誰も守ってくれない

劇場公開日:2009年1月24日

解説・あらすじ

大ヒットシリーズ「踊る大捜査線」の製作チームが、殺人事件の被疑者家族として言われのない社会的制裁を受ける15歳の少女(志田未来)と、彼女の保護を命じられた中年刑事(佐藤浩市)の逃避行をドキュメンタリータッチで描いた社会派サスペンスドラマ。監督・脚本は「MAKOTO」「容疑者 室井慎次」の君塚良一。第32回モントリオール世界映画祭では最優秀脚本賞を受賞した。

2008年製作/118分/日本
配給:東宝
劇場公開日:2009年1月24日

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(C)2009 フジテレビジョン 日本映画衛星放送 東宝

映画レビュー

4.0 【81.9】誰も守ってくれない 映画レビュー

2025年7月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

『誰も守ってくれない』は、現代社会が抱える根深く陰湿な問題を鋭く抉り出した、重厚な社会派サスペンス。全体として、その完成度は極めて高い。公開当時、少年犯罪における加害者家族へのバッシング、メディアスクラム、そして匿名のインターネット社会が引き起こす私的制裁の是非といった時宜を得たテーマを真正面から捉え、観客に倫理的な問いを突きつけることに成功している。物語の展開は、冒頭の事件発生から、事態が急速に悪化していく過程、そして主人公である刑事・勝浦が葛藤しながらも真実と正義を追い求める姿を、緊迫感あふれる筆致で描き出す。特に、事件の被害者と加害者の家族双方に対する社会の冷酷な眼差し、そして何より「正義」の名の下に行われる無責任な集団リンチの狂気をリアルに描破した点は特筆に値する。
しかしながら、本作が提起する問題のあまりの深刻さゆえに、観客に突きつけられるのは、明確な解決策や希望ではなく、むしろ拭い去れない絶望感と無力感である。エンディングにおいても、全ての登場人物が救済されるわけではなく、むしろ傷跡が深く残る形で物語は幕を閉じる。この「救いのなさ」は、社会の抱える問題の根深さを強調する効果がある一方で、観客によっては感情的なカタルシスを得にくいと感じる可能性も否めない。それでもなお、社会の闇と人間の醜さを直視させるその姿勢は、商業映画としてのみならず、現代社会への痛烈な警鐘として、極めて重要な意義を持つ。作品全体を覆う重苦しい雰囲気は、観客に安易な感情移入を許さず、むしろ思考を促す。その点で、エンターテインメント性と社会性のバランスを高いレベルで両立させた稀有な作品と言えよう。
君塚良一監督は、テレビドラマ「踊る大捜査線」シリーズで培った社会派エンターテインメントのノウハウを遺憾なく発揮。リアルな警察捜査の描写と、人間の心理の機微を丁寧に描く手腕は本作でも健在だ。特に、メディアによる過熱報道と、それによって増幅される世論の暴力性を、視覚的・聴覚的に巧みに表現。インターネット上の書き込みを映像として挿入する手法や、テレビニュースの音声を多用することで、観客はまるで自分自身がその狂気の中に巻き込まれていくかのような錯覚に陥る。感情の揺れ動きを細やかに捉えた人物描写も秀逸。登場人物たちの葛藤や苦悩を、過剰な演出に頼らず、むしろ抑制された演技と表情で引き出すことに成功している。全体として、過度な説明を排し、観客に考えさせる余白を残した演出は、作品のテーマ性をより一層際立たせている。
本作の主人公である刑事・勝浦巧を演じた佐藤浩市の演技は、まさに圧巻の一言。少年犯罪の加害者家族を保護するという重責と、自身の過去の過ちとの間で葛藤する刑事の複雑な内面を、見事に体現している。当初の冷徹で割り切った態度から、事件に深く関わるにつれて人間的な情念を露わにしていく過程は、その表情の微細な変化、視線の揺らぎ、そして時折漏れる息遣いの中に克明に刻まれている。特に印象的なのは、加害者の少女・沙織を前にして見せる、苦悩と憐憫が入り混じった眼差し。決して多くを語らないが、その眼差し一つで、勝浦が抱える心の傷の深さ、そして正義と職務の間で揺れ動く倫理観を雄弁に物語る。また、理不尽な暴力や罵倒に晒される中で、内なる怒りを抑えきれずに感情を爆発させるシーンでは、その抑圧された感情が堰を切ったように噴出する様を、全身で表現。観客は、勝浦の苦悩に深く共感し、その人間的な弱さゆえに、かえって彼の正義感に説得力を感じずにはいられない。佐藤浩市は、一貫して抑制された演技の中に、沸き立つ感情を巧妙に隠し持ち、ここぞという場面で爆発させることで、観客の心を鷲掴みにする。本作における彼の演技は、まさに日本映画史に残る名演と言っても過言ではない。
少年犯罪の加害者家族として、社会から徹底的に排斥される少女・沙織を演じた志田未来は、その若さにもかかわらず、計り知れない絶望と恐怖、そして葛藤を内包した演技を披露。表情の乏しさの中に宿る微かな震え、視線のさまよい、そして言葉にならない嗚咽が、沙織の置かれた絶望的な状況を痛いほどに伝える。無力でか弱い存在でありながら、時に見せる毅然とした態度や、僅かな希望にすがるような眼差しは、観客に強い印象を残す。特に、勝浦との間に芽生える信頼関係の中で、徐々に人間らしさを取り戻していく過程を繊細に演じきった。
勝浦をサポートする若手刑事・三島省吾を演じた松田龍平は、独自の存在感を発揮。冷静沈着でありながら、事件の非情さに触れて葛藤する若者の姿を、自然体で表現。勝浦とは対照的なアプローチで事件に臨む姿勢が、物語に奥行きを与えている。彼の控えめながらも確かな演技は、物語の緩衝材として機能し、重くなりがちな作品のトーンに微妙なニュアンスを加えている。
過去に勝浦が担当した事件で息子を失った父親、本庄圭介を演じた柳葉敏郎は、深い悲しみと、その悲劇がもたらした心の傷を、抑制された演技の中に滲ませる。表面上は穏やかにペンションを営むが、その眼差しには拭い去れない喪失感と、過去の事件への複雑な感情が宿る。勝浦との再会によって、彼の内面に秘められた感情が静かに揺れ動く様を、過剰な表現に頼らず、繊細な表情の変化や佇まいで表現。加害者家族への単純な復讐心ではなく、自身の癒えない傷と、過去の事件の真相、そして勝浦との関係性の中で、複雑な感情を抱える一人の父親の姿を、説得力を持って演じきった。彼の演技は、被害者遺族の苦悩を深く掘り下げ、物語に重層的な人間ドラマをもたらしている。
脚本は、君塚良一監督自身が手掛けており、現代社会が抱えるデリケートな問題を真正面から描いた意欲作。少年犯罪の加害者家族への過剰なバッシング、匿名のインターネット社会が引き起こす誹謗中傷、そしてメディアスクラムの無責任さといった、まさに時宜を得たテーマを巧みに織り交ぜている。ストーリーは、単純な善悪二元論に陥ることなく、被害者と加害者双方の視点、そして社会の反応を多角的に提示。特に、加害者家族の置かれた絶望的な状況を克明に描写することで、観客に安易な感情論ではない、深い思考を促す。
物語の構成は、事件発生から捜査の進展、そして社会の反応がエスカレートしていく過程を、サスペンスフルかつ緻密に構築。勝浦の過去のトラウマと、本庄圭介の存在がシンクロしていく展開は、観客の感情移入を深め、物語に深みを与えている。また、インターネット掲示板の書き込みやテレビ報道など、現実世界と地続きの描写が随所に散りばめられ、観客に「これは自分たちの問題でもある」という認識を促す。
しかしながら、本作の脚本には、いくつかの課題も散見される。物語が提起する問題のあまりの大きさと複雑さゆえに、最終的な解決策や明確な希望が示されないまま幕を閉じる点は、観客によっては消化不良感を覚える可能性も否めない。また、一部の登場人物の行動原理がやや説明不足に感じられる場面もあり、より深掘りすることで、物語の説得力が増した可能性もある。だが、これらの点は、本作が抱えるテーマのあまりの根深さゆえとも言える。安易な解決策を提示せず、観客に問いを投げかけ続ける姿勢こそが、本作の真骨頂であり、社会派作品としての価値を高めている。
映像は、全体的に抑えられた色彩と、冷たいトーンで統一され、作品の持つ重厚なテーマ性を強調。暗く狭い警察署の廊下、薄暗い保護施設、そして雨に濡れる街並みなど、常に閉塞感と陰鬱な雰囲気が漂う。これは、加害者家族が社会から隔離され、追い詰められていく様を視覚的に表現する効果がある。美術は、リアリティを追求した質実剛健なもの。警察署のセットや、登場人物たちの生活空間は、過剰な装飾を排し、いかにも現実の延長線上にあるかのような説得力を持つ。衣装もまた、登場人物の置かれた状況や心情を反映。勝浦のくたびれたスーツや、沙織の地味な私服は、彼らの心境と社会的立場を暗示する。全体として、視覚的な要素は、物語のリアリティとテーマ性を補強する役割を十二分に果たしている。
編集は、物語の緊迫感を高める上で重要な役割を果たす。テンポの良いカット割りは、観客を飽きさせることなく物語に引き込み、特に、メディアスクラムの狂気を描くシーンでは、テレビのニュース映像、インターネットの掲示板の書き込み、そして街頭のざわめきといった断片的な情報が目まぐるしく切り替わることで、情報が錯綜し、状況が急速に悪化していく様を見事に表現している。登場人物たちの心理描写においても、長回しとクローズアップを効果的に使い分け、彼らの内面の葛藤を丁寧に描き出す。全体の流れはスムーズでありながら、時折挟まれるフラッシュバックやインサートカットが、物語に奥行きと緊張感を与えている。
作曲家は村松崇継。音楽は、作品の持つ重厚な雰囲気を損なうことなく、登場人物たちの心情に寄り添う形で効果的に使用されている。派手さはないものの、静かで物悲しい旋律が、全編にわたって流れることで、観客の心を深く揺さぶる。特に、勝浦と沙織の間に芽生える微かな絆を描くシーンでは、抑制されたピアノのメロディが、二人の心情を優しく包み込む。音響効果も秀逸で、雨音、街のざわめき、そしてインターネットのタイピング音といった生活音や環境音が、物語のリアリティを増幅。特に、匿名の誹謗中傷が飛び交うシーンでは、不協和音のような音響が、視聴者の不安感を煽る。

作品
監督 (作品の完成度) 君塚良一 114.5×0.715 81.9
①脚本、脚色 君塚良一 鈴木智 B+7.5×7
②主演 佐藤浩市A9×3
③助演 志田未来 A9×1
④撮影、視覚効果 栢野直樹 B8×1
⑤ 美術、衣装デザイン 山口修 B8×1
⑥編集 穗垣順之助
⑦作曲、歌曲 村松崇継 S10×1

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honey

4.0 誰も守れない そして 誰も守ってくれない‼️

2024年11月10日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

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活動写真愛好家

4.0 【被害者側の家族と、加害者側の家族の現代社会の非情さと人間の危うさを浮き彫りに。セミドキュメンタリーの手法を用い、登場人物たちの心情をリアルに映し出す作品。】

2024年2月5日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■未成年の男が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕される。
 マスコミが加害者の家に押し寄せる中、妹の沙織は両親とバラバラに保護されることに。刑事の勝浦が彼女の担当になるが、マスコミ報道とネットの書き込みが過熱化し、二人は逃げ場を失っていく。

◆感想

・私の務める企業でも、様々なトラブルが起きる。
 だが、真っ先に行うのが(特に、加害者の瑕疵が薄き案件である。週末に車を運転していた際に、路上で寝ていた人を轢いたしまった案件等。)
 - 流石に、報道機関にも連絡をし、過大なある処分にして貰った案件にして貰ったモノである。-

・今作の見所は、名もなきSNS上の愚かしき人々に対し、刑事が決然と立ちむかうシーンであろう

<私は、このレビューサイトでコメントを全て受けるスタンスを取っている。
 だが、数名のレビュワーの方の、夜中二時のコメントは控えて頂きたいと思っている。
 私はバリバリの企業に勤めているのでそこらへん、宜しくお願いしたいモノである。
 (私のレビューが老成した感があるらしいが、現役の勤め人ですので、そこらへん、宜しく。貴女ですよ!)

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NOBU

3.0 映画らしい

2023年12月31日
PCから投稿
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プライア