劇場公開日 2004年12月18日

「役者は要らぬ、人間が欲しいのだ」理由 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5役者は要らぬ、人間が欲しいのだ

2021年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 「役者は要らぬ、人間が欲しいのだ」という大林監督のこだわりに集まった107人のノーメイクの役者たち。途中までは名前がわかる役者を数えていたが、混乱しそうになったのでやめた。

 百人を超える証言者の語りで構成される内容は“映画化が不可能”と言われ続けてきたらしいが、果敢にも大林監督が映画化にチャレンジしたものだ。バブル経済が衰退し始めた辺りの投機目的のマンション購入といった、本来の住居としての家や家族の絆を蔑ろにした社会の歪みを鋭く抉ったような背景も描いている。

 いくつもの家族のエピソードが紹介され、家族の絆の対比と殺された4人は何者なのかという謎を追いかける展開は面白く、切り貼りした空の模様(『ねらわれた学園』や『時をかける少女』をも思い出した)が大林監督らしい。

 しかし、残念なことに、原作は知らないのだが、殺人の動機や競売・占有といった経緯がつかめないままで進み、消化不良を起こしかねないと感じました。また、監督が最後に登場したり、人物名の字幕の挿入など、賛否両論になるようなところは気になった。インタビュー形式で進むことを表現するためにマイクが見えてしまうなどといった小技を使ってきたことが一気に台無しになってしまうのです。

 大林監督はこれまで殺人事件というものを描いてこなかったが、9.11以降方向転換を考えたとのことだ。殺人事件というものが日常的になりすぎて、そのことと関わりを持たない方が不自然となってくる。そんな考えもあって、人との繋がりを重視したこの『理由』を選んだのだろう。

【2005年1月映画館にて】

kossy