「実にたくさんの「自分」を持っている」奇人たちの晩餐会 USA えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0実にたくさんの「自分」を持っている

2023年5月17日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

投資顧問会社で働くティムはひょんなことから千載一遇の昇進チャンスを得る。その条件とは、社長が開く晩餐会に奇人を連れて披露することだった。

アメリカンコメディの真骨頂であると同時に、実は結構、哲学的な示唆が盛り込まれている良作。

象徴的なのが、ティムと恋人のジュリーが口げんかをするシーン。「あなた、いつからそんな風になってしまったの?」とジュリーに問われティムはこう答える。

「君と居る時の自分と、君と居ない時の自分がいて、君と居ない時の自分であくどい事をやってるからこそ、君と居る時の素敵な自分を創り出すことができるんだ」

僕らは、ティムの言うとおり、実にたくさんの「自分」を持っている。それは多様化した社会の要請のひとつだと思うし、そうでなければ生きることはとても大変だ。

一方で、本作に登場する奇人たちは、ある意味で極めて一面的だ。相手が誰であろうと、状況がどんなであろうと、愚直なほど言行がブレない。

そこがたぶん奇人たる所以であると思うし、金融業界の勝ち組たちは、そんな一面性・不適合性を嘲笑するのだろうが、根源的に不幸なのは果たしてどちらなのだろうか。ただのコメディだけれども、とてもメタファに満ちた作品だった。

えすけん