劇場公開日 2008年9月6日

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「何もかも捨て、温もりを感じ、実感する。」イントゥ・ザ・ワイルド いきいきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5何もかも捨て、温もりを感じ、実感する。

2008年9月8日

泣ける

悲しい

幸せ

アラスカへの旅路で出会った人々との触れ合いに、
 頭デッカチの青年なら知っていたであろう至極簡単で、
 当たり前の辿り着いた結論に、実感し、体感し、
 噛み締めたであろう青年のラストに、結末は分かって観てるはずなのに、
 魂が揺さぶられる。

 裕福な家庭で育ち将来を約束された青年が、
 自由を求める旅路で目指したのは、
 美しくも厳しい孤独な大地アラスカであった。

 僕は俳優としてのショーン・ペンが好きであるが、
 嫌いだとしてもこの監督作品は多くの人に観て欲しい。
 僕はショーン・ペンの監督作は初めてでしょうか。長編は初めてか。
 監督としてのショーン・ペンもこの作品を観て、分かっている結末なのに、
 そこへ到る人間ドラマとしてのストーリーテリングの巧さに、
 僕は好きになってしまった。
 当然原作の 荒野へ は未読であります。
 その 荒野へ を2時間28分という長さで映画化しているが、
 アラスカで悲劇の結末を遂げた青年の旅の様子と、その真実に迫るが、
 監督の考える真実に迫るが、長さを全く感じさせないのは、
 アラスカの壮大な光景が青年の想いとかぶさり、情景描写の美しいこと、
 そして、切ないことと言ったら、魅入ってしまい、
 惹き込まれてしまっていたからか。

 1990年、裕福そうな家庭で育ち、優秀な成績で大学を卒業し、
 卒業祝いに新車をプレゼントしようとした両親の申し出を断り、
 有望視されていた将来を捨てたクリスは、
 何も家族に告げることはなく中古のダットサンで旅に出る。
 しかし、それはオボッチャマの生ぬるいような自分探しの旅などではなく、
 徹底していた。
 慈善団体に貯金は全額寄付をし、IDもクレジットカードも切り刻み、
 しばらくの間は両親に気付かれないように用意周到で、
 途中では乗っていた車も捨て、持っていた現金も焼き、
 名前すら捨ててまさに体ひとつで
 相当な覚悟を持っての彼の求める真実への旅。
 そして全てを捨てて2年の放浪生活の末に、真実を求め、自由を求め、
 幸福に憧れ、アメリカ中西部を放浪して、多くの出会いを経験し、
 1992年に目的地としていたアラスカに辿り着き、
 辿り着いたアラスカで早すぎる結末を迎える。
 それは多くの人々の関心を集めて、
 アメリカでは大々的に報道されたらしい。
 ショーン・ペンも原作を読み刺激を大いに受けたようで、
 なんとか映画化しようと10年の歳月を費やし、
 自ら脚本を手掛けて出来上がった作品であり、
 監督の想いが込められている作品に仕上がっており、
 ビシビシと伝わってくる。
 構成としてはアラスカでのシーンと、
 出発地点となる2年前の大学卒業シーンから、放浪の過程を交差させて、
 徐々にアラスカに到る過程が見えてきます。

 モノが溢れている現代。情報が溢れている現代。
 そんな社会へ違和感を持ち、序盤では薄々としか分からなかった
 明かされていく両親の姿に、そんな両親への反発もあったであろう。
 成績も優秀で、本からの流用で語ることが多かった青年には、
 おそらく頭では分かっていたであろう。
 しかし、彼にはそれをうまく処理することが、
 うまく受け流すようなことは出来なかったのでしょう。
 だからこそ、もっと大切なものがあるはずと、アラスカの荒野へ向かい、
 孤独に向き合おうとした。
 そのアラスカへ辿り着くまでの出会いは、
 孤独な彼に大きな意味をもたらしたであろう。
 厳しい現実を体験しながらも、
 アリゾナ、カリフォルニア、サウスダコタと移動を続け、
 ヒッピーのカップルと出会い、陽気で頼もしい兄貴のような人物と出会い、
 ヒッピーが集まるコミューンでは彼のことを想ってくれる少女に出会い、
 そして、年の差はあっても友人のような仲になった老人と出会い、
 それでも、色々な生き方の人々と出会って、
 温もりを感じたであろうけども、アラスカを目指した彼は、
 多くの出会いによって、辿り着いた真実に、更に実感したであろう。
 彼は闘い続けた。反発し続けた。
 生きること、死ぬことへ真摯に向かい合った。
 誰もが出来ることではない。だからこそ、この作品で体感して欲しい。
 映し出される映像は、美しいだけでなく険しさを見せ、厳しさを見せ、
 絶望を見せる。そして、観客に問いかけているようでもある。

 両親役のマーシャ・ゲイ・ハーデンとウィリアム・ハートの変貌振りも、
 要所で語りを担当する妹役のジェナ・マローンも、
 ヒッピーのキャサリン・キーナーの母親のような演技も、
 陽気な兄貴のヴィンス・ヴォーンも、
 想いを寄せる少女のクリステン・スチュワートも、
 多くない出演時間ながらよさを見せていたが、
 やはり友人のような関係になる、
 老人を演じたハル・ホルブルックは素晴らしかった。
 崖を登る姿に、見送る姿に、泣かされた。

 主演のエミール・ハーシュは僕の中では、
 スピード・レーサーでの印象しかないので、この作品を観て、
 減量が凄かっただけでなく、役者魂に溢れた素晴らしさを見せていて、
 青年の繊細で壊れやすそうな心を表現している。
 ラストシーンでの彼の瞳は忘れられない。

 Happiness only real when ○○○○○○

 あなたは○に何を入れるでしょうか。

いきいき