劇場公開日 2011年3月12日

「野望編の疑問が解けて、クグッと作品にのめり込むことが出来ました。但し『前夜編』は必見です。」SP 革命篇 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0野望編の疑問が解けて、クグッと作品にのめり込むことが出来ました。但し『前夜編』は必見です。

2011年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『野望編』のレビューでは、子飼いの部下にわざと重傷を負わせる尾形の気持ちが分からないことに、大ブーイングを書きました。そして、予告編で示された国会ジャックという形の革命行為についても、現実性のない映画のストーリーのための茶番だと決めつけていたのです。
 『革命編』を見て、それが誤解であったことが分かり、見方を変えました。けれども本気で井上に銃を向けて、殺そうともする尾形の気持ちに疑問が残ったのです。きっと皆さんも映画だけ見たら、何となく消化不良になることでしょう。現に試写会を見終わった人たちが、口々に先週土曜日に放送した『SP 革命前夜編』を見なくちゃと言い合っていました。実際に前夜編で、ほぼ完璧に尾形の心の動きが手に取るように分かり、やっと得心できました。

 映画としては、国会がジャックされる過程のスケールが半端でないスケールで描かれています。そして、前作以上のスピード感に満足できました。試写会場では、珍しく大きな拍手に包まれたほどです。
 そして、ストーリーとしても、尾形の動機とか行動の謎をあえて伏せてきたことで、最後まで意外性を持たせて、観客を驚かせてくれました。事件の黒幕には裏の裏があるという複雑なドンデン返しを潜めて、これまでのテレビシリーズから描かれてきたあらゆる伏線が一つにつながり、驚愕の真相につながっていくのです。
 また今回もアクションシーンで、岡田はたっぷり見せてくれます。今回は、国会をジャックしたテロリストや尾形と激しい肉弾戦を披露します。さすがにフィリピン武術「カリ」を習得し、現在は師範級の腕前というだけに、岡田が敵の首や関節を徹底的に絞り上げるところでは、見ている方も力が入りました。

 ということで、『野望編』よりも、エンターティメントとして完成度の高い内容となっています。

 『前夜編』を見逃した人のために、ネタバレしておくと、結局尾形は、最後まで決行に迷いがあったのです。彼の弱点は、この決起が国家を改革するという公憤ではなく、父親を殺されたことに対する復讐という私憤の気持ちも強く持っていたことです。

 SPとして部下に常々教育してきた要人警護の精神に加えて、罪もない部下や善良な市民も犠牲にしてまで、自分は復讐をやり遂げる正義はあるのかと密かに逡巡していたのだと思います。だから、事件当日他の首謀者たちに気付かれることなく、井上ら4係のメンバーを急遽国会の要人警備に配置換えし、また井上の机には、遺言状のような手紙を密かに忍ばせたのです。

 国会をジャックして政変を謀る計画なんて、一見あり得ない話に見えます。しかし、そこに尾形の総理への個人的復讐が絡むことで、俄然現実味が帯びてきました。
 そして尾形を猿回しの猿として、遠隔操作する若手官僚の同窓組織の存在。彼らのネットワークが、事件の発覚を防ぎ、革命のお膳立てを作り上げたのです。
 尾形の指揮する実行犯の「活躍」ぶりを、ワインで祝杯を挙げながら、観戦する官僚たちの態度には、腸が煮えくりかえる思いでした。
 きっと現実の官僚たちも、暴力は使わないものの、あらゆる知謀で国会をジャックして国政をわがもののにしていることでしょう。その点で、本編の革命行為は、2.16事件に似ています。政治の腐敗に決起した若手将校たちの反乱により、結局は戦争反対する自由主義の政治家の多くが粛正され、一気に日本は独裁型の政治に傾いていったのです。
 尾形の主張に賛同したSPや警察幹部たちも。その正義感は手玉に取られることになりました。国会を武力で制圧して、記事堂にいる国会議員の誰もが怯んで沈黙しているなかで、総理と伍して、彼らを雄弁に叱り飛ばす政治家がいたのです。歴史はいつもヒーローを生みますが、ヒーロー転じて独裁者になってしまうことが往々にしてあります。まさに、ここで正義漢ぶって尾形たちを叱り飛ばす人物こそ、一番のワルであり隠れた黒幕であったのです。なんとその黒幕は、尾形を操る官僚たちをも手玉にとって、出し抜き、ひとり生き残るのです。
 政局が不安定な昨今。こんな突飛なストーリーもあながちあり得ないことではないと、悪寒が走りましたねぇ。

 さて、見所は尾形と井上が直接バトルするラストだけでなく、中盤の国会での攻防戦も見応えたっぷりでした。国会の要所に爆弾仕掛けられ、屈強なテロリストが警備に当たるという完全に遮断されたなかを、4係の僅か4人は議事堂の突入目指して、突破していきます。その途中では尾形が仕込んだSPの別班が、彼らを急襲するのです。そこを何とか切り抜けて、警備に当たるテロリストをやっつけるシーンが痛快です。まともにいったら多勢に無勢。奇襲を仕掛けるのですが、そこら辺の文房具を集めて、画鋲や紙テープでトラップを作り上げてしまうのが何ともユニークでした。
 緊張のなかにも。毎度お馴染みの笑いを取るシーンも健在です。敵の確保にも井上は手錠を忘れて、慌てて同僚に借りようとするところは、何度見てもおかしいです。また『前夜編』でもたっぷり見せつけてくれた笹本のツンデレぶり。『革命編』では、突入を前にびびった山本が、笹本にもっと叩かれたかったと告白すると、『ああもっと何度でも打っ叩いてやるよ』とサドっぽく啖呵を切ったのに対して、山本がじゃあもっとぶってくださいとマゾっぽく答えるところが、面白かったです。
 そして尾形側についたSPチームに遭遇したとき、井上がSPの精神をこんこんと説いて、彼らを武装解除するシーンは、なかなか感動的でした。

 最後に、これで最終章というと納得できません。あの黒幕の断末魔を見るまで、続編を期待したいですね。

流山の小地蔵