劇場公開日 2006年8月26日

「香川県出身者にとって、必見!」UDON 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0香川県出身者にとって、必見!

2008年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 誰の心にもある故郷を思い出させる食べ物あるでしょう。しかし、ソウルフードと呼べるほど香川県民とさぬきうどんの絆を描いた作品だと思いました。
 このうどんの前には、他の地域の餃子やそばやラーメンは敵わないだろうと思います。
 特に香川県出身者にとって、溜め池や讃岐富士の懐かしい風景に、麦の香りタップリの製麺所でうどんをすする映像を見せられますと、もうそれだけでぐぐっと来ますね。

 本広克行監督は、この絆を描きたかったのでしょう。
 ただその思い入れの深さは、香川県出身者の琴線をズブッと捉えても、讃岐に縁がなかったその多くの県の方にとっては、前半無駄なシーンを数多く見せられたという印象を残されるのかも知れません。

 うどんブームになるまでのところが、ほとんどノンフィクションに近い手法で、怒濤の如くうどん店が紹介されドラマとしての進行がストップしたのが惜しまれます。
 白い実話エピソードがありすぎて、なるべくたくさん盛り込みたくて、しょうがなかったのでしょう。(写っているうどんにはタップリ、しょうがありましたが・・・)

 やっぱりね、後半のコースケがうどん店を再開させていく部分をもっと描いて欲しかったです。

 でも、『UDON』は香川県出身でなくても、故郷を持たれて都会へ夢を持って上京された人なら、共感されることの多いドラマだと思いましたよ。
 誰だって、国にいるときは、両親のありがたさも、その土地の食べ物のおいしさも、みんな当たり前過ぎて、その有り難みが分からないものです。

 少し離れてみれば、見慣れた風景でさえ、なんと感動的に写るものでしょう。そして、国に残してきた親の商売も、その値打ちに気がつくことがあるのかも知れません。
 ブームになる前の、うどん屋の家業といったら主人公のコースケにとって、つまらないものであったのでしょう。
 しかしブームの中で、様々なうどん店を廻り、いろいろな人であって、彼は自分のアイディンティを思い起こしていったのです。そしてブームが去っても変わらない何かを掴んだのでしょう。
 もし親の跡を継ぐべきかどうかお悩みの方は、この作品を見ればきっと決意できると思います。うどんばかりでなく、各地の伝統の中にもきっと素敵な夢が潜んでいるはずです。
 まぁ、でも故郷に大見得張って都会へ出て行った身としては、コースケのように素直に甘えたり、感謝したりできないもんですね(^^ゞ

 ところで、この作品の裏スジとして、インターネット全盛の時代でも口コミはすごいんだということを暗に示している映画であると思いました。
 うどんブームもきっかけは1万部も満たない地方の小さな情報誌が発端を開いたし、さらに閉店したあるうどん店が再開するきっかけも、誰かが店頭の張り紙に、再開を希望するひと言落書きしたことが広まったからです。うどんブームが奇跡なら、ブームが去って、何も宣伝しないのに再開したうどん店に客がゾクゾク集まってくるのも奇跡です。

 こんな奇跡が起こるシーンを見せつけられれば、讃岐の住民のうどんを通じた絆の深さを思い知らさられることでしょう。そして口コミの凄さを描いた意図には、普段マスメディアに関わって大上段で情報を発信している側に立つ、本広監督の自己への戒めもあるのではないでしょうか。

流山の小地蔵