コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第69回
2005年9月1日更新
「シン・シティ」の取材で、ロバート・ロドリゲス監督のトラブルメーカー・スタジオを訪問した。トラブルメーカーとは「スパイ・キッズ」シリーズや「シン・シティ」を生み出したロドリゲス監督の製作会社で、アメリカ南部のテキサス州オースティンにある。旧空港施設をそのまま利用し、看板などをいっさい掲げていないので、外観を見ただけでは、まさかここがハイテク映画工房だとは誰にもわからないだろう。インダストリアル・ライト&マジックと同様、わざと人目につかないようにしているらしく、外観の撮影はNGだった。
中に入って驚くのは、施設の充実ぶりだ。飛行機格納庫を改造した撮影スタジオは、壁一面がグリーンに塗装され、いつでも合成撮影ができる状態になっていた。ここで撮影されたデータは、2階にあるVFXルームにリアルタイムで転送され、すぐに加工作業が施される仕組みになっている。また、美術工房や衣装部屋も充実しており、俳優さえハリウッドから呼び寄せれば、外に一歩も出ることなしに、映画を生産できる仕組みになっているのだ。裸一貫でよくぞここまで築き上げたものだと、つくづく感心する。
ここのもうひとつの特色は、家族的な雰囲気だろう。「シン・シティ」の撮影中、休憩時間になると、監督の子供たちが駆け回り、俳優たちはバーベキューを楽しみ、監督はギターを弾いていたという。そんな健康的な環境で、あれほどバイオレントな作品が作られたというのもおかしな話だけれど。
ロドリゲス監督はずっとミラマックスと仕事をしているが、あの悪名の高いワインスタイン兄弟から映画に口出しされることは、皆無に等しいという。それは、ワインスタイン兄弟のいるニューヨークから遠く離れていることに加えて、製作費を常に安く抑えているからだとか。
先日、フランシス・フォード・コッポラ監督がトラブルメーカー・スタジオを訪問した際、「これこそ、ゾエトロープ・スタジオでやりたかったことだ」と感激したという。メジャースタジオに干渉されることなしに、自由に作品作りに打ち込める環境は、数え切れない苦渋を経験したコッポラ監督にはきっと眩しく見えたに違いない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi