劇場公開日 2012年4月13日

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「『スターウォーズ』の既視感がマイナス要因。せめて前後編に分けてエピソードの断片化を防ぐべきでした。」ジョン・カーター 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0『スターウォーズ』の既視感がマイナス要因。せめて前後編に分けてエピソードの断片化を防ぐべきでした。

2012年4月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 見た感じは、『スターウォーズ』を小振りにした感じ。当初はパクリかと思ったほど要所で酷似しているストーリーやキャラ設定だったのです。それもそのはずで、原作はSFヒーローの原点となった名著。『スター・ウォーズ』が似てくるのは当然ですね。それだけでなく『アバター』の分身の概念が、既に本作で織り込まれていたのには驚きました。これらのプロットを全く白紙から築きあげたエドガー・ライス・バローズは、なんと想像力のたくましいSF作家だったのでしょう。
 ただ運の悪いことに『スターウォーズ』エピソード1が公開中の現在。どうしても比べてしまいます。比べると大銀河を舞台にした果てしない抗争と一つの惑星のなかの戦いを描いた本作ではバークボーンの大きさの違いが目立ちます。それと致命的なのは、内容が飛び飛びになっていること。原作の『火星のプリンセス』編にあたる本作でもエピソードは数多く、『スターウォーズ』なら2~3本の物量になっていたはず。本作もせめて前編・後編に分けて公開していたなら、展開上のアラが目立たなくなっていたものと残念に思います。

 そんな飛び飛びの場面展開で不満なところはジョン・カーターが家族を失う重要シーンがワンカットで処理されてしまうのです。彼が人にこころを閉ざしてしまう原因だけに、もう少し丁寧に描いた方が、もっとジョン・カーターの孤独な感情に感情移入できたでしょう。

 また死んだ妻に未練たっぷりのジョン・カーターと男勝りなヘリウム王国の王女デジャーが恋に陥る過程も、反発しあいながらも惹かれていく前半は良かったのですが、結婚を意識するまで気持ちが変わっていくところはあまりに急な感じがします。

 最後にジョン・カーターとヘリウム王国を助けるキーマンとなるサーク族ですが。その部族王タルス・タルカスが、娘のために王位を投げ捨ててでもジョン・カーターを助ける決断をするところもいきなり気持ちが変わったように見えてしまいました。
 また最後のソダンガ王国との決戦シーンで、サーク族も援軍に駆けつけるのですが、本来乗り物は苦手なアナログな部族なのに、なぜご都合よくヘリウム王国側のピンチに間に合わせることが出来るようになったのか、予定調和ではないかと思えるところがありました。

 それと全宇宙を支配しつつあるマタイ・シャンという存在も謎のままでした。なぜこの存在は宇宙を拡大し、文明を創造する実験を行いながら、頃合いを見て戦争を起こさせて自滅に導こうとするのか。本作の世界観を支配している存在だけにもう少し詳しいポリシーを説明して欲しかったです。

 さらに違和感を感じるのが、舞台となる惑星バスルームが火星であること。原作当時ならいざ知らず、天文学が発達した現代で、火星に高度な文明があることやそこへワープしたジョン・カーターが重力の違いにより、空を飛べるほどのジャンプ力を手に入れるなどちょっと常識外れな設定に違和感を感じてしまいました。原作に忠実に火星にこだわらず遠い銀河にある星にした方がリアルに感じられたのではないでしょうか。

 とはいえ巨費を投じているだけに、アクションシーンは見どころいっぱい。ジョン・カーターがバスルームで飛び跳ねるところとかソダンガ王国の飛行艇との空中戦シーンなどきっと3Dで見たらゾクゾクするくらいの飛翔感を味わえることでしょう。
 サーク族のコロシアムで、巨大なモンスター“大白猿”が二匹も登場し、ジョン・カーターと決闘するシーンも迫力ありました。
 また、ジョン・カーターの木枯らし紋次郎的なニヒルなキャラも魅力たっぷりです。この役作りのために体を鍛えたというテイラー・キッチュの肉体は筋骨隆々で、ジョン・カーターの超人的強さに、説得力をもたらしました。
 さらに王女デジャーを演じたリン・コリンズも、強さとセクシーさの二半する両面を好演しています。ダンガ王国の王子サブ・サンとの結婚式で見せる艶やかさは必見でしょう。

 加えて、ジョン・カーターに懐くサーク族のペット動物が何ともかわいいのですね。性格は「忠犬」そのもの。ジョン・カーターがどこに移動しようとも、捕まって連れて行かれても瞬時でそばに寄り添って離れようとしないのです。そんな忠犬ぶりがユーモラスで笑いも誘われますが、単なる添え物でなく、何度となくご主人様の危機を救う重要な役割も果たします。シリーズ化されたらきっとむ人気キャラになっていくでしょう。

 最後に本作は、常に地球と繋がっているところにも違和感を感じてしまったのでしたが、この設定が最後に思わぬドンデン返しにつながり、納得させられました。
 冒頭で大富豪となっていたジョン・カーターは急死し、甥のエドガー・ライス・バローズが突然遺産の全額を相続することになりました。そんなエドガーの元にもマタイ・シャンの魔の手が及びそうになっています。
 話はラストシーンに飛んで、王女デジャーと結婚を目前にしたジョン・カーターはマタイ・シャンによって地球に戻されてしまいます。地球と元妻への未練を断ち切ったジョン・カーターは、戻る手段だったメダルを投げ捨てていたので、バスルームに戻る術はありません。悲嘆に暮れるジョン・カーターは、洞窟で見つけた黄金を財力に徹底的にマタイ・シャンが地球の歴史に関与した足跡を探し、バスルームにワープするメダルの奪取を目指していたのです。しかし、志半ばにして物語の冒頭で急死したのでした。
 あれ?タイトルは『ジョン・カーター』なのに、続編からはエドガーの冒険の物語に変わっていくのか。それとも死んだはずのジョン・カーターが生き返る秘策があったのか。その場合でも、全知全能に近いマタイ・シャンをどうやって見つけてメダルを奪うというのか。謎に包まれたラストシーンのドンデン返しは、是非劇場でご覧ください。

流山の小地蔵