劇場公開日 1959年11月4日

「ガンヒルの決斗とウクライナの戦争のアナロジー恐ろしいばかりです」ガンヒルの決斗 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ガンヒルの決斗とウクライナの戦争のアナロジー恐ろしいばかりです

2022年3月1日
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鑑賞方法:DVD/BD

数ある西部劇の中でも屈指の面白さ!
シンプルでカタルシスがあり、そして虚しさと悲しみで終わる最高の名作!

カメラも演出も役者もいい!
これでマカロニウエスタンのようなキャッチーなフレーズの主題歌があったならナンバーワンの西部劇の座についておかしくない
というか、マカロニウエスタンのお手本になっている作品と思います

監督、ジョン・スタージェス
主演、カーク・ダグラス
撮影、チャールズ・ラング
編集、ウォーレン・ロウ
音楽、ディミトリ・ティオムキン

つまりあの名作「OK牧場の決斗」と同じ布陣です
有名度合いでは「OK牧場の決斗」の方が遥かに上ですが、映画としての面白さや出来の良さは、本作の方がずっと優れています

「OK 牧場の決斗」 1957年
「ゴーストタウンの決斗」1958年
「ガンヒルの決斗」1959年(本作)

俗に、ジョン・スタージェス決斗三部作といわれます
この三作の中でも一番の出来で決定版といって良いでしょう
この本作の成功が翌1960年の西部劇の金字塔「荒野の七人」に繋がっていくわけです

今日は2022年3月3日です
ロシアのウクライナ侵略開始から1週間経ちました
あっという間にウクライナの首都キエフは陥落してしまうだろうと当初いわれていたようなことはなく、ウクライナは文字通り孤軍奮闘してロシアの侵略と戦っています
しかし多勢に無勢、徐々に押されつつあるようです
ロシアは思わぬ苦戦に、核の使用まで口にしました
しかし、アメリカも欧州各国も自軍が介入するとロシアとの第三次世界大戦になってしまうと、どこの国も助けてはくれないのです
あくまで武器の提供や、経済制裁だけなのです
このままでウクライナは持ちこたえることができるのでしょうか?

まるで本作のお話のようです
本作のストーリーのアナロジーが現実の戦争で行われているように思えてなりません

ガンヒルの街の人々は、みな牧場主の力を恐れて誰一人主人公のとなり街の保安官マットを助けてはくれないのです
妻を殺した卑劣な犯人の居場所も教えてくれず
拳銃では対抗できないから、ショットガンを求めても無理だと断られるのです
ある女性だけが見かねて、コッソリとショットガンを渡してくれるだけなのです

しかし主人公はたった一人で、牧場主の大勢の手下どもに立ち向かい
犯人を確保して、最終的に勝利するのです

原題は「ガンヒルからの最終列車」
主人公には、それまでにすべてのことを終わらせないとならない時間的制約が課されています
それも街の誰も助けてくれない状況の中で

そう、1952年のフレッド・ジンネマン監督の西部劇の金字塔「真昼の決闘」と似た物語なのです

しかしこれを上手く消化して全く独自のものになっています
遠くで汽笛が聞こえて最終列車が近づいてくる焦燥感
孤立無縁の中、一人戦い抜くドキドキ感
停車した最終列車の脇での因縁の相手との最終対決の決闘
最高の西部劇です!

そこに名優アンソニー・クインの重量感が加わります
また、ただ一人主人公を陰ながら助けてくれるリンダ役のキャロリン・ジョーンズの美しさ
彼女の大きなエメラルドのような緑色の瞳がいつまでも心に残ります
その愛人の牧場主ベルデンの指には大きなエメラルドの指輪が光っていました

主人公は最終列車で去って行きエンドマークとなります

しかし復讐は遂げられたものの、殺された妻は戻らないのです
犯人こそ、二人とも死んだのですが法の下で裁いた訳でもないのです
そして旧友であり命の恩人でもあった人物を自ら倒さざるを得なかったのです

ウクライナも、例えロシア軍を撃退して停戦となったとしても国土は戦火に焼かれ、国民は大勢が死傷し、何十万もの人々が国外に着の身着のまま逃げざるを得なかったのです

虚しさと悲しみが広がるのみなのです
戦争の悲惨さそのものです

ガンヒルの決斗とウクライナの戦争のアナロジー
恐ろしいばかりです

あき240