劇場公開日 2012年12月15日

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「何気ない家族ネタをここまで引っ張って感動ドラマに料理してしまう山本監督の手腕はなかなかのものだと思います。」グッモーエビアン! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0何気ない家族ネタをここまで引っ張って感動ドラマに料理してしまう山本監督の手腕はなかなかのものだと思います。

2012年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 見た目のちゃらちゃらした雰囲気と違って、けっこう家族の絆に感動してしまったのが本作です。原作は、吉川トリコ原作の同名コミック。
 毎日をおもしろおかしく過ごす元パンクロッカーの母・アキ(麻生)としっかり者の娘・ハツキ(三吉)、そこに突然転がり込んできたバンドの元メンバーで、長年アキに思いを寄せ続けるヤグ(大泉)の3人が、葛藤しながらも様々な問題を乗り越えて家族の絆を深めていく姿を描き出すという物語です。

 アキとハツキは母子で仲良く名古屋で暮らしていました。17歳でアキを産んだとき、父親はDVで出産前に別れてしまい、母の細腕一つで育てたのに、アキは屈託無く成長していったのです。
 そんなある日、約2年間、海外放浪の旅をしていたヤグが突然帰国。アパートで2年ぶりの共同生活が始まったのでした。
 実は、ヤグとは学生時代からのバンド仲間。15歳の時、自分が父親ではないハツキを身ごもっていたアキに結婚を申し込み、家族同様に暮らしてきたのでした。ヤグはハツキとアキに愛情を注ぎ、アキはヤグを面白がることで、まるで本当の家族のような関係が成立していたのです。ヤグは自分の言動を何でもロックッンロールで説明づけてしまうけど、そんな単純なものでなさそうです。実際にヤグとアキの関係は、単なる男女の関係を超えた、同志的な連帯感を強く感じられました。血のつながり以上の絆が、3人を強く結びつけていたのです。
 ところが、放浪から戻っても相変わらず自由奔放な性格のヤグと、働きもしない彼を明るく笑い飛ばすアキの2人を、ハツキは許せず、イラついてしまうのですね。非常識な大人に囲まれて育ったハツキは、年頃に似合わず常識を重んじるしっかり者に育っていました。反面教師のごとく振る舞う大人たちを見て、ついついだめ出しをして反抗してしまうという気持ちはわかります。ただそこには、父親を知らずに育ったハツキに断りもなく置き去りにして、勝手に放送の旅に出かけれてしまったヤグへの、甘えたかった気持ちも込められていたのではないでしょうか。

 ここで解説すると、大泉洋が演じるヤグは何事もテンション高めのウザイ存在なんですね。観客が見ても生理的な不快感を禁じ得なくなるのは、ハツキの視点でヤグを観察しているからなんです。ハツキは親友のトモにヤグの言動をいちいち報告します。その関心の高さをを察すると、ホントはハツキはヤグに愛されたいんだという気持ちがバレバレなんですね。ハツキというフィルターを通してヤグを描くところが演出としての巧みさを感じました。

 そんな中、ハツキの親友トモがハツキとけんかしたまま転校してしまいます。自分がヤグにカリカリしていたばかりに親友の大事な転校の打ち明け話を聞いてあげられなかったことにショックを隠せないハツキでした。後悔するハツキの気持ちがこもっていて、なかなか心の迫ってくるいいシーンでした。

 ある日担任が当然家庭訪問に訪れてアキに、ハツキが進学しないつもりだと伝えます。担任は進学を熱心に勧めるものの、アキはきっぱりと大人が決めたレールを行くのではなく、自分の将来は自分で決めるべきだと言ってのけるのです。

 そんな親心を露とも知らないハツキは、自分のことなんかよりもヤグに向いているんだ。自分は邪魔存在なんだとアキに対して反抗心を募らせます。その言葉を耳にしたヤグがあり得ない行動に出るのです。アキをなじった言葉に切れたヤグは、ハツキをビンタに。傷ついたハツキは家を飛び出してしまいます。でもね、きっとハツキはヤグに父親としての存在感を感じてしまったことでしょう。

 ハツキを探し出したアキは自分とヤグの過去を話すことに。そしてハツキの名付け親がヤグだったことも明かします。それは親としてというより人生の先輩としての愛情がこもっていてグッときました。
 劇中では語られなかったのだけど、たぶんハツキは片親で育ったことがコンプレックスに感じていたことでしょう。自分の孤独を誰にも言えず心の奥にしまい込んでいたのではないでしょうか。サヨナラも言えなかった親友トモやアキやヤグの思いを知ったハツキは、愛されていなのではなく、いつも大きな愛に包まれていたことを悟るのですね。これはとても大切なことです。心の中のコンプレックスを退治するのには、競争に勝つことではなく、愛されている感覚なんですね。人はチョットしたことで、重要な人から愛されていないという錯覚を持ちがちです。でもどんなに孤独な人でも誰かに愛されてきたからこそ、今があるはずなんですね。愛されいたことに気付けば、コンプレックスが吹き飛んで、本来にやりたかった目標に向けて、心の主力エンジンが点火されることでしょう。
 そんな精神面で成長するハツキの気づきに感動しました。でも、結局ヤグは変わらないまま(^^ゞこんなことでいいのかなと思っていると、納得のラストシーンが用意されていましたのです。ラストでヤグの伝説のバンドが復活して、かっこいいところをハツキに見せ付けるのですね。

 とにかくヤグに没入して弾けまくった大泉洋はもう雰囲気ぴったり!そして、ライブシーンも実にそれぽっく演じていて、散々頼りなさそうな姿を見せ付けたヤグのイメチェンぶりが素晴らしいのです。意外や意外で麻生久美子もギターを猛練習した結果、なかなかクールに弾きこなして、様になっていました。この時、麻生は妊娠していたとかで、母親としての優しさも滲み出ていたと思います。

 特筆したいのはハツキを演じた三吉彩花。多感なハツキの気持ちを繊細な演技でよく演じていました。またカメオ出演ながらフリーマーケットの店番役でさりげなく登場する土屋アンナが抜群の存在感を放っていたのです。

 麻生と大泉と三吉が本当の家族のようにはまっていて、見ているだけでハートウォームになってくる作品でした。何気ない家族ネタをここまで引っ張って感動ドラマに料理してしまう山本監督の手腕はなかなかのものだと思います。

流山の小地蔵