■海炭市にある造船所の一部が閉鎖され、大規模なリストラが行われた。
颯太(竹原ピストル)は職を失い、妹の帆波(谷村美月)と二人で年越し蕎麦を食べ、大晦日の夜を迎えた。
年が明けて、颯太と帆波は初日の出を見るために函館山に登ろうと思い立ち、なけなしの小銭を集めて出掛ける。そして、二人は水平線から上がる初日の出を見る。
◆感想
・ご存じの通り、今作の原作となった短編集を書いた函館市、出身の佐藤泰志は芥川賞に5度もノミネートされながら受賞に至らず、僅か41歳で自死した方である。
だが、41歳で芥川賞に五度もノミネートされたという事は、佐藤氏の確かなる文芸の力量を示している。
・今作は、そんな佐藤氏の想いを汲んだ函館市民が発起人として製作された作品であり、今作後、「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」で、佐藤氏の世界観は世に認められたのである。
ー 私は、恥ずかしながら佐藤泰志の存在すら知らず、劇場で「オーバー・フェンス」を鑑賞し、ガツンとヤラレタ者である。-
・今作は、佐藤氏の短編を今や邦画を代表する熊切監督が絶妙に繋いで、函館に住む社会的弱者の方々の視点でその生き様を描いている。
・どのパートも切ないが、幾つかのパートでは、微かなる未来が描かれる。
<今作を観ていると、志半ばで命を絶った佐藤泰志の無念が伝わって来る。だが、この方の作品は読めば分かるのであるが、常に絶望の先に僅かなる未来への想いや光が描かれているのである。
故に今作は、観ていてキツイシーンが多いが、魅力的な作品なのである。
唯一、違和感を抱いた点は、ガス屋の若社長(加瀬亮)が、自らの屈託を妻に対して暴力を振るうシーンである。
男であれば、女性に手を挙げるのは如何なる理由があれども言語同断だと思っているので、あのシーンは必要なのかもしれないが・・。
ラスト、立ち退きを市から催促されながらも、抗う老婦人が愛猫の毛を優しく撫でるシーンは秀逸であった。>