劇場公開日 1988年9月15日

「郷愁・・・タイムスリップのファンタジー・ロマン」異人たちとの夏 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5郷愁・・・タイムスリップのファンタジー・ロマン

2024年1月3日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、VOD

妻と離婚して古びたビルに住むシナリオライターの原田(風間杜夫)は、
ある日の夕刻トンネルをくぐると魔界のように子供の頃を過ごした
浅草界隈の小路に出る。
小路の奥に原田が12歳まで暮らした生家があり、暖簾をくぐると懐かしい
死に別れた両親が30年前と同じ姿で暮らしていた。

言いようもない嬉しさと喜び。
原田は父親(今の自分と同年齢の40代の片岡鶴太郎)と
もう少し若い美しい母親(秋吉久美子)にビールを注がれている。
「立派になったねー、シナリオライターかい?」
「暑いだろ、ランニングにおなりよ!!」
パタパタと団扇で仰ぐ母は痒いところに手が届くほど優しい。
慣れた手つきで縁側に張ったロープにワイシャツを干す。

暖簾をくぐると日に焼けた畳の6畳間、
卓袱台に縁側に小さな庭、
何もかもが懐かしい。
べらんめい口調の寿司職人の父親の片岡鶴太郎。
すぐ店を辞める我儘な夫に文句ひとつ言わず付いていく
艶っぽい秋吉久美子。
2人の醸し出す雰囲気は途轍もなく和やかで優しい。

そんな雰囲気に抗えず何度も何度も足を運ぶうちに
原田は健康を損ねて行く。
そして並行して廃墟のようなマンションの3階に住む妖艶な女
(名取優子)が、突然ノックしてくる。
「開けたシャンパンが飲み切れなくて・・・」
美しく魅力的な女と恋仲になる原田。
その女もどこか訳あり風である。
「胸に大きなケロイドがあるの、だから見ちゃダメ」

12歳のとき交通事故で死別した両親に会う。
幽霊とビールを飲むのですから怪談ですよね。

でも片岡鶴太郎の父親と秋吉久美子の母親の優しさ。
多分原田は祖父母や叔父との生活で、何処か無理をして来て、
笑いたいときに笑えず、泣きたいときに泣けなかったんだと思う。
泣くことも笑うことも封印してきた男には地のまま、
素のままでいられる、なんとも心地よい両親との時間。
失った幸せな時間を取り戻している。

画質は荒いです。
名取裕子とのCG映像も今の技術を思うと
とても見えにくいし、なんとも粗雑ですが、
それを補って余りある詩情と情感。
秋吉久美子の美しさとあどけなさ悪意のない笑顔、
本当に秋吉の最高傑作。
母親役の素晴らしさでは「とんび」の常盤貴子と双璧です。
お母さんってこんなに唯一無二の存在。
母の無い子はそれだけで悲しい・・・。

アンドリュー・スコット監督でリメイクされて「異人たち」の題名で
この春公開されるそうです。
死んだ父親をジェイミー・ベルが母親をクレア・フォイが
演じるそうです。
ジェイミー・ベルと片岡鶴太郎がすこしも結びつかないけれど、
ベルが大好きなのでとても楽しみです。

原作が脚本家の山田太一なのにこの映画の脚本は市川森一、
なのも不思議ですね。
監督は大林宣彦さん。
今から35年も前の1988年作品。
この作品が30年の時を経てイギリス人監督アンドリュー・ヘイの
心に届くなんて。
山田太一さんが生きていたらどんなにお喜びだったでしょうね。
この映画の一番の魅力は、40代の息子が、自分と同じ位の40代の
父親と同じ時代に出会う。
この軌跡が、なんの不自然さも感じさせない不思議に、
あるのでしょうね。

琥珀糖
ひでちゃぴんさんのコメント
2024年4月25日

琥珀糖さん、鑑賞を推奨いただき、ありがとうございます。非常に感動しましたし、できれば劇場で観たい作品でした。

ひでちゃぴん
femme fatalさんのコメント
2024年4月13日

正解‼️スマホのせいでしたか‼️
レビューも長いの書けませんよ。

femme fatal
femme fatalさんのコメント
2024年4月13日

でも同じ日本でもこれまた世代間でもずいぶん違いますよね。

長いコメントが書けず、いつもちぎれてごめんなさい。

私だけ何か制限がかかってるのでしょうか?

femme fatal
femme fatalさんのコメント
2024年4月13日

バタバタしてて、お返事遅れました。
今回の異人についてはいや、全く私の想像です。(笑)
日本のだと親子愛みたいなのを皆様メインに感じると思うんですが、海外だと同じ原作でも主人公個人の内面にフィーチャーしてるのでは?と。
国によって思考回路が違うと常々思ってて、すっごく若い頃は海外の小説や映画は全く興味がなかったんですけど、最近はそう来たか!と!

femme fatal
femme fatalさんのコメント
2024年4月10日

でも日本人的にはこっちのファンタジー的な作りのが全然好みですよね。(笑)

femme fatal
femme fatalさんのコメント
2024年4月10日

コメントありがとうございました。

実は当時風間杜夫がタイプじゃなくて(笑)これ観てやっと少しは見直したというか。でも、他の人が演ったらもっと中年男の悲哀みたいなものがあったんじゃないかな、別の感じの映画になっていたんじゃないかなと思ってます。多分今度の映画はそっちに振り切った作りになっているのでは?

femme fatal
femme fatalさんのコメント
2024年4月10日

こんにちわ。
怪談ですけど優しいいいお話ですよね。

femme fatal
Haihaiさんのコメント
2024年1月20日

リメイクの件、知りませんでした。楽しみです。
わたしは、両親が暮らしている、あのアパートに郷愁をソソられてしまい何故かいつも泣きそうになってしまいます。。。

Haihai
ゆ~きちさんのコメント
2024年1月17日

琥珀糖さん、いいね、コメントいつもありがとうございます。

結構泣けるかなと思っていましたが、泣いてる人も周りにいないし…。ま、私の英語力不足もありっちゃありなんですがwww レンタルで正解のようです♪

ゆ~きち
きりんさんのコメント
2024年1月3日

あけましておめでとうございます、
琥珀糖さん!

年の始めからとーっても素敵なレビューを読ませて頂きました、ありがとうございます。
僕のレビューは、ティッシュで鼻をかみながら書いたのであんなものです(照れ)。

風間杜夫は、どことなく寂しげな表情がいい味出してる俳優さんですが、制作・原作の三人の男性陣も、忙しさとか、隠している不安とか=「心の隙間の寂しさ」に共感し合って、この映画を一緒に作ってみたのでしょうね。
リメイクの情報もThank You です。
✨✨

きりん