劇場公開日 1984年11月17日

「懐かしさで胸がいっぱい」お葬式 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0懐かしさで胸がいっぱい

2023年5月12日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

公開時、映画館で見たのかどうかも覚えていない。でも映画館で見ることができました。「午前十時の映画祭」ありがとうございます。

自分が記憶していた以上に伊丹十三テイストがたっぷり入っていたのが新鮮で爽やかだった。食へのこだわり、旺盛な好奇心と探求心、知的な蘊蓄、細やかな観察眼、「日本人」とかなり異なるドライで洗練された美意識と笑い。伊丹十三役の侘助役が山崎努だから一度で二度美味しい!山崎努はこの役をどう思ったのか知らないけれど彼以上の適役はいないと思う。

映画の前半、特に冒頭での台詞や言い方は昔の邦画みたいだった。静かで淡白でなんだか小津安二郎みたい。宮本信子はとても清々しい。亡くなった父の娘で二人の男の子の母親で侘助を愛する妻で母に寄り添う娘。可愛らしく明るくあたたかく演じていた。のちの映画などに濃厚に出てくる台詞や表情の癖がまだない時代。

モノクロ撮影担当は浅井愼平なのかー!お通夜前の準備の様子を子ども含めて映した手持ちカメラ・モノクロ映像は大好き!味があって爽やかでいい!

菅井きんさん、良かった。黒澤明「生きる」では赤ちゃんをいつもおんぶした若い母親役でここでは長く連れ添った夫を亡くした妻。喪主としての挨拶よかった。何気ない表情、動き、視線、そして台詞。演技とはこういうもんなんだと(私は役者でないけれど)伝えてくれたような気がした。

コロナのせいか(おかげか)人を沢山呼んで、お手伝いの人も沢山いるようなそんな昔ながらの通夜も葬式(告別式)もなくなってしまった。宗旨とか戒名とかお布施とか手順とか数珠(値札のついた数珠を取り寄せ選ぶモノクロシーン、高価な数珠が多くてびっくり!)に火葬場、それから今はもう見かけなくなった宮型霊柩車。全てしっかり映ってるし、ある程度説明もされているので、かつての関東・標準型お葬式はこんなんですよ~の記録映画にもなっている!公開当時の観客の反応は笑いと共感、今はへぇ~、そうなんだ~、よくわかんない、だろうか?

葬儀屋役の三代目江戸家猫八さんは芸達者!サングラスの黒レンズ入れて全部で3つのレンズ合体メガネ、笑ってしまうけれどかっこよかった。葬式に誰も履いてこない黒白コンビの靴も「待ってました!」 今、お孫さんが五代目江戸家猫八の襲名披露を寄席でなさってますね。おじいちゃんを超えるほど長生きして動物の声真似を元気に続けて欲しいです。

財津一郎(病院への支払いが想像を遥かに超えて安かったので受付で思わずヘラヘラ笑ってしまう、のと、足が痺れてびっくりかえる所、共に絶品の演技!)、大滝秀治、佐野浅夫、笠智衆、藤原鎌足、津川雅彦、岸部一徳、尾藤イサオ、小林薫などなど男性俳優を挙げただけも錚々たる面々。そしてその場その場の状況を適切に把握し動く、或いはわざと場違いに動く女性達。そういう女性の前で男はなあ・・・というのがこの映画のポイントの一つかもしれない。

一方で大人の映画だなあとも思った。今の俳優さんは若く見えるから?キャスティングや演出の問題?幼いのか若いのか、ひたすら私的個人的世界の中に居るから?そしてこの映画が「昭和」で固められているから?理由はわからない。とにかくこれは大人の映画だった。

いい男でかっこよい「モノンクル」の伊丹十三さんにまた会いたい💕

talisman
シネマディクトさんのコメント
2023年5月14日

そっか、あのブラッシングは犬神スタイルのためだったんですね。勉強になります。それも含めて、昭和な映画でしたね。

シネマディクト