劇場公開日 1977年4月29日

「心の深淵、ソラリス」惑星ソラリス 柴左近さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0心の深淵、ソラリス

2020年9月7日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

知的

難しい

“Beware that, when fighting monsters, you yourself do not become a monster… for when you gaze long into the abyss. The abyss gazes also into you.”
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。

上記したのは、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの「善悪の彼岸」に記されている言葉である。

この「惑星ソラリス」は、スタニスワフ・レムが書いた小説が原作としているが、あくまで「枠物語」として利用したとするタルコフスキー監督。
小説を未読なのでこのあくまでこの映画でのソラリスの描かれ方に関しての解釈しかできないが、ソラリスと人間の交流を図るというのは、「自分の心の中を覗きこむ」という行為に近いことなのではないかと思った。心の中は宇宙と同じで、暗く、どこまでも続いている。

人間は幸せな状態の時、「人生とは何か」「自分とは何か」「愛とは何か」という問題に関心を向けない。逆に言うと、関心を持たなければそもそも問題が生じない。しかしそれが正解で、純粋な生きももの在り方なのである。

しかし人間は悲しみ、悩む生物だ。すると考えなくていいことをつい考えるようになる。すると出口の無い心の迷宮に迷いこみ、答えの無い問題と向き合うことになる。「これは病んでいる人」が行う行為だ。

劇中出てくる人物たちは、皆心を病んでいるように見える。しかし、これは宇宙ステーションにいない私たち視聴者も、充分になり得る状態なのである。

こういう哲学を感じるSFは個人的に大好きなので、始終楽しく観れた。睡魔に何度も襲われたのも事実だけど。

ゆったりとした美しい映像を観るのは小説を読んでいる感覚に似ていて心地いい。
東京の高速道路のシーンが結構ガッツリあって、それが妙にSFの雰囲気に合っていて面白かった。

柴左近