれない気持ちになる映画でした。
愛する子どもには「親の顔」を見せなくてはいけないけれど、ひとりの人間としての葛藤や苦悩もあり、それを子どもに悟られないように暮らすのもまた愛情です。
しかし、子どもは成長して少しずつ親離れしていくので、幼い頃に求めた100%の父親でなくても良くなります。
15歳のエストレーリャは父親が思うより大人であり、8〜9歳からずっと気にかけていた真実を、大人同士として話してほしかったのではないでしょうか。
スペイン内戦後を描いた作品
エル・スール (字幕版) EL SUR
神戸市内にある映画館「シネ・リーブル神戸」にて鑑賞 2024年2月4日(日)
エストレリャ(イシアル・ボリャン)が、父アグスティン(オメロ・アントヌッティ)がもう帰ってこないと予感したのは15歳の時。
1957年の秋の朝、枕の下に小さなまるい黒い箱を見つけた。は父が愛用していた霊力のふりこがのこされていた。
エストレリャが7歳か8歳の頃(ソンソレス・アラングーレン)、一家は“かもめの家”と呼ばれる郊外の一軒家に住むことになった。
父は、家の前の道を“国境”と呼び、バイクに乗せてくれる。そして、水脈を発見する奇跡を行なって村人に尊敬される父。
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母フリア(ロラ・カルドナ)は、かつて教師だったが、スペイン内戦後に教職を追われ、家にいて読み書きを教えてくれる。
冬の雪の日、南では雪は降らないと母に教えられ、エストレリャは南に想いをはせる。父は南の出身だが、祖父と大喧嘩をして北へ出た。
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5月になって南の人が訪れてきた。アグスティンの母ドナ・ロサリオ(ジェルメーヌ・モンテロ)と乳母ミラグロス(ラファエラ・アパリシオ)。
エストレリャの初聖体拝受式の日の朝乗って、エストレリャは父と共に、パソ・ドブレを踊った。南に帰ってゆく祖母とミラグロス。
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エストレリャは父がイレーネ・リオス(オーロール・クレマン)という女優を想っていたことを知る。
父は映画館でイレーネ主役の「日かげの花」に見入る。
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内戦の頃に別れたかつての恋人で、本名をラウラという。彼女を未だに思っているのか。
アグスティンはラウラに手紙を書く、しかし返事は辛辣なもの。
「8年前に別れて以来、未来に生きる決意をし、女優をやめて一年になるのに、なぜ今さら手紙を」「今でも夜の来るのが恐い」
アグスティンが最初の家出をしたのはそんな事があった直後だった。
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クランド・ホテルで食事に誘ってくれた時、それが最後になるとは思っていなかった。隣りのサロンでは、新婚を祝って、あの“エン・エル・ムンド”のメロディーが流れていた。
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ビクトル・エリセ監督 1940年スペイン生まれ
エンリケ・グラナドス(1867年-1916年)はスペイン生まれの作曲家
使用された曲は以下の2つ。
12のスペイン舞曲集Op.37 No.5 アンダルーサ
12のスペイン舞曲集Op.37 No.2 オリエンタル
アンダルーサは良く知られています。きっと一度は聴いたことがあるのではと
ピアノソロで演奏され クラッシックギターでは定番となっている。リズミカルでフラメンコのように情熱的です。カッコイイ。
オリエンタル 物悲しい切ない感じの曲
映画館から上映前に女の子の写真が入ったハガキ大のカードをいただきました。ここでは「エストレリャ」
ムーチャス・グラシアス! 大岸弦
父の別の一面に気づき少女は成長するとの苦い記憶 父に対する後悔
スペイン北部で暮らす少女エストレーリャは、幼いころ父を慕っていた。
ある日、父が隠れて書き留めた文章から「南部」の秘密に興味を持つ。
謎めいたところがあった父には、恋人がいることに気が付くが…。
幼い頃は父親はいつも一緒だったが、ある日、父親の別の一面も知るようになり、やがて成長とともに、離れていく。
親子でダンスを踊ったときなど、二度と訪れることが無い大切な時間。
父が話そうとして引き留めたとき、振り切ってしまったことへの後悔。
娘の繊細な感情と静かな風景。
物語は、南部に旅立つところで終わってしまう。
本当はここまでが前半部分で、プロデューサーの意向で後半部分が上映されないことが残念で仕方ない。
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