コラム:若林ゆり 舞台.com - 第65回

2018年3月2日更新

若林ゆり 舞台.com

第65回:「メリー・ポピンズ」で超厳格な稽古に支え合い立ち向かう、濱田&平原の奮闘!

メリー・ポピンズとは、いったい何者なのだろう? バンクス家の子どもたちと両親のために、傘をさして空から舞い降りてきた不思議な子守。パメラ・L・トラバース女史が書いた児童文学シリーズでは、硬くてちょっと冷淡でツンとしたメリー(メアリー)だが、ジュリー・アンドリュースが主演したディズニー製作の映画ではずいぶんと朗らかでやさしく、温かいイメージだ(映画ができるまでの紆余曲折は映画「ウォルト・ディズニーの約束」に詳しい)。

そして2004年、ディズニーとミュージカル界の名プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュ(「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」)がタッグを組み、ロンドンで開幕したミュージカル版のメリーは、また新たな魅力を放っている。作品そのものが原作と映画のよさ、どちらもいいとこ取りの最高級エンターテインメントに仕上がっているのだ。まさに魔法がかかったとしか言いようがない、パワフルな楽しさと深い感動のめくるめく世界。ブロードウェイなど世界各国でも人気を呼んだこのミュージカルが、ついに日本人キャストで上演される。

日本版でメリーを演じるのは、長いオーディションを経てこの役を勝ち取った実力派の2人。日本ミュージカル界の第一人者、濱田めぐみと、歌手として「Jupiter」などのヒット曲をもつ平原綾香だ。「ラブ・ネバー・ダイ」でもWキャストを経験。今回も過酷な稽古に四苦八苦しながら支え合い、メリー役を深めつつある2人を直撃した。まず、英国クリエイティブ・チームによるオーディションはどんなものだった?

メリー・ポピンズに扮する濱田めぐみ(左)と平原綾香(右)
メリー・ポピンズに扮する濱田めぐみ(左)と平原綾香(右)

濱田「まずビデオ審査があって、その後、『メリーとして振り向いて』とか、メリーの知り合いが来たときに『こっち、こっち』と部屋の中に呼び込んで、とか。バラエティに富んだことをやりましたね。細かい指示を出されて。それが、長い歳月にわたって何度かあって。その間はほかの芝居をやっていても、同時にずーっと『メリー・ポピンズ』のお稽古をしているような印象だったんですよ」

平原「私は、人生初めてのオーディションだったんです。『ビューティフル』の前、人前で演じた経験は『ラブ・ネバー・ダイ』だけという時点で。『メリーには場のすべてを支配するようなオーラがなきゃいけない』とスタッフから聞いていたので、自分にできるかという不安な気持ちもありました。オーディションの歌が『Practically Perfect』という曲で、『私は頭のてっぺんから爪の先まで完璧』という内容に『いやいや、私なんてそんなんじゃないのに』とも思って。だから、弱音を吐きたくなりながらもメリーがそうさせてくれない、みたいな感覚でしたね。『君は歌になると突然、自信が出るな』と言われて、『それはそうです』と言いました(笑)」

実際に稽古を重ね、2人はメリー・ポピンズをどういう人物だと捉えているのだろう。

濱田「正直に言うと、よくわからない。わかりきれない部分が彼女の本質なんだろうけど、“人間ではなくて、人間の形をした存在”。妖精とも言えるし宇宙人とも言えるし、天使みたいな存在とも言えるし。我々の感情ではなかなか把握できないんです」

平原「私は最初『メリー・ポピンズ』をよく知らず、『この人何してる人なんだろう? 不思議すぎる』と思っていて。映画を見たらよけいわからなくなってしまいました。舞台のイメージと違うから。でもひとつ、腑に落ちたのが“宇宙人”というキーワードだったんです。オーディションのとき、演出家の方に『メリーというのは宇宙人だから』と言われて、『ああ、だからこんなに謎めいた人物なのか』と合点がいって。前世が宇宙人と占いで言われたこともあったので(笑)、心の支えになりました。感情移入できるのか、できないのかわからないですが(笑)」

左から、バート役の大貫勇輔&メリー役の濱田めぐみ、メリー役の平原綾香&バート役の柿澤勇人
左から、バート役の大貫勇輔&メリー役の濱田めぐみ、メリー役の平原綾香&バート役の柿澤勇人

わからないなりに2人が洞察したところ、メリーは「ツンデレ」で、かなりガキっぽいらしい。

濱田「子どもたちのことを愛しているのに、子守という立場上か、『ダメ』とピシャリ。この距離の置き方も、人間的じゃないところもあるし、すごく人間的な感じが醸し出される瞬間もあるんです」

平原「けっこう子どもの目線で話す人なんですよ。話し方はすごく子守っぽいんですけど、ジェーンやマイケルと時々張り合っているし、けっこう大人げなく言い返す。『大丈夫かなぁ、この人?』と思ってしまうようなセリフがいっぱいある……(笑)。ジュリー・アンドリュースのメリーを見たときには感じなかったものなので、映画版のイメージだけで来た方はビックリすると思います(笑)」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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