江分利満氏の優雅な生活

劇場公開日:

解説

山口瞳の同名小説より、「わんぱく天使」の井手俊郎が脚色、「戦国野郎」の岡本喜八が監督したサラリーマンもの。撮影は「白と黒」の村井博。

1963年製作/102分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1963年11月16日

ストーリー

おもしろくない、何をしもおもしろくない。三十六歳の江分利、年のせいだろうか? バーテンに聞いてみよう、「おもしろいかい?」「ええ、まあ……」おもしろくない、無気力である。このおもしろくない日、江分利は酔った勢いで雑誌に原稿を書く約束をしてしまった。でも何を書こう夏子は、私達の恋愛を小説にしたらと言うが、そうだ俺みたいな平凡なサラリーマン、才能のない奴だらしのない奴が、一生懸命生きていると言う事、大変な事じゃないか、それを書こう。「江分利は現在、夏子と庄助と父の四人で社宅に住んでいる。彼は自分の家の庭が、他の社宅のより広い事を発見して、大いに満足している。江分利と夏子は昭和二十四年に結婚した。江分利の給料が八千円、夏子のが四千円、二人共結婚でもしなければ生きて行けなかったのだ。江分利は酒を飲んでは、人にカラむようになった。翌年十月庄助が生れた。生後八カ月の庄助に銀座でマカロニグラタンを食べさせた時、江分利は庄助の親父になった。その後、夏子が発作を起したり、庄助が喘息になったりしたが、それでもどうにか生きて来た一生懸命に。昭和三十四年の大晦日、江分利の母が死んだ。何度かの成金と破産を経て、ぬけがらとなった父に絶望し、自分の葬式の食事の心配までして死んだ母。江分利は泣いた。茶漬けの茶わんに歯をガチガチと当てて怒りと悲しみにどうしようもなくて泣いた。父の借金をどうしよう。夏子を庄助を、江分利のこれからの人生で幸福にしてやることが出来るだろうか。江分利はそれでも何とかやって来た。そしてやって行くだろう。この生活を何にもこわさせやしない。」題は「江分利満氏の優雅な生活」である。彼のこの小説とも随筆ともつかぬものが直木賞を受けた。祝の席上でも江分利は人にカラむのであった。

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映画レビュー

5.0白髪の老人の妄執に若者は騙されるな

2020年3月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

本作は本来は川島雄三監督が撮る予定だったそうです
しかし川島監督は本作公開の5ヵ月前に急死された為、岡本喜八監督に交代されたとの事です

物語はサラリーマンの生態と自己の半生を振り返るものに一見見えます
終盤までそれです
内容も誰しも共感を覚えるものです
しかしそれは監督の計算です
直木賞を獲得して仲間内の祝勝会数軒で飲み歩いた末に、逃げられなかった若手二人を主人公の家に連れ返って飲み直して、明け方の4時までくだを巻くシーンこそ本作のテーマです
そこで主人公は昭和10年の時に学生達は日本の軍国化を止められなかったと言い、
若手二人は60年安保も阻止できなかったというのです
普通のどこにでもいる、おじさんと若手が声を揃えていうのです

白髪の老人に騙されるな!
自分たちの子供を戦争に行かせるのはごめんだ!
そう画面の向こう側から、観ている観客に対して主人公がそのようなアジテーションを行うのです

朝が来て若手二人はそのまま会社に向かいます
主人公も会社に行ったのでしょう
会社の屋上での昼休み
まるでウエストサイドストーリーのような集団ダンスシーンを経てバレーボールなどであそんでいる冒頭のシーンに戻っていくのです

タイトルバックの冒頭シーンにつながって主人公がつまらないとつぶやくシーンになっていきます
ループ状の構造になっているのです

なぜつまらないのか?
60年安保が忘れさられたからなのです

これが本作のテーマなのです

では21世紀の私達にはもはや関係のないテーマだから観る値打ちのない映画なのでしょうか?

違います

その終盤までの日常と半世紀の独創的な演出手法だけでも絶対に観る価値も意義もあります
その部分だけでも素晴らしい映画です
小林桂樹の演技は終盤に向けて白熱していきます

そして肝心のテーマは、半世紀以上を過ぎた今観ると監督の意図とは真逆に聞こえるのです

このような白髪の左翼老人の妄執に若者は騙されるな
そのような見え聞こえるのです

監督の意図した逆の政治的意味合いのメッセージを放っている価値があります

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あき240

3.0 どこにでもいるサラリーマン。ある、ある、と頷いてしまうほどのエピ...

2018年11月5日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 どこにでもいるサラリーマン。ある、ある、と頷いてしまうほどのエピソードと、ちょっと変わった周囲の人々。映像的にも凝った部分があり、アニメ部分(トリスウィスキーのアニメ作家?)あり、靴と草履の会話あり、江分利の周りがストップしたりと、面白い。

 酒を飲むと徐々に変貌する男。くだを巻くところが特徴なのだが、本音が出てしまうのか、違う一面が出てしまうのかわからない。エブリーマンというタイトルのつけ方からして、平凡で普通のサラリーマンを描こうとしているのだろうけど、彼の父親(東野)の波乱万丈な人生からしても平凡ではない。何度も事業を起こして成功し、そして破産・・・を繰り返す。戦争成金と満氏からも揶揄されるし、その父を見て育ったからこそ平凡になろうと努力してたのかもしれない。

 戦中派サラリーマンの悲哀。破天荒な父親の姿を理解しなければ、この満氏の性格も掴みづらいかもしれない。どちらかというと後輩社員(特に二瓶正也)などが感情移入しやすかったりするのだ。優雅な生活というタイトルもそうだが、戦時中にどんな悲惨なことが起きているのかも大ざっぱにしかつかめていなかったようだ。徴兵制がなくなってしまえばいい!という台詞も強い反戦の意志より、父が戦争で儲けたために何もできなかったことの自責の念があると思われる。ただ、やはり岡本喜八監督の意志が混入されているとも受け止められる・・・

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kossy
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