時代を超えて愛される不朽の作品力! 今こそ見たい大映映画 : 特集
■時代を超えて愛される不朽の作品力! 今こそ見たい大映映画
映画会社大映の創立80周年記念企画「大映4K映画祭」(角川シネマ有楽町ほかで開催中)の連動企画として、劇場上映作品とは異なる選りすぐりの12本を配信する「大映映画祭」がシネマ映画.comで開催中です。
大映ってどんな映画を作っていたの? 興味はあるけれど、昔の映画は何を見たらいいかわからない…そんな疑問への回答と、今回の「大映映画祭」ラインナップの見どころをKADOKAWA文芸・映像事業局の渡邉さよさんに聞きました。時代を超えて愛される日本映画の不朽の名作に触れるチャンスです!
■大映とは?
1942年の創立から約30年間で1,500本もの作品を世に送り出した映画会社で、戦時下に政府の企業統合政策により新興キネマ、大都映画、日活製作部門を統合して作られた。実業家、映画プロデューサー、プロ野球オーナー、馬主として知られる創業者永田雅一氏のワンマンではあるが全盛期のパワフルな経営力にはさまざまな逸話が残されている。初代社長は作家の菊池寛。
日本映画史に刻まれる錚々たる監督、俳優陣を輩出しており、1951年に黒澤明監督「羅生門」がベネチア国際映画祭グランプリ、53年に溝口健二監督「雨月物語」がベネチア国際映画祭銀獅子賞、54年に衣笠貞之助監督「地獄門」がカンヌ国際映画祭グランプリ、溝口健二監督「山椒大夫」がベネチア国際映画祭銀獅子賞と、今なお世界で高く評価される作品を次々に生み出した。
■KADOKAWA渡邉さよさんインタビュー
――大映で作られた映画の魅力はどのようなものでしょうか?
▼「羅生門」はじめ海外映画祭でも高評価 映像の“豪華さ”に注目!
何と言っても“豪華さ”だと思います。そこが会社が潰れてしまった一因でもあるのですが(笑)、悪く言うとワンマン、良く言うとリーダーシップのある創業者の永田さんの判断で、注力作については1本あたりにかける予算としては多すぎると言われるくらいのお金をかけ、しっかりゴージャスに作っていました。監督それぞれのこだわりが具現化できる環境が整っていたのだと思います。
そして、スタッフのみなさんが高い技術を持っていました。ほんの一瞬しか映らないものでもそれぞれに意味合いが込められていたり、リアルさや美しさが追求されていて、その豪華さは、現代のCGを利用して完成された映像と並んでも遜色のないものです。
▼京マチ子・山本富士子・若尾文子らスター女優陣が、多様な役どころで新しい女性像を演じた
永田さんは、「映画という商売においては女優が大事」と言っていたそうです。古い日本映画で女優に与えられる役は芸者か家庭の妻…というように二極的で、男性に翻弄されて耐え忍んでいたり、もしくは純真な性格、また男性主人公の添え物のようなタイプが多かったと思います。しかし、大映映画の女性は、そのようなステレオタイプな役ではなく、自我もあり、現代の私たちが見ても共感しやすいと思います。仕事を持ち自立し結婚しない女性、女性同士の恋愛を描いた作品もあります。
例えば若尾文子さんは、初期の舞妓役、悪女や時代や運命に翻弄される薄幸な役、明るくバイタリティ溢れる役など、様々な役どころで主役を張っています。「羅生門」の京マチ子さん、山本富士子さんら、万華鏡のように変化する女優陣の演技を楽しんでほしいです。
▼時代劇の京都、現代劇の東京 それぞれの個性を楽しめる
大映は京都と東京に撮影所を持っており、それぞれ作品の個性があります。京都はゴージャスな時代劇の技術力とセンス。「羅生門」をはじめ海外の映画祭で受賞してきた名だたる作品を生み出してきました。その一方で、「大魔神」(安田公義監督)のような大衆的に楽しめる映画も撮っています。
東京ではモダンな現代劇を作ってきました。役者さんの個性を際立たせるようなセットも素晴らしく、ちょっと表現が激しめなのが大映の現代劇の特徴で、その後の大映ドラマに繋がっていくのかなと思います。
――リアル開催の「大映4K映画祭」、そしてシネマ映画.comでの配信作ラインナップの特色、見どころを教えてください
▼4K初上映、初配信作に注目
リアル開催の「大映4K映画祭」で上映する「夜の河」(吉村公三郎監督)は今回4K初披露となります。山本富士子さんが、染物職人として成功している主人公を演じ、偶然惹かれた相手が既婚者だった……という物語。映像や衣装は今とは異なる時代のものとして美しく、目で見て楽しめますし、60年以上前の映画ですが、仕事と恋のはざまで揺れる主人公の心情は、遠い昔の話ではないように受け取っていただけると思います。
また、2月16日に開幕するベルリン国際映画祭での海外初上映も決定しました。「伝統を現代へと継承する中で強く生きる女性の物語を雄弁に物語る映像に魅了されたこと」、「日本のカラー映画初期の本作のレストレーションの質の高さに感銘を受けたこと」を理由として選出いただいたそうです。海外でご覧になった方がどのような感想をもたれるのか、楽しみです。
シネマ映画.comでは、同じく山本富士子さん主演作であり、市川崑監督作品である「黒い十人の女」と「私は二歳」という、それぞれ対照的な演技を楽しめる作品をセレクトしました。「黒い十人の女」はモダンな話なので、古い映画を初めて見る方にも楽しんでいただけるオススメの一作です。
また、初配信の作品となる、京マチ子さん主演の「地下街の弾痕」(森一生監督)は、現代劇ですが、大阪府警の協力を得て大映京都が作っています。ドキュメンタリーとまではいきませんが、非常にリアルに作られているので、ディープな大映ファンにはぜひ見ていただきたいですね。
▼市川雷蔵、勝新太郎らスター俳優の時代劇を味わおう
市川雷蔵さん主演の「剣に賭ける」(田中徳三監督)も初配信の作品です。そして代表作である時代劇シリーズの「眠狂四郎 勝負」(三隅研次監督)。勝新太郎さんは「森の石松」(田坂勝彦監督)と、人気シリーズの5作目「座頭市喧嘩旅」(安田公義監督)。おふたりとも大映を代表するスター俳優です。人気シリーズの一本と、シリーズの役どころとはまた異なる魅力を楽しめる作品をセレクトしました。時代劇では真剣勝負、賭場、股旅など、多様なシチュエーションでの殺陣も見どころです。
▼今だからこそ見たい、戦争を描いた作品
豪華さや美しさが魅力の大映映画ですが、4K映画祭では「赤い天使」(増村保造監督)、シネマ映画.comの配信では市川崑監督の「野火」と、戦場の過酷さをリアルに描いた作品もあります。当時、実際に戦争を体験した世代の方たちが描いた作品なので是非見ていただきたいです。
「野火」主演の船越英二さんは、気品と明るさ、そして抜群の演技力で様々な役をこなし、主演女優さんを支える作品が数多くあります。船越さんのほか、中村玉緒さん、田宮二郎さんなど脇助演で輝いた役者さんも魅力的なので、こちらも注目して欲しいです。
▼CGのない時代、創意工夫を凝らした特撮ものが面白い!
大映には、Netflixで新作が作られる「ガメラ」シリーズなど特撮映画もあり、今回シネマ映画.comで配信する「宇宙人東京に現る」(島耕二監督)には、芸術家の岡本太郎さんがデザインしたパイラ人という宇宙人が登場します。ハイテクノロジーの映画に慣れた現代から見たら、素朴に見えますが、面白いものを作ろうとする努力が楽しい作品です。また、当時SF映画製作にあたって、岡本太郎さんを起用して話題にするなど、製作と宣伝が有機的に機能して面白い作品を作っていたことが興味深いです。
パイラ人は、先日まで東京で開催されていた「展覧会岡本太郎」でも紹介されていたそうです。絵画、文学などさまざまな文化をもとに、面白い映画を作ろうとしていたのだと思います。また、東京現代美術館で開催中の展覧会「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」では、ディオールがデザインした「羅生門」というドレスがあります。京マチ子さんがパリのディオールを訪れた写真と共に展示されています。
▼配信作品では好きなシーンを何度でも 祖父母世代や家族と一緒に楽しめる
劇場での鑑賞はもちろん素晴らしいものですが、配信は自分の好きなシーンを何度も見られますし、お近くの映画館で旧作の上映がない方にも気軽にお楽しみいただけます。大映作品はリアルに知っている世代には懐かしさ、若い世代には新鮮さを持って、家族そろって楽しんでいただける作品も多いです。リアル開催の「大映4K映画祭」では、雷蔵さんファンのおばあさま、そのお子さまとお孫さんという3世代で来場するお客様もいました。
大映作品の4K修復については、撮影当時の助手の方や現場に携わっていた方のお話を伺いながら当時の味わいを残し、お客様に楽しんでいただくという意味でも、より踏み込んだ形のデジタル化を進めています。ぜひ大映の作品を今後もお楽しみいただけると嬉しいです。