コラム:下から目線のハリウッド - 第16回

2021年8月27日更新

下から目線のハリウッド

「ヒロアカ」佐藤信介監督でハリウッド実写化! 日本人監督がハリウッドでメガホンをとるスゴさとは!?

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回のテーマは、2021年8月中旬に発表された、「僕のヒーローアカデミア」実写化のニュースから、ハリウッドで日本人監督がメガホンをとることのすごさについて語ります!


三谷:今回は、「僕のヒーローアカデミア」のハリウッド実写映画化に関して、佐藤信介監督がメガホンをとるというニュースを取り上げたいと思いまして。

久保田:8月中旬にニュースになってましたよね。

画像は、劇場版アニメ第3弾「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」
画像は、劇場版アニメ第3弾「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」

三谷:はい。このニュースは、「ヒロアカが実写化」というところにも注目が集まっていると思うんですけれど、じつは、「日本人監督がハリウッドでメガホンをとる」というのが特筆すべきポイントでして。

久保田:日本人監督がハリウッドで映画を撮るというのは、ケースとしては多いんですか?

三谷:これがまずケースとして非常に少ないんですよ。

久保田:これまでも、ハリウッドで監督をされた方はいるにはいる?

三谷:私が知っている限りでは、というところなんですが。ひとつは、以前に日本のホラー映画がハリウッドでも人気になった時期があって。

久保田:あー!「THE JUON 呪怨」だ!

三谷:そうです。

久保田:もうあの作品怖すぎて、タイトル聞くだけで鳥肌が立つんですよ。

三谷:本当だ、腕の毛が立ってますね(笑)。その「THE JUON 呪怨」のときに清水崇監督が、向こうでメガホンをとったということがありました。

久保田:ありましたねー。

三谷:もうひとつが、これは日本人監督が撮ったというのとはちょっと違うんですが、90年代に「バッフィ ザ・バンパイア・キラー」という作品がありまして。

久保田:それは知らないですね。

三谷:この作品はフラン・ルーベル・クズイという方が監督をしていて、同作品のプロデューサーにクレジットされている葛井克亮さんという方とはご夫婦なんですね。

久保田:へ~。

三谷:この映画をご存知の方はそれほど多くないかもしれないのですが、その後、アメリカで映画の続編にあたる「バフィー 恋する十字架」というTVシリーズが製作されて、7シーズン続く大ヒットドラマになっています。

久保田:なるほど。日本人が監督したとは言えないけれど、日本にゆかりのある方が関わった作品という感じですね。

三谷:そうです。ほかにも、もしかしたら日本の監督でハリウッド映画を監督した方はいるかもしれないんですが、佐藤信介監督が「僕のヒーローアカデミア」を手掛けるというのは、そういった過去の作品とは、かなり違う流れだと思っていて。

久保田:どういうところが違うんですか。

三谷:一番は、予算規模が大きく違うことになるだろうという点ですね。「THE JUON 呪怨」はヒット作ですし、日本映画の存在感を示した作品ではあるのですが、製作費は1000万ドル(およそ11億円)くらいだったと言われています。

久保田:そうなんだ。

三谷:「僕のヒーローアカデミア」は、“個性”を持ったヒーローたちがたくさん出て、戦いを繰り広げるシーンも多い作品なので、世界観の広がりなども考えてかなりの予算が投じられる作品規模になるんじゃないかなと。

久保田:どれくらいになる感じですか。

三谷:あくまで予想ですけれど、100億円を超える規模の作品になることも十分考えられると思います。

久保田:おお~!

三谷:もし、実際にそうなったとしたら、その規模の作品を、ハリウッドで日本人監督がメガホンをとるというのは、ほとんど前例がないと思います。なので、この作品が成功をおさめたら日本の映画監督にとっても新たな活路が開かれる可能性もあります。

久保田:あれだ。メジャーリーグで言うところの野茂英雄さんのような感じ?

三谷:まさにそうですね。

久保田:1964年にマッシー・ムラカミ(村上雅則)さんがメジャーリーグデビューしてますけど、日本人が大活躍して、それ以降日本人選手が続いたという意味では野茂さんに近いわけだ。あれ? これって「下から目線のメジャーリーグ」でしたっけ?

三谷:違います(笑)。で、この「僕のヒーローアカデミア」の実写映画の製作は、レジェンダリー・ピクチャーズ(Legendary Pictures)というスタジオなんですが、聞いたことありますか?

久保田:ちょっとわからないです。

三谷:「ダークナイト」や「インセプション」を手掛けていて、「GODZILLA ゴジラ」や「名探偵ピカチュウ」など、日本のキャラクターが登場する作品もつくっています。なので、「ヒロアカ」でも日本原作に対する心遣いみたいなところは期待できるのかなと。

久保田:へ~。たしかにそこはちょっと期待できそうですね。

佐藤信介監督
佐藤信介監督

三谷:そんな期待できそうなスタジオでメガホンをとる佐藤信介監督なんですが、これまでどんな作品を撮ってきたのか、という話で。久保田さんは佐藤監督の作品ってご存知ですか?

久保田:うーん。監督で映画を選ばないので、正直全然知らないです。

三谷:じゃあ、いくつか作品を挙げていきますね。最近の映画だと「キングダム」ですね。

久保田:お!観ましたよ「キングダム」。

三谷:おー、観てましたか。あの作品は佐藤監督です。

久保田:そうだったんだ。

三谷:あとは「アイアムアヒーロー」ですとか…。

久保田:観ました!

三谷:これもですか!? あとは「図書館戦争」…。

久保田:観ました! 岡田准一さんの出てるやつですよね?

三谷:そうです。あとは「GANTZ」とか。

久保田:観ました!

三谷:佐藤監督の作品、めちゃめちゃ観てるじゃないですか(笑)!

久保田:本当だね(笑)。どの作品も原作から好きで読んでいて、その上で映画観てすごい良かったんですよね。

「キングダム」
「キングダム」

三谷:その佐藤監督が「僕のヒーローアカデミア」を撮るんですよ。

久保田:これはもう、レジェンダリー・ピクチャーズはいい人に目をつけましたね。素人が何言ってんだって感じですけど(笑)。

三谷:いやいや、実際、いい人選だなって思います。あと、佐藤信介監督がすごいのは――私も普段の仕事の中で、ハリウッドのエージェントとのやりとりや企画の話を耳にすることがあるんですが――「誰に監督をしてもらうか」の話になったときに佐藤監督の名前が挙がることがあるんです。

久保田:それはなんで?

三谷:これは佐藤監督がアメリカのエージェントをつけているからなんです。そういう日本人監督が他にいないわけでもないのでしょうが、アメリカでの仕事の可能性も視野に入れて、アンテナを張っているのは特筆すべき点だと思います。

久保田:すごいね。ちゃんとそういう下地をつくってたんだ。

三谷:……という感じで、よい作品になってヒットしてほしいのは勿論なんですが、心配なことがないわけではなくて。

久保田:なんですか?

三谷:たとえば、俳優さんへの演技指導は英語でしなければいけないわけです。

久保田:あ~。私も仕事でいわゆるネイティブな英語圏の人と話すことありますけど、アメリカのネイティブの人には、「お前はネイティブ並みに英語がしゃべれるのか?」って品定めされることもありますからね。

三谷:そうなんですよ。私も留学時代に経験しましたけれど、言葉の壁は想像以上に厚いので。

久保田:コミュニケーションはすごく大事な部分だとは思うけど、映画を撮る能力以外のところで評価されちゃったりしたら、ちょっとやるせないですよね。

三谷:もちろん佐藤監督はこういったオファーを受けたわけですから、英語も話せるんだとは思いますが、ひとつ心配な部分ではあります。

久保田:こういうときって通訳とかはいないんですか?

三谷:いざという時のために通訳もスタンバイはしていると思いますけど、すべてを通訳任せというわけにはいかないんじゃないかと思います。

久保田:なるほどねー。

三谷:あとは、やはりプレッシャーも心配なことのひとつですね。日本で数々のヒット作を手掛けているとはいえ、ハリウッドでの実績はまだないわけですから。

久保田:たしかにね。今でこそメジャーリーグで活躍する日本人選手は増えてきましたけど、やっぱり1人目みたいな人は、それ以降に続く人よりも背負わされるものがどうしたって重くなりますもんね。

三谷:そうですね。野茂選手がメジャーで活躍したことで、松坂選手やイチロー選手が行って、今、大谷翔平さんがいて、みたいな流れがね。

久保田:これって「下から目線のメジャーリーグ」でしたっけ?

三谷:違います(笑)。ただ、「アメリカでヒットを出せるのか」という意味では近いのかもしれませんね(笑)。

久保田:じゃあ、今回のまとめは、「佐藤信介監督が映画業界の野茂英雄になれるのか」ってことですか。野茂さんは投手だからヒットを打たせないほうの人ですけど。

三谷:そうですね(笑)。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#61 「ヒロアカ」佐藤信介監督でハリウッド実写化!日本人がハリウッドでメガホンをとるスゴさとは!?)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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