劇場公開日 2009年10月31日

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母なる証明 : 特集

2009年10月30日更新

ポン・ジュノが遂げた“深化”の必然性

「母と息子の愛」を描き新境地を開拓
「母と息子の愛」を描き新境地を開拓

殺人の追憶」「グエムル/漢江の怪物」のポン・ジュノ監督が、3年ぶりとなる長編映画「母なる証明」を発表した。自ら原案、脚本を手がけたオリジナル作品に、国民的女優キム・ヘジャ、兵役を終えて5年ぶりの映画出演となるウォンビンをキャストに迎えた同作は、第62回カンヌ映画祭ある視点部門に出品され、各国ジャーナリストが絶賛。韓国では、公開10日間で観客動員200万人を突破する大ヒットを記録した。(文:編集部)

■本質的なものを掘り下げて撮りたかった

これまでのポン監督は、韓国の歴史的・社会的な現実を考察し、風刺する作品の製作に傾倒してきた。しかし、2004年に「殺人の追憶」撮了後に構想を練り始めたという今回のテーマの主軸は「母と息子の関係」。殺人事件の容疑者として逮捕された息子の無実を信じる母親が、四面楚歌の状況に苦しみながらも真犯人探しに奔走する姿を描く。普遍的ともいえるテーマに執心したのは、「単純で本質的なものを掘り下げる作品を撮ってみたかった。母親というテーマはすべての源となる原始的なものだが、最も身近な存在である母親の極限の姿を映画的にとらえてみたいと思いました」と説明する。

■血となり肉となった母親の存在

殺人犯に仕立て上げられていくウォンビン
殺人犯に仕立て上げられていくウォンビン

そしてまた、母親の象徴ともいえるキム・ヘジャの存在が、「母なる証明」という作品の血となり肉となっていった。国民的女優の心理的な激しさや感情的な繊細さという、秘めたる“渇望”をいち早く察知したポン監督の先見性が、同作の肉付けを突き動かしていくことになる。オファーから完成までの5年間という歳月も、キム・ヘジャの破壊的な力を躍動させる要因のひとつになった。

キム・ヘジャの映画主演は、「マヨネーズ」(99)までさかのぼる。ポン監督は、「私が生まれる前から活躍している大女優です。彼女の息子さんよりも若い私が、『どうか一緒に映画を作ってください』とお願いする姿をかわいいと思ってくれたのではないでしょうか」と、どこまでも謙虚だ。それでも、「彼女は大女優でありながら、新しいことを求める気持ちがとても強い人。脚本を読んで『これまでいくつもの母親を演じてきたけれど、この母親はまったく違う』と興奮してくれた」と自らの“読み”が的中したことに胸を張った。

■ウォンビンの登場が奏功

キム・ヘジャとウォンビンは初顔合わせ
キム・ヘジャとウォンビンは初顔合わせ

ウォンビンの起用も、ポン監督の頭の中では脚本段階からあったそうで「母親の内なるエネルギーをいかに爆発させられるかというカギは、息子がどんな人物であるかにかかっていた」と述懐。そして、2人の顔合わせが実現したレストランで、全てのピースがそろってパズルが完成。脚本ができあがる3カ月前だったというが、「(そこに現れた)ウォンビンを見て『(役名の)トジュンが来た!!』と思った。それに、彼とキム・ヘジャさんの眼差しがとても似ていたので、本当に親子に見えたんです」と思わぬ波状効果も生んだ。

撮影中に役名で呼び合うほど“親子”になりきった主演の2人を得て、ポン監督が本領を発揮。“暗さ”をいかにして表現するかに強いこだわりを見せ、「ほかの映画で描かれる夜よりもさらに暗く、暗やみの果てに何があるのか気になるような暗さ」を目指した。昼間の日常的なシーンでも、空間がかもし出す暗さを演出。クライマックスへと向かうなかで、いよいよ暗やみから真相があぶり出されてくる。「事件の起きた細い道は、“暗やみの心臓部”ということになる。いかにして暗やみを細かくとらえていくのか、撮影監督と話し合いながら撮影をしていきました」。

こうして、すべての人間関係の基本ともいえる「母と息子」の話が、果てしない悲しみをたたえた人間ドラマへと昇華。殺人犯に80年代の韓国を、怪物に家族とアメリカを語らせてきた鬼才が、平凡なものと向き合ったからこそ生じた必然。それは、見逃してしまいそうな暗やみの中に横たわる“深化”かもしれないが、ポン監督にとっては確かな手ごたえとして強い実感を残していることだろう。

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