イントゥ・ザ・ワイルド : 映画評論・批評

イントゥ・ザ・ワイルド

劇場公開日2008年9月6日
2008年8月26日更新 2008年9月6日よりシャンテシネ、テアトルタイムズスクエアほかにてロードショー

「アイ・ミス・ユー」と呟く陰で苛烈と寛容が激しく競り合っている

画像1 (C)MMVII by RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC
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一歩まちがえば、自己愛と自己破壊の葛藤を天秤にかけた話になる。もう一歩まちがえば、愚かな甘ったれの話になる。だが、そうはならない。見終えて思うのは、この映画を撮ったショーン・ペンの並外れた愛情の深さと、当人も制御できないほどの業の深さだ。

裕福な家庭に育ち、優秀な成績で大学を卒業した青年(エミール・ハーシュ)が、大学院の学費を寄付し、IDとクレジットカードを燃やし、ひとり放浪の旅に出る。

そこまではありがちな設定だ。旅の途上で青年はいろいろな人に出会う。これもよくある話だ。が、「イントゥ・ザ・ワイルド」はラディカルな映画だ。新鮮で痛烈で底の深い気配は一貫して衰えない。青年がくぐり抜ける風雨や太陽の感触を……彼が出会う人々の呼吸や肌合いを……観客は実感しつづける。

つまり、青年は「世界と直面」している。観客も、彼を通じて世界と直面する。あまりにも根源的で、通常なら思わず避けてしまいそうな体験だ。青年が漂流する世界の基底には、深い自然と深い人情が横たわっている。苛烈と寛容、残酷と幸福は、どちらも紙一重だ。ペンはそこに眼を据え、青年を神話のなかに閉じ込めたりしない。失敗を描き、救援を描き、幸福と不運と衰弱を描き、なおかつ青年の「勇気」を、むごい「宿命」よりも大きな字で明記する。声には出さぬが、ペンの唇は「アイ・ミス・ユー」の形に開かれている。

芝山幹郎

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