劇場公開日 1997年7月12日

「【それぞれの理由】」もののけ姫 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【それぞれの理由】

2021年8月15日
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この「もののけ姫」の物語はちょっと複雑だ。

単純な二元論では語れない、現代にも通じるテーマを内包しているからだ。

そして、それが物語に深さを持たせているようにも思う。

また、”今”を踏まえて、やり直すことは可能だとするエンディングの示唆も含めて、僕は、ジブリ作品のなかでも、この物語がかなり好きだ。

可能な限り、外との交流を避けて暮らす集落。
しかし、外の影響を完全に排除することなど出来ない。

大勢の人々が住み、商業も発達して、豊かな地域。
しかし、格差はあり、人の持ち物をつけ狙うような罪深い人間も多い。

男女の格差なく、醜いものにも差別なく、役割が与えられている集落。
しかし、武器製造を生業とし、別の地域からは常につけ狙われ、自らも森を侵食し、環境を損なっている。

森。
人間によって木々が伐採され、住む動物達は憎悪を募らせる。

そして、シシ神の支配するシシ神の森。
森の侵してはならないコアな領域。

それぞれ欲するものや、守るべきものが異なり、相互に理解するより、争いで解決しようとする者達。

そして、本来は神の領域と考えられた場所まで足を踏み入れて破壊してしまう。

憎しむべきは対峙する相手なのか。
決定的な判断材料を与えずにストーリーが進んでいく。

これは、今の僕達の生きる世界そのものであり、本来は神の領域とされた場所で失われてしまったところも少なくないはずだ。

シシ神の切り取られた頭を返したのは、まだ、やり直せるという、残り少ない希望を意味しているのだ。

そして、生まれ変わる山々の草木。

元々の森ではないかもしれないが、人間の知恵によって、豊かな自然を再び取り戻すことが出来るのではないかという希望を意味しているのだ。

単純な二元論では、片側の憎悪や正義などに焦点が当たりがちなところを、アシタカ、サン、イヌ、イノシシ、様々な背景を有する人間と、様々な場所を物語に配置することによって、僕達の世界を覆う複雑な問題を、どう考えるべきか、思考を促した秀作だと思う。

ワンコ