劇場公開日 2009年10月31日

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風が強く吹いている : インタビュー

2009年10月23日更新

林遣都が、スポーツ青春映画からの寵愛を受け続けている。「バッテリー」(2007)の野球を皮切りに、「ダイブ!!」(08)の飛び込み、「ラブファイト」(08)のボクシングと続き、最新作「風が強く吹いている」(10月31日公開)では駅伝のステージに満を持して登場。トレーニング段階で見せた有り余る才能で大学陸上界を騒然とさせた林が、走ることで得たものは何だったのかに迫る。(取材・文:編集部)

林遣都 インタビュー
孤高になりきることで手繰り寄せた“代表作”

スポーツ青春映画の申し子
スポーツ青春映画の申し子
時おり垣間見させる無邪気な笑顔
時おり垣間見させる無邪気な笑顔

林扮するカケルは、順当にエリート街道を歩めばオリンピック出場も夢ではないほどの期待を一身に浴びていた、“元”日本陸上界の至宝。高校時代に勝利至上主義を厳命する監督を殴ったことで、表舞台から姿を消してしまう。しかし、大学入学後も習慣化していたランニング中に出会ったハイジが、カケルを暗やみの中から否応なしに引きずり出す。林は、カケルの鬱屈した役どころについて大森寿美男監督と入念に話し合ったそうで「本来、普通に笑って怒って悲しむ性格なのに、あの事件を契機に周囲を寄せ付けなくなってしまった。本当は人が好きだし、できれば色々な人と一緒にいたいと思う、どこにでもいる男の子なんです」と演じるうえでの着地点を見出した経緯を語った。

■天才の考えることは分からない

カケルが入寮した「竹青荘」には、基本的に上下関係が存在しない。体育会系の世界しか知らなかったカケルは大いに困惑するが、初めて味わう“自由”が心の傷を癒していく。と同時に、箱根駅伝出場を本気で目指しているようには思えない仲間たちへの苛立ちはピークに達し、厳しい言葉を投げつけてしまう。

林は眉間に皺を寄せながら、「基本的に、天才の考えることはよく分かりませんね(笑)。カケルだって天才と呼ばれる前の過程があったはずなのに、誰にも負けない実力を身に付けたとき、何であんなにきつい言葉を投げかけてしまうんだろう? という疑問が生まれましたね」と自らの役どころを必死に理解しようとした痕跡をのぞかせた。

大学陸上界垂涎の的
大学陸上界垂涎の的

■立命館大コーチからのスカウト

林を含むメンバー全員には、劇中同様の厳しいトレーニングが課せられた。合同合宿では走りに走り、クランクアップまでの合計走行距離は容易に東京-箱根間を往復するまでに及んだ。その中で、数々のスポーツ映画の撮影で鍛えられた林の驚異的な身体能力は、練習に参加した大学のコーチからの注目を浴びることになる。「立命館大学のコーチから『うちに来ないか?』と誘われました。『ダイブ!!』で飛び込みをやったことでバランス感覚が相当鍛えられたんです。あれ以来、どんなスポーツをやっても怪我をしなくなりましたから。ただ今回は、最後の最後で牡蠣にあたってノロウィルスにやられてしまったんです。あのときは、みんなに迷惑をかけてしまいましたね」と振り返る。

“寛政大学陸上部”で最年少(撮影当時19歳)の林にとって、年長者9人の部員と最も密接に絡み合う瞬間があるとすれば、同作の準主役といえる襷(たすき)の存在を無視できない。「なんだかんだと言っても、映画の襷ってしょせんは小道具なんですよ。だけど、小道具さんが粋な演出をしてくれて、毎日同じ襷を使うんです。しかも早朝に使うときでもベトベトで(笑)。みんなの汗がにじんだ襷を見て触ると、すごく気持ちが入りましたね」といとおしそうに微笑んでみせた。

物語が佳境に近づくにつれ、用意されたシナリオ以上の高揚感がスクリーンを満たしていく。林はカケルの魂が乗り移ったかのような“激走”を続け、10区アンカーのハイジが待つ鶴見中継所に向かって“風”になる。「沿道のお客さんの声援が雑音に感じるくらい集中できました。天才のカケルにとって、1人で走っているときが1番心地いいと感じているはずなんです。その気持ちに近づけたんじゃないかと思います」と話し、心身ともに孤高の存在になりきった瞬間に思いを馳せた。

もう走りたくない!
もう走りたくない!

■僕の代表作といえる作品になった

さらに、「僕にとって理想的な考え方を持つ面白くて格好いい存在」と言い放ち、兄のように慕う小出恵介の存在が、林の意識を1ステップ上のレベルに引き上げた。「出演するにあたって大森監督から『この作品を君の代表作にする』と言われて、変わったことを言う人だな……と思ったんです。でも、僕自身がこれまで出演してきた作品を振り返って常に後悔してばかりいました。そういう状態の中で、この作品は周囲の評判がとにかくいいから少しだけ自信になりました。この映画にかかわったことで、僕の代表作と言える作品になったのかな」と言葉を選びながら真摯に手ごたえをかみ締めていた。

次回作は、吉田修一の人気小説を行定勲監督が映画化する「パレード」(2010年春公開予定)。くしくも小出との再共演が実現する同作だが、敬愛する“兄”は「戦友であり、ライバル。プライベートでも仲が良いけれど、お互いを刺激しあう関係」と林を同じ目線で見つめている。若手俳優2人が相乗効果をもたらしたとき、どんな新風を巻き起こしてくれるのか目が離せない。

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