母なる証明 : 映画評論・批評

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母なる証明

劇場公開日 2009年10月31日
2009年10月20日更新 2009年10月31日よりシネマライズ、シネスイッチ銀座、新宿バルト9ほかにてロードショー

一瞬たりとも油断のできない映画。謎のショットが必然的なショットになる

文章に味があって、話も面白い小説を読んだ気分がする。「母なる証明」を見て、私は最初にそう感じた。が、これでは言い足りない。この作品の「映画的豊饒さ」には、文学を語る際の形容が当てはまらない。

まずなによりも個々のショットの粒立ちが素晴らしい。加えて、物語の流れに、なんともいえぬコクがある。細部の豊かさが、映画の全身を循環する血液のように行きわたり、一瞬たりとも脈動が止まない。いいかえれば、「母なる証明」の登場人物や風景は、全篇を通じて呼吸しつづけている。

主人公の母(キム・ヘジャ)に名前はない。登場人物全員が、彼女を「お母さん」と呼ぶからだ。母には、障害のある息子(ウォンビン)がいる。息子は女子高生殺人事件の容疑者として逮捕される。母は事態を受け入れない。息子の無実を信じて、雲に覆われた町や土砂降りの通りをひたすら歩く。

ただ、その様子がちょっとおかしい。無償の愛情とか不屈の闘志とかいった言葉では間尺に合わない微妙な音程の狂いが、母の言動の節々から立ち上がりはじめている。

監督のポン・ジュノはここで周到な網を張る。記憶という迷宮が否応なくはらんでしまうずれや勘違いが、話を展開させるエンジンとなるからだ。一見脈絡がないように思われたショットは、「あ、そうだったのか」という納得の種子になる。「パボ(馬鹿)」という言葉や、少女の鼻血や、太腿の内側に刺される鍼は、ひとつひとつが迷宮の扉を開く鍵の役目を負う。だから、この映画は一瞬たりとも油断できない。謎に包まれたショットも、あとで考えると、すべてが必然的なショットとして機能しているではないか。この発見は観客の快楽だ。ならば、映像に眼を凝らし、音声に耳をそばだてよ。快楽を得るための入場料は、そんなに高くないはずだ。

芝山幹郎

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