劇場公開日 2007年10月27日

この道は母へとつづく : インタビュー

2007年10月15日更新

産みの母親を知らない6歳の孤児の少年が、母を探すために孤児院を抜け出し、苦難の道を乗り越えていく姿を描くロシア映画「この道は母へとつづく」。05年のベルリン国際映画祭少年映画部門でグランプリを獲得した本作は、“ロシア版「母をたずねて三千里」”とも言える感動の一作だ。監督のアンドレイ・クラフチュークに話を聞いた。(聞き手:編集部)

アンドレイ・クラフチューク監督インタビュー
「これらは実際に起きている事の一部ですから」

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今回が長編映画初監督となるクラフチューク監督は、これまでTVドラマやドキュメンタリーを手掛けてきたが、貧しいロシアの子供を題材にした映画を企画中に、孤児の少年が本当の母親を探すために孤児院を脱走したという新聞記事を読み、その実話を基に本作を製作した。

劇中に登場する子供たちも実際の孤児で、そこにはドキュメンタリー作家出身としてのこだわりも垣間見えるが、映画はそうした社会問題を提起しつつも、ひとりの少年の純粋な思いが胸を打つ良質のドラマに仕上がっている。

――素人の子供たちを起用しようと思ったのは何故でしょうか?

主人公ワーニャ役のコーリャ・スピリドノフも実際の孤児
主人公ワーニャ役のコーリャ・スピリドノフも実際の孤児

「これが真実の物語だと分かってもらいたかったからです。演技経験が豊富だったり、普通の家庭で育った子供を起用すると、“嘘”になると思いました。孤児院に行って感じるのは“外の世界”への意識の違いです。普通の子供達は親からの無条件の愛を知っていますが、孤児たちはそれを知りません。だからこそ、彼らを起用したのです。実際に撮影していても、孤児の中には“外の世界”に幻滅している子供も多く、孤児と、そうでない子供たちの間には、“外の世界”との関係をどう構築していくかに差が出ると感じました」

――主人公ワーニャ役のコーリャ・スピリドノフの存在が特に胸を打ちますが、彼を選んだ決め手は?

「オーディションの時、コーリャは硬くなってしまって演技が出来ませんでしたが、彼の“微笑み”が強く印象に残りました。彼よりも演技が上手い子はたくさんいましたが、彼の微笑みに優る子供はいませんでした。演技のリスクは監督である私が背負うことで、最終的にはコーリャを選んだのです」

ドキュメンタリー作家らしく真実味にこだわる アンドレイ・クラフチューク監督
ドキュメンタリー作家らしく真実味にこだわる アンドレイ・クラフチューク監督

――映画の基になったという新聞記事を読んだ時、そうした社会の現状を世に知らせよう、伝えようという意図があって映画にしたのでしょうか?

「もともと孤児院のTVドキュメンタリー番組を作ったりしていたので、貧しい子供たちを映画にしたいと考えていました。脚本家のアンドレイ・ロマーノフから新聞記事を見せられたとき、希望を与えてくれる少年の物語だと思い、すぐに映画化へ向けて動き出しました。しかし、単なるメロドラマにはしたくありませんでした。社会的な問題を前面に出したつもりもありませんが、社会に問題を提起し、目を向けさせたかったというのは事実です。これらは実際に起きている事の一部ですから」

――その新聞記事の少年は、どのような結末を迎えたのでしょうか?

「撮影前に記事の少年に会おうと試みましたが、探し出すことは出来ませんでした。しかし、彼は実際に本当の母親に会えたと聞いています」

――日本には「母をたずねて三千里」という、イタリアからアルゼンチンまで出稼ぎにいって戻らなくなった母を追い求める少年を描いた有名なアニメがあります。日本人ならこの映画をみて「母をたずねて三千里」を連想する人も多いと思いますが、こうした物語がどこの国でも受け入れられる要因はなんだと思いますか?

“外の世界”に飛び出したワーニャの行く末は?
“外の世界”に飛び出したワーニャの行く末は?

「この物語の原型は、世界共通。つまり『ユリシーズ』のように“何かを求め、やがて戻ってくる”物語なんです。“外の世界”に飛び出した少年の物語は、当初から世界中で受け入れられるはずだと思っていました」

――詳しく言及はできませんが、エンディングが印象的でした。

「あの後、ワーニャがどういう人生を迎えるのかは誰にも分からないですが、『幸せになってほしい』という希望を込めたエンディングにしたつもりです。子供というものは、国にとっても、家族にとっても、人の命を引き継ぐ大切な“未来”です。孤児や彼らの周りの人々だけでなく、普通の親子にも観てもらい、誰もが子供たちの事をもっと真剣に考えてもらえればと思います」

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