劇場公開日 1963年11月16日

「白髪の老人の妄執に若者は騙されるな」江分利満氏の優雅な生活 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0白髪の老人の妄執に若者は騙されるな

2020年3月4日
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鑑賞方法:DVD/BD

本作は本来は川島雄三監督が撮る予定だったそうです
しかし川島監督は本作公開の5ヵ月前に急死された為、岡本喜八監督に交代されたとの事です

物語はサラリーマンの生態と自己の半生を振り返るものに一見見えます
終盤までそれです
内容も誰しも共感を覚えるものです
しかしそれは監督の計算です
直木賞を獲得して仲間内の祝勝会数軒で飲み歩いた末に、逃げられなかった若手二人を主人公の家に連れ返って飲み直して、明け方の4時までくだを巻くシーンこそ本作のテーマです
そこで主人公は昭和10年の時に学生達は日本の軍国化を止められなかったと言い、
若手二人は60年安保も阻止できなかったというのです
普通のどこにでもいる、おじさんと若手が声を揃えていうのです

白髪の老人に騙されるな!
自分たちの子供を戦争に行かせるのはごめんだ!
そう画面の向こう側から、観ている観客に対して主人公がそのようなアジテーションを行うのです

朝が来て若手二人はそのまま会社に向かいます
主人公も会社に行ったのでしょう
会社の屋上での昼休み
まるでウエストサイドストーリーのような集団ダンスシーンを経てバレーボールなどであそんでいる冒頭のシーンに戻っていくのです

タイトルバックの冒頭シーンにつながって主人公がつまらないとつぶやくシーンになっていきます
ループ状の構造になっているのです

なぜつまらないのか?
60年安保が忘れさられたからなのです

これが本作のテーマなのです

では21世紀の私達にはもはや関係のないテーマだから観る値打ちのない映画なのでしょうか?

違います

その終盤までの日常と半世紀の独創的な演出手法だけでも絶対に観る価値も意義もあります
その部分だけでも素晴らしい映画です
小林桂樹の演技は終盤に向けて白熱していきます

そして肝心のテーマは、半世紀以上を過ぎた今観ると監督の意図とは真逆に聞こえるのです

このような白髪の左翼老人の妄執に若者は騙されるな
そのような見え聞こえるのです

監督の意図した逆の政治的意味合いのメッセージを放っている価値があります

あき240