コラム:若林ゆり 舞台.com - 第27回

2015年6月4日更新

若林ゆり 舞台.com

第27回:異才イケテツが挑むウエスタン・アクションコメディに漲る西部劇魂!

日本ではどうも、西部劇は人気がないということになっているらしい。埃っぽくて男臭くてバイオレント。オシャレじゃないから女子受けしないんだとか。ホワイ、ジャパニーズピープル、ホワイ~!? と思わず叫びたくなる。その泥臭さ、男臭さががいいんじゃないか! 西部劇に名作は多いし、熱狂的なファンもたくさんいるジャンルなのに……クエンティン・タランティーノだって「ジャンゴ 繋がれざる者」に続いて「The Hateful Eight」でバリバリのウエスタンを鋭意製作中だというのに!

そんなウエスタン愛をもてあまし中のみなさんに朗報! 個性派俳優にしてコント作家・脚本家・演出家としてテレビ・映画界でも活躍する異才・イケテツこと池田鉄洋が、西部劇に挑む。その名も「GO WEST」。しかしいまなぜ、イケテツは西部劇に向き合う気になったのか? 実は西部劇ファンなのかと思いきや、「僕はほとんど西部劇って見ていなかったんです」と意外な答え。西部劇をやろうと提案したのは、この作品に悪役で出演している田口浩正だったのだ。「『当たらない』と言われているジャンルだからこそ、興味を持った」というイケテツ。その心に火をつけたのは、チャレンジ精神だった。

作・演出・娼婦役の池田鉄洋
作・演出・娼婦役の池田鉄洋

「僕はこれまで『バブー・オブ・ザ・ベイビー』でゾンビもの、『BACK STAGE』で宇宙人ものに挑戦していまして(2本とも脚本・演出・出演)。最近ゾンビものは増えてきましたけど、2年前はまだまだ『当たらない』という認識だったんですね。でも、そう言われながらも昔から続いているジャンルって、続いてきているだけの魅力があるんだと思う。西部劇も無謀だからこそ挑戦してみたかったし、コメディとして成功させたいと思ったんです」

そこから、比較的新しい作品を中心に西部劇を何本も見たというイケテツ。新たな発見が多く、大いに刺激を受けたというが、とくに影響を受けた作品は?

「『テッド』の監督(セス・マクファーレン)が撮った『荒野はつらいよ アリゾナより愛をこめて』を見たときは『あ、先にヤラレた!』って気はしましたね。『そういうことですよね』と思った部分が多かったんです。人がバッタバッタ死んでいくし。実際、土埃で肺がんになる人も多かったって聞いてますから、イヤだなあと思って来ていた人もいるだろうと。そのへんのヘタレ具合はまさに『荒野はつらいよ』にインスパイアされたんです。それから、タランティーノの『ジャンゴ』はとにかくあの世界観がカッコよかった。ウエスタンの撃ち合いって、基本、みんながパンッパンッって撃ち合って、ちょっと血が出て倒れる、みたいな感じだったと思うんですけど、『ジャンゴ』では筋肉とか血がジャンジャン飛び散る(笑)。おお、なんだこういうアクションも技術に頼らずに進化できるんだ、と発見して。演劇も映画と同じように進化させていけたらいいなと思いました。それから、クリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』も、西部劇として作られてはいないけど西部劇ですよね。西部劇のカッコよさをそのまま見せるんじゃなくて、ちょっとヒネっている。そういう工夫をすれば、西部劇的なカッコよさというのは見せられるんだなと、これにも勇気づけられました」

舞台初主演となる渡部秀
舞台初主演となる渡部秀

舞台となるのは開拓時代、大陸横断鉄道の開通を数日後に控えた西部の町。主人公は、元ウエスタンショーの芸人で鉄道オタク、過去のトラウマで人を撃てないヘタレのモンキー(渡部秀)だ。彼と芸人仲間の3人組が悪党に追われたり、賞金稼ぎに追われたり、大統領令嬢とともにピンチに陥ったりしながら大奮闘。稽古場には西部劇の枠組みだけを借りたコントではなく、しっかりと濃厚な西部劇の世界観が浮かび上がっている。

「西部劇を日本人が映画でやると『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』みたいに、ちょっと無理がある。でも演劇だったらできるじゃないですか。だから、ウエスタン愛のある人にも『許してやるよ』って言われるくらいの世界観を出したかった。かなりリスペクトはしないとダメだし、逃げちゃいけないなと」

そしてもう1本、ウエスタン・コメディといえば、忘れてはならない名作映画が『サボテン・ブラザース』。設定から察することができるように、これはあえて、もろに被った作りになっている。

「これはもう名作、ウエスタン・コメディの王道ですからね。三谷幸喜さんほか、ファンを名乗っている人も多いし。でも、意外と正面から手をつける人はいなかった。無謀な挑戦だとは思うんですけど、スリー・アミーゴスのあのポーズもちょっと取り入れていたりして(笑)。好きな人はもちろん『あ、お前、知っててやってるな』と思うだろうし。あれと同じにはならないように、あれを超えるものになればいいなと思いながらやっています」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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