黒い潮

劇場公開日:

解説

「花と波涛」の高木雅行が日活専属第一作として製作する映画で、下山事件にヒントを得た井上靖の小説を「国定忠治(1954)」の菊島隆三が脚色し、山村聡が「蟹工船」に次いで監督、主演する。撮影は「雲は天才である」の横山実の担当。「国定忠治(1954)」の津島恵子をはじめ、「緑の仲間」の東野英治郎、「乾杯!女学生」の夏川静江、「浅草の夜」の滝沢修、「大阪の宿」の左幸子、及び千田是也、青山杉作、中村伸郎、信欣三など新劇のヴェテランたちが出演している。

1954年製作/113分/日本
原題:The Black Current
配給:日活
劇場公開日:1954年8月31日

ストーリー

毎朝新開社の社会部記者速水は、警視庁詰めの記者筧から行方不明の秋山国鉄総裁が、轢死体となって発見されたという報をうけた。複雑な政治的問題を孕む社会情勢から、この事件の真相は容易に判断できず、捜査当局も、単なる状況報告に止っていた。他社の新聞は他殺説を主張したが、この事件を担当する速水は、正確な記事を客観的にという立場から自、他殺のいずれとも推定せず、見透しさえ書かなかった。十六年前、速水の妻が流行歌手と心中した時、新聞の記事は無責任な、興味本位のもので、真実からは遠く離れており、世間の眼は彼に対して冷酷だった。それ以来速水は、真実を押し流す世間の眼を憎むようになっていた。山名部長は速水のかたくなさに当惑したが、浜崎編集局長や水谷主幹から彼をかばい、励ました。奥多摩に旧師佐竹雨山を訪れた時、娘の景子との結婚を云われたが、速水の頭には秋山事件以外のことは、何もなかった。他紙は他殺を主張し、他殺、自殺何れとも推定しない毎朝紙は自殺を主張していると非難されるようになった。その時国鉄整理に絡む計画的な美鷹事件が起ったために、秋山事件もこれと同種の事件だという決定的な断定が下され速水達の努力は水泡に帰した。速水は転任させられ、山名は辞職願を出した。送別会の席で事務員伊庭節子は、速水一人を苦しめたと他の記者をのゝしった。速水の転任を聞いた景子は、一諸につれて行ってくれと頼むが、彼の亡き妻への強い愛情を知ると淋しく別れた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0一人の男が線路上でふらふらと列車に飛び込んでいくシーンから始まる

2020年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 目撃者は年寄りの男(後に精神病だとして証人に採用されず)。鉄道員の交代要員が「マグロがあがった」と聞いて嫌そうな顔をする・・・マグロとは鉄道職員の隠語で轢死体のことを言う。早速新聞記者も動くが、死体が上がったという一報で、一昨日に国鉄で3万人の首を切ったため行方不明になっていた総裁。誰が殺したんだと記者たちは興味津々。

 デスクとなった速水記者(山村)は他殺とも自殺ともとらない、真実のみを追及するという方針を貫き、部長もそれに従い、毎朝新聞は他社とは一線を画し、自殺説中心の論調となった。しかし、他社は強く他殺説を採り、発行部数を増やすのだ・・・他殺説とは、首切りとなった組合の誰かが行った犯行であり、組合や共産党の活動を弾圧するという政府の思うつぼとなるモノ。警察の捜査も二本立てで続いていた。

 物語では、速水は16年前に妻が他の男と心中を図ったという過去があり、そのため真実を歪める世の中の論調が許せなかった。途中、三鷹事件(なぜかこれだけ実名)が発生し、秋山事件のネタさえも古くなった。そして終盤、警察も自殺説を発表するという段階に進み、毎朝の記者たちは喜んだのだが、翌日その発表が中止となる・・・馴染みの刑事に詰め寄る速水。しかし、「知らん、知らん。刑事に何がわかるってんだ」の一点張り。上からの圧力があったことを暗に想像させる。そして発表中止により毎朝の敗北と感じた上層部は速水の博多転勤を決めた。折しも、尊敬する学者(東野)の娘(津島)との縁談もあったのだが、彼には16年前に失った妻のことが忘れられず、単身転勤へと決意を固めたのだった・・・

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kossy
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