劇場公開日 1989年9月30日

「友情のライセンス」007/消されたライセンス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0友情のライセンス

2020年9月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

興奮

シリーズ16作目。1989年の作品。

これまで何度も登場した友人であるCIAのフィリックス・ライターの結婚式直前、DEAからの連絡を受け、フィリックスと共に麻薬王サンチェスの逮捕に協力する事になったボンド。逮捕に成功し、フィリックスも結婚式に間に合った…のだが、
内部の裏切り者により、サンチェスは逃走。フィリックスはサンチェスに捕まり瀕死、彼の新婚の妻は殺されてしまう。
怒りと復讐に燃えるボンドは、独断でサンチェスを追う…。

ボンドの妻が殺される『女王陛下の007』を除けば(尚フィリックスがそれに触れる台詞が一言あり)、衝撃的な一作。
Mから殺しのライセンスを剥奪され、自ら辞職。
任務ではなく、復讐という私的感情で動く。しかしそれは、友情というライセンスの為でもある。
サンチェスの部下を一人一人共倒れさせ(ヒントは黒澤明『用心棒』)、そしてサンチェスに近付いていく。
敵が非情なら、こちらも。手段は厭わない。
それを表すかのように、サメに食いちぎられた足、圧縮室で頭部破裂、粉砕機で粉々、火だるま…シリーズ初の過激描写。
ボンド自身も冷徹でハードボイルド。これまでにないほど危険なボンド。
目の肥えた今見ればそうでもないかもしれないが、当時としては昨今のハード・アクションだった事だろう。

とは言え、全部が全部そうではない。いつもながらのお楽しみも。
プレ・シークエンスのサンチェス・フィッシング。
シリーズの大ボスのペットの定番であるサメ。
中盤の日本描写はあれだけど…。(これも定番なのか…??)
アクションは前作より増え、これまた定番の海中アクションもスリリングだが、最大の見せ場はやはり、クライマックスのタンクローリー・チェイス。
爆発、迫力、そしてサンチェスとの決着。
エンタメ性も勿論。
また、後ろ楯を無くしたボンドに協力するは、Q。いつもより出番多し。

ボンドガールは、キャリー・ローウェル。
演じるはフィリックスと同じCIAエージェントのパムで、飛行機操縦などボンドに同行し活躍。
サンチェスの愛人ルぺを演じるタリサ・ソトもボンドガール。こちらもこちらで魅力的。
久々のWボンドガール。
サンチェス役のロバート・デヴィもさることながら、今見ると、その用心棒役のベニチオ・デル・トロがインパクトを残す。本作が映画デビューもしくは映画出演2作目らしく、それでこの存在感は、さすが後のオスカー俳優!
余談だが、彼には是非とも今度メインヴィラン役で再び出演して欲しい。
また余談だが、中南米の麻薬王という事でサンチェスは実在の麻薬王パブロ・エスコバルを彷彿させ、デル・トロは後に『エスコバル 楽園の掟』で演じている。

過去の作品では宇宙に進出。
核ミサイルで地球を破壊し、新世界の王に。
…なんていう荒唐無稽な陰謀や悪役も居たが、現実的な犯罪や麻薬王。
いつもパーフェクトに任務を遂行し、女性も落としてきたボンドだが、私的な感情で動く彼の人間味ある一面。
リアルさと新しさ。
また一つ、ボンド像と世界観が拡がった。
…が、本作の作品評価は高かったが、興行的には落ち込み。
製作側のトラブルも発生。
5作連投のジョン・グレン監督も本作で最後に。
つまり、これまでの体制の最終作。
何より惜し過ぎる、僅か2作で降板してしまったティモシー・ダルトン…。
不本意な卒業か、それとも2作でも忘れ難い魅力を放った有終の美か。

この後シリーズは最長6年のスパイ活動休止。
6年後、新体制で消されたライセンス(=シリーズ)を取り戻す事となる。

近大