劇場公開日 2023年7月28日

「じわじわとくる大作」さらば、わが愛 覇王別姫 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5じわじわとくる大作

2015年10月31日
iPhoneアプリから投稿

蝶衣にとって、「京劇」と「小樓への愛」が人生の全てであった。
舞台の上で、側室である虞美人が項羽を愛することしかできなかったように、現実でも、他の女と結婚した小樓を愛することしかできない。

少年時代、運命を受け入れることを強いられ、初舞台で男色の餌食となってから、彼の男としてのアイデンティティーは崩壊する。
その帰り路に赤ん坊を拾い上げ、小樓と夫婦のように歩く姿は、男でもあり女でもある蝶衣を象徴しているように思えた。

レスリーチャンの、性別を超えた美しさは圧巻。嫉妬と高潔さが織り交ぜられた表情や、役者としての覚悟の深さは、セリフを必要としない。

めくるめく悲劇と裏切りの末のラストシーン。
時は流れ、蝶衣と小樓の関係は愛憎を超越している。子ども時代のセリフの言い間違えにグッとくる。
京劇が続けられない時代。これ以上自分から大切なものが失われないように、高潔な自分を守るための、蝶衣の最後の手段だと解釈した。

Raspberry