第9地区 特集: 【特別対談】芝山幹郎×滝本誠 その1

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第9地区

劇場公開日 2010年4月10日
2010年4月14日更新

昨年夏の全米公開以来、世界中の映画ファンから讃辞を浴び、ついには09年度のアカデミー賞で作品賞にノミネートされるに至ったSF活劇「第9地区」が絶賛公開中だ。eiga.comでは、本作鑑賞後、映画を見て久々に熱くなったという評論家・翻訳家の芝山幹郎氏と、評論家の滝本誠氏の特別対談を緊急企画。ありとあらゆる映画を見てきたベテラン映画評論家の2人が、この新種SFに興奮した理由とは? 本作の面白さを思う存分語り合っていただいた。(司会・構成:編集部)

※ネタバレの箇所もあるので、本編鑑賞後に読むことをお薦めします!

【特別対談】芝山幹郎×滝本誠

荒唐無稽さとリアルさが同居する南アフリカ・ヨハネスブルグの「第9地区」 荒唐無稽さとリアルさが同居する南アフリカ・ヨハネスブルグの「第9地区」

■一生懸命に工夫する活動屋根性

──芝山さんがえらく興奮しているということで、今回の対談を企画することになったのですが、最初に見終わっての印象はいかがでしたか?

芝山:なんという新鮮な映画か、と思いましたね。唖然とするような想像力で、ガッツもある。頭の芯が覚醒して、背中に一本真っ直ぐな軸を通されたような気分になりました。設定の基礎工事が念入りなことに加えて、細部が創意工夫に満ちている。しかも頭でっかちの映画ではなくて、怒りと笑いが充溢している。だから、スコーンと突き抜けた思い切りのよさが伝わってくる。画面を見ながらうなりましたね。久々に熱くなりました。

滝本氏がその年のベストワンに即決したという「スターシップ・トゥルーパーズ」 滝本氏がその年のベストワンに即決したという
「スターシップ・トゥルーパーズ」
Photo:Album/アフロ [拡大画像]

──「第9地区」の劇場用パンフレットに3000字の妄想を書き殴ったという滝本さんはいかがでしたか?

滝本:僕も芝山さんと同じように面白く見ました。面白く、なんて生やさしいものではなく、ぶっ飛んだ、といったほうがいいですね。宇宙船マニアとしては、今度の宇宙船の出来ばえを確認、といったような軽い気持ちでいったわけですが、とんでもない事故にまきこまれたような、とてつもない臨場感を覚えました。途中で豚が吹き飛ばされますが、一瞬、あの豚はどこにいたんだ?と思ったんだけど、そんなことはおかまいなしにあの豚に感情移入したね(笑)。パンフは奴らがナゼ来たかをめぐってのトンデモ系文章です。

芝山:あの豚はエビ(Prawn/プロウン=異星人たちの蔑称)の重力銃で撃たれるんですよね。ああいう発想の出てくるところが面白い。エビのDNAがないとエビの武器が使えない、という設定もいい。劇中でエビは差別されて虐待されているんだけど、実は知能が高いんです。ただ、本当に知能の高いエビは、地球に滞在している28年の間に大半が滅びてしまって、残っているのは働き蜂系のエビばかりなんですよね。

滝本:SF系でぶっ飛んだのは「スターシップ・トゥルーパーズ」以来かな。オバカなところも。

芝山:「スターシップ・トゥルーパーズ」の場合は、昆虫星人全体をつかさどる頭脳みたいな物体がラストに出てきたでしょう。あの、性器をくり抜いたみたいな形の。それがすべてをコントロールしているという発想だったけど、「第9地区」の場合は、個々のエビに知能がある。なかでも、なんで英語の名前なんだ?と突っ込みたくなるクリストファー・ジョンソンというキャラクターが光っている。息子のリトルCJともども、映画が進むにつれてどんどん親近感が湧いてきて、とても面白かったですね。

滝本:CJジュニアではなく、リトル。息子といわれてもスラムにチビはアイツだけしか見えない。キャンディを投げられて、投げ返して命中させるあたり、矜持がある。笑えた。ほかの連中はキャットフードにすぐ転んで矜持もへったくれもない。

芝山:カナダにいる監督の知人が、実際のエビ釣りの餌にキャットフードを使ってたのがヒントになったんだってね(笑)。それにしてもエビは頭がいい。英語やアフリカーンスをはじめとして、人類の言葉も理解するんです。一方、主人公のビカスたちも、28年付き合っているせいか、エビの言葉をさすがに少しは理解するわけです。僕ら観客は、字幕を見て納得するしかないんですけどね(笑)。

あと、とても面白いと思ったのが、人類もエビもものすごくよく喋るということ。のべつまくなしに喋っている。これは素晴らしい美点で、ちょっとタランティーノっぽいなって思ったんです。こういう映画って、特にアクションシーンになると言葉は要らないとされてしまいがちだけど、アクションの間もああだこうだと喋り続けている。しかも、英語、アフリカーンス、コーサ語が混じっててね。収容所の中にナイジェリア人のギャングがいるでしょ。あれがたしかコーサ語を喋ってましたよ。

滝本:あのくぐもった声は聞き取りづらい。母国では美声かもしれないけど。コーサ語? 初めて聞くな。

芝山:知ったかぶりついでにいうと、エビの言葉も、ズールー語とかコーサ語とかとサウンドが似てましたよね。そういったところが面白くて、つい耳をすましてしまう。絶対、吹替えにしちゃいけませんよ。あと、彼らが発するキーキーという音はカボチャを擦って出した音だそうですね。そういったディテールを一生懸命工夫してやっているところにも好感が持てます。活動屋根性があるというか。

■荒唐無稽なんだけどリアル

──アメリカではオスカーの作品賞にもノミネートされましたが、過去のSF作品の影響は感じましたか?

変身の過程が似ているクローネンバーグ監督の「ザ・フライ」 変身の過程が似ている
クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」
Photo:Album/アフロ [拡大画像]

芝山:宇宙船が浮かんでいるところは「地球の静止する日」からの引用でしょう。ビカスが変身していくところは、「ザ・フライ」からのいただきだと思います。爪が剥がれ落ちたり、歯が抜けたり。「ザ・フライ」では耳がポロッと落ちるところもあったでしょ。あの変身のプロセスが似ている。セスといいましたっけ、ジェフ・ゴールドブラムが演じたあの蝿男は。爪が剥がれたり、歯が抜けたりするというのは、やっぱり怖い。衛生博覧会じゃないけど、根源的に怖いものだと子供のころから刷り込まれているんじゃないかな。

滝本:でも、あの変身はある種の快感でもあるよね。これまでのボロボロになった古い身体が壊れて新しい生命が宿るわけだからさ。そうそう、エイリアンの顔が「ザ・フライ」似。と言うか、フライがそもそもハエ似というよりエビ似だったんだよ。

芝山:ビカスの場合は明らかにそうだよね。彼は、異物になることによってまともな人間に近づいていくということを、本能的に察知するわけだし。

滝本:変身した後は、重力銃とかの武器とかやりたい放題だったよね(笑)。

芝山:最後は「アイアンマン」になっちゃうしね(笑)。バズーカの砲弾を手で受け止めちゃったりして、ああいうところが可笑しい。まるでホッケーのゴールキーパーだった(笑)。ユーモアが不意打ちで出てくるんです。この監督はSFということはもちろん意識していただろうけど、基本的にはコメディを撮りたいんでしょうね。非常によくできた荒唐無稽です。空に浮かんだ宇宙船だって、格好良くいえば「巨大な雷雲」だけど、見方を変えれば「ばかでかいマンホールのフタ」ですからね。

滝本:もちろん荒唐無稽なんだけど、えらくリアルなものを見てしまったという感覚があるんだよね。本当に、エビ人は実在してもおかしくはないなというか。第9地区はどこにでもある。

芝山:もし実際にエビが地球に来たとしたら、南アに限らず、人類はたぶん同じようなことをやると思う。そこもこの映画のポイントで、「エイリアンが人類に対してなにをするか」ではなくて、「人類がエイリアンに対してどうふるまうか」が発想の基本にある。これが新鮮ですね。もうひとつ、ゼノフォビアというか、外人嫌いや異物嫌悪といった生理や反応に対して、監督のブロムカンプはものすごく怒っているんですよね。映画全体に、そういう怒りが真っ直ぐに出ていると思う。

「アイアンマン」を思い起こさせるエビのロボット内部 「アイアンマン」を思い起こさせる
エビのロボット内部
[拡大画像]

滝本:日本の空港では、出入国ゲートのところで外国人の渡航者への標識が「Alien(エイリアン)」だったでしょ。あれは日本だけだよね。いまはさすがになくなったけど。

芝山:そうそう。他の国では「Foreigners」か「Other Passports」になっている。

滝本:じゃあ、日本はとんでもない国と国民なんだ(笑)。1970年代、空港の役人はいばりくさっていた。あのとき、重力銃があれば。

芝山:もともと排他的なお国柄だよね。

滝本:日本が一番「第9地区」みたいなところなのにね。その昔、いろんな国からやってきた人たちの寄せ集めで。

芝山:にもかかわらず、日本以外が「第9地区」だと思っている(笑)。日本でブロムカンプのような発想をする監督が出てくれば面白いんだけど、出てこないんですね、なかなか。

>>【特別対談】芝山幹郎×滝本誠 その2

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