劇場公開日 2008年2月9日

「成し遂げられるだけの理由がある。」潜水服は蝶の夢を見る いきいきさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0成し遂げられるだけの理由がある。

2008年11月19日

泣ける

笑える

悲しい



 もちろん応援することも、希望を感じさせることも大事だろうけど、
 どんな過酷な状況に居ようとも「希望を捨てるな!」と声高に叫ばないで
“現実”を描いているところが素晴らしい。

 左目の瞬きだけしか出来ない人間が、
 知識と経験を総動員し想像力を発揮して、本を執筆する。

 そんなこと僕には到底無理だろうし、出来ても陳腐な詩ぐらいが関の山。
 そういう意味では、導入からすんなりと入っていける美しい描写で、
 彼の経験を体験しているような錯覚に陥るようであるのに、
 これは“持っている者”のお話だと言い聞かせて観てもいる。

 そして、忘れてならないのが、
 ジャン=ドミニクはELLEの編集長だったということ。
 凡人どころか、才能溢れる人物であり、
 そこに到るには相当な努力もあったであろうし、
 その結果として人生を謳歌していた人物であり、
 全ての人がこの作品の主人公のように医師や理学療法士、
 言語療法士から受けているような
 好待遇を得られるわけじゃないでしょう。

 それなりの“モノ”を持っていたと思うのが当然で、
 セリーヌや子供たち、友人たちに愛情が全くないとは思わないが、
 父親や恋人のイネスが取った行動の方に強い愛情を感じてしまう。

 ジャン=ドミニク自身にもそれはよく分かっていたのだろう。
 だからこそ、重たい潜水服に身を包み
 海の底に沈んでいくような感覚にもなるし、
 それでも目の前の献身的な人々を見て、そんな中にいたくはないと、
 蝶のように想像の翼を羽ばたかせ、
 世界を旅する気持ちにもなるのだろう。

 実話を美化することなく、
 丁寧に彼が見たであろう光景を繊細に再現しようとする映像も、
 想像したであろう世界を幻想的に描いた映像にも惹き付けられ、
 男の“欲”を排除しない視線の動きにも、
 ユーモアや毒を吐くことを忘れないモノローグにも、大いに共感し、
 それでも最大限の敬意が感じられる作品で、肉体的にというだけでなく、
 似たような状況に遭遇したその時に、
 思い出したい、ヒントにしたい作品。

いきいき