劇場公開日 2011年8月6日

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「生き残った人への労いの言葉にも聞こえる「あんたはなんで死なないんじゃ!!」」一枚のハガキ マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生き残った人への労いの言葉にも聞こえる「あんたはなんで死なないんじゃ!!」

2011年8月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

幸せ

不思議な映像である。
友子が留守を預かるのは貧乏な農家で、畳の代わりにムシロが敷き詰めてある。自分が子供の頃も、まだそんな農家があった。ところが、この映画のムシロは小綺麗で、襖も障子も破けたところがない。友子が着ている藍染めも、むしろおシャレだ。
違和感を憶えつつも、この作品がリアリズムを追ったのではなく、その時代を様式美で描き、戦争なんてバカなことだと笑い飛ばす作品だと理解する。

長男、定造の出兵と戦死、続けて次男、三平の出兵と戦死。茅葺きの家をバックに繰り返される描写は不謹慎にも笑ってしまう。だが、これこそ98歳の新藤兼人監督の戦争への怒りの裏返しであり、戦争の無益さを嘲笑った表現ととれる。

「あんたはなんで死なないんじゃ!!」友子の怒りは、小さな村で懸命に生きる家族の叫びであり、戦死した人は誰もが大切な人を持っているということを改めて訴える。そしてこの叫びが、生き残った人に対する労いの言葉にも聞こえるから不思議だ。

友子を巡って、村の顔役、吉五郎と啓太が殴り合うシーンも面白おかしく描かれ、どうだ平和っていいもんだろうと監督が微笑んでいるかのようだ。

狭い畑が、黄金色に染まった麦の穂でいっぱいになる画面は、往年の名作「ひまわり」を髣髴させる。「ひまわり」もまた戦争に翻弄されながらも強く生きていく女の物語だった。

ユーモアを交えながらも、気迫のこもった演出で、たった一枚のハガキに込められた夫婦の情愛と、あらたな人生の門出が描かれる。

マスター@だんだん