劇場公開日 2024年5月10日

「主人公の未熟に起因する破綻した仕事の当然な帰結」トラペジウム 僧ヶ鍬崎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5主人公の未熟に起因する破綻した仕事の当然な帰結

2024年5月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

萌える

失敗を描くビジネス映画として出色の出来。見るべき映画だ。

女子高生 東ゆうは地方都市に住むアイドルワナビーである。
彼女はアイドルという「ビジネス」を進める上で3つの間違いを犯している。

1.同僚に対する目的の意図的な隠蔽
 アイドルになりその仕事を続けて活躍することが活動目的と最初に伝えていないこと。お互いの目的が異なるのだから、プロセスが進むほど同僚との間で見解の不一致が広がる。
 腹黒と感想ではよく言われるが、当然ながらこの事実はいずれ明らかになることが予見できる。それを予め伝達できないのは、騙していることに対する良心と納得させる交渉力の不足に基づく、主人公の未熟さが原因だ。実際、カメラマンには目的を伝えられている。彼女には同僚を納得させる自信がなかったのだ。

2.素質と適性の混同
 かわいい外見と魅力的な個性という素質と、芸能人としてスポットライトが当たることへの耐性という適性は異なるのだが、それらを近似のものと認知していたこと。
 適性がなければ継続できない。つまり、目的は達せられない。まあ、何度もオーディションに落ちている、素質側が一方的に不足している彼女にとって区別をつけることは難しいのだろうが。

3.自己と他者のモチベーション、ベネフィットの不分別、または不足
 自己の利益は他者にとっての利益と同一と勘違いしたまま仕事を進めたこと。彼女にとって脚光を浴びることによる承認欲求の充足が最大のベネフィットであり、それによりモチベーションを維持していた。しかし他の3人はそうでなかった。
 本来はそこをカネで解決するのだが、学生であり所詮は事務所の雇われである主人公には対応不可能である。従って、最初のメンバーの選定に誤りがあった。

ビジネス映画ならば中盤で一度解散したあと、プロセスの振り返りと改善を行い次のメンバーを揃える展開へ進むことが妥当。
そこを個々人の素質に合わせた活動を続ければそれぞれの夢は叶うと帰結させるのは、まあ90分青春アニメ映画というフォーマットの限界かな。十分面白かった。

僧ヶ鍬崎
じゃいさんのコメント
2024年5月13日

すごく面白い分析でうわっと思いました!

じゃい
uzさんのコメント
2024年5月12日

なるほど、“アイドル”ではなく“アイドルビジネス”がテーマと捉えるわけですね。
的確な分析が非常に参考になりました。
『しくじり先生』的な内容だと思えば納得できるかも。

uz