多岐川恭 : ウィキペディア(Wikipedia)

は、日本の小説家・推理作家。本名、松尾 舜吉多岐川 恭 : 北九州市立文学館

本格推理からSF、時代ミステリーまで、多数の作品を発表した。また「ゆっくり雨太郎捕物控」などの時代小説もある。

また、代表となって若手探偵作家の親睦団体の「他殺クラブ」を結成した。メンバーには河野典生樹下太郎佐野洋、竹村直伸、星新一、水上勉結城昌治らがいた。のちに、笹沢左保大藪春彦、新章文子、都筑道夫、高橋泰邦、三好徹、生島治郎梶山季之戸川昌子佐賀潜らが参加した。

推理作家や推理小説の挿絵を描いていた画家によるゴルフ同好会「蟻這会」(アリバイかい)を主宰していた。

経歴

福岡県八幡市(現・北九州市)生まれ。従兄に戸川幸夫がいる『朝日新聞』1959年1月21日。

旧制第七高等学校を卒業し、東京帝国大学経済学部在学中の1944年に召集を受ける。東京帝国大学経済学部卒業短編集「落ちる」:北九州市立文学館

戦後、横浜正金銀行の東京本店(現在の東京銀行、後の三菱UFJ銀行)に入行するが、食糧事情を理由に門司支店に転任。一時小説家を目指し退職するも、毎日新聞西部本社に再就職する。 資料課の後に報道部に異動。激務のため転勤を願い出て、小説を書く時間を得た。

毎日新聞社に勤務する中、の筆名で小説を書く。

白家太郎の筆名で『宝石』に応募し) 1954年に「みかん山」が佳作入選し、デビュー。1956年に再び短編懸賞に応募し、「落ちる」「黄色い道しるべ」がそれぞれ2位と佳作に入選。1958年には河出書房の「探偵小説名作全集」の別巻として公募された新人の書き下ろし長編に「氷柱」を投じ、次席入選した。しかし同書房が破綻し、第一席入選の仁木悦子『猫は知っていた』は江戸川乱歩賞にまわされたが、「氷柱」の刊行は同書房の復活まで延期され、1958年に多岐川恭の筆名で刊行された。 同年『濡れた心』で江戸川乱歩賞、さらに短編集『落ちる』で直木賞を受賞(ただし実際に選考対象となったのは「落ちる」「ある脅迫」「笑う男」の3短編)。

1961年には『変身島風物誌』『お茶とプール』『人でなしの遍歴』など8長編を発表。出島を密室に見立てた時代ミステリー『異郷の帆』や、冷凍睡眠で未来にやってきた検事が活躍するSFミステリー『イブの時代』もこの年の作。また時代小説にも手を染め、1969年より「ゆっくり雨太郎捕物控」を連載( - 1975年)。その後も『墓場への持参金』(1965年)、『宿命と雷雨』(1967年)、『的の男』(1978年)、『おやじに捧げる葬送曲』(1984年)などの推理小説があるが、もっぱら時代小説が中心であった。

1994年に「レトロ館の殺意」を連載、完結後に脳梗塞のため12月31日に死去した。

受賞・受章歴

  • 1958年 - 『濡れた心』で第4回江戸川乱歩賞、『落ちる』で第40回直木賞
  • 1989年 - 紫綬褒章受章

著書

長編

  • 『氷柱』(河出書房新社) 1958、のち春陽文庫、講談社文庫、創元推理文庫
  • 『濡れた心』(講談社) 1958、のち文庫
  • 『虹が消える』(河出書房新社) 1959、のち改題『残酷な報酬』(徳間文庫)
  • 『私の愛した悪党』(講談社) 1960
  • 『静かな教授』(河出書房新社) 1960、のち改題『恐怖の戯れ』(徳間文庫)
  • 『変人島風物誌』(桃源社) 1961、のち創元推理文庫
  • 『仮面と衣装』(浪速書房) 1961
  • 『影あるロンド』(講談社) 1961
  • 『異郷の帆 オランダ屋敷殺人事件』(新潮社) 1961、のち講談社文庫
  • 『人でなしの遍歴』(東都書房) 1961、のち創元推理文庫
  • 『お茶とプール 完全殺人事件』(角川書店、角川小説新書) 1961
  • 『イブの時代』(中央公論社) 1961
    • 『イブの時代』(日本文華社・新書) 1966、のち早川文庫
  • 『絶壁』(毎日新聞社) 1961
  • 『孤独な共犯者』(ケイブンシャ文庫)
  • 『吸われざる唇』(講談社) 1962
  • 『牝』(東京文芸社) 1962
    • 『めす』(東京文芸社) 1965
  • 『処刑』(宝石社) 1962
  • 『樹の中の声』(東都書房) 1962
  • 『乳色の暦』(桃源社) 1963
  • 『みれんな刑事』(講談社) 1964
  • 『甘いホテル』(講談社) 1964
  • 『悪魔の賭け』(東方社) 1964
  • 『消せない女』(講談社) 1965、のち光文社文庫
  • 『墓場への持参金』(光文社、カッパノベルス) 1965、のち文庫
  • 『売り出す』(東京文芸社) 1966
  • 『宿命と雷雨』(読売新聞社) 1967、のち光文社文庫
  • 『ふところの牝』(東京文芸社) 1967、のち光文社文庫
  • 『消えた日曜日』(桃源社) 1971、のち光文社文庫
  • 『男は寒い夢を見る』(桃源社) 1972、のち光文社文庫
  • 『しくじった償い』(桃源社) 1975
  • 『血の匂い』(桃源社、ポピュラー・ブックス) 1975
  • 『殺人ゲーム』(ワールドフォトプレス) 1975
  • 『道化たちの退場』(講談社) 1977.5
  • 『紅い蜃気楼』(徳間書店) 1978.7、のち文庫
  • 『的の男』(実業之日本社) 1978.7、のち徳間文庫 - 1979年に「標的」としてテレビドラマ化
  • 『怖い依頼人』(桃園書房) 1978.9
  • 『共犯者は一度会えばいい』(実業之日本社) 1984.6
  • 『京都で消えた女』(講談社ノベルス) 1984.7、のち文庫
  • 『おやじに捧げる葬送曲 億万長者殺人事件』(講談社ノベルス) 1984.11
  • 『地獄のカレンダー』(実業之日本社、Joy novels) 1985.11
  • 『私の愛した悪党』(講談社文庫) 1985.9
  • 『血の色の喜劇』(桃園文庫) 1986.1
  • 『霧子、閃く!』(勁文社ノベルス) 1986.2
  • 『長崎で消えた女』(講談社ノベルス) 1987.3、のち文庫
  • 『仙台で消えた女』(講談社ノベルス) 1988.7、のち文庫
  • 『レトロ館の殺意』(新潮社) 1995

短編集

  • 『落ちる』(河出書房新社) 1958、のち春陽文庫、徳間文庫、創元推理文庫
「落ちる」「猫」「ヒーローの死」「ある脅迫」「笑う男」「私は死んでいる」「かわいい女」
  • 『黒い木の葉』(河出書房新社) 1959、のち春陽文庫
「みかん山」「黄いろい道しるべ」「澄んだ目」「黒い木の葉」「ライバル」「おれは死なない」「雲がくれ観音」
  • 『好色な窓』(講談社) 1959
「好色な窓」「知らなかった目撃者」「御報告申しあげます」「死者は鏡の中に住む」「古い毒」
  • 『死体の喜劇』(新潮社) 1960
「井戸のある家」「きずな」「二夜の女」「チューバを吹く男」「奇妙なさすらい」「わるい日」「死体の喜劇」
  • 『悪人の眺め』(角川小説新書) 1961
「悪人の眺め」「罪ある追憶」「二夜の女」「死が追ってくる」「アリバイがいっぱい」
  • 『手の上の情事』(東都書房) 1961
「情事は場所を変える」「二階の他人」「網の中」「草の中の女」「処女と哲学者」「あたしは眠い」「一人が残る」
  • 『おとなしい妻』(新潮社) 1961
「おとなしい妻」「蝶」「殺意」「はるかな空の祭り」「あいつを殺して」「春の水浴」、コミック三編
  • 『指先の女』(桃源社) 1961
「あつい部屋」「餌」「路傍」「吉凶」「峠の死体」「指先の女」「雷雨」
  • 『夜の装置』(講談社) 1963
  • 『愛憎の接点』(東方社) 1963
  • 『好都合な死体』(東京文芸社) 1963
  • 『無頼の十字路』(桃源社) 1967
  • 『老いた悪魔』(桃源社) 1969
  • 『殺人者はいない』(桃源社) 1969
  • 『女のいる迷路』(桃源社) 1969
  • 『非情階段』(桃源社) 1969
  • 『殺意の海』(日本文華社・新書) 1969
  • 『詐謀の城砦』(日本文華社・新書) 1970
  • 『悪女の挨拶』(桃源社) 1970
  • 『牝の感触』(桃源社) 1970
  • 『乱れた関係』(桃源社) 1972
  • 『残された女』(桃源社) 1972
  • 『捕獲された男』(桃源社) 1973
  • 『女たちの夜』(桃源社) 1974
  • 『13人の殺人者』(講談社) 1978.10
  • 『微笑する悪魔』(光風社ノベルス) 1984.8
「地獄へ行け」「歯ぎしり」「微笑する悪魔」「柔らかい唇」「靴を脱いだ女」「振り放し」「負け犬にねぐらはない」「窓の死神」
  • 『昼下がりの殺人』(光風社出版、多岐川恭ミステリーランド 1) 1991.5
  • 『殺意を砥ぐ』(光風社出版、多岐川恭ミステリーランド 2) 1991.8
  • 『罠を抜ける』(光風社出版、多岐川恭ミステリーランド 3) 1992.3
  • 『夢魔の寝床』(光文社文庫) 1992.3
「夢魔の寝床」「大坂城の女」「長い賭け」「駕籠の中」「伊達くらべ元禄の豪商」「二人の彰義隊」「好機を逸す」「ある憂国者の失敗」
  • 『不運な死体』(光風社出版、多岐川恭ミステリーランド 4) 1992.7

時代小説

  • 『女人用心帖』(桃源社) 1962、のち徳間文庫
  • 『五右衛門処刑』(桃源社) 1963、のち徳間文庫
  • 『明暦群盗図』(桃源社) 1965、のち徳間文庫
  • 『異端の三河武士』(人物往来社) 1967、のち改題『叛臣』(光文社文庫)
  • 『小説 江戸の犯科帳』(人物往来社) 1968、のち改題『江戸犯科帖』(徳間文庫)
  • 『江戸悪人帖』(桃源社) 1968、のち双葉文庫、徳間文庫
  • 『江戸三尺の空』(東京文芸社) 1968、のち大陸文庫、新潮文庫
  • 『無頼の残光』(桃源社) 1969、のち改題『駆落ち』(光文社文庫)
  • 『柳生の剣』(新人物往来社) 1971、のち徳間文庫
  • 『姉小路卿暗殺』(講談社) 1971
  • 『江戸智能犯』(桃源社) 1971、のち大陸文庫、のち改題『べらんめえ侍』(光文社文庫)
  • 『深川売女宿』(桃源社) 1972、のち改題『出戻り侍』(光文社文庫)
  • 『元禄葵秘聞』(講談社) 1972、のち徳間文庫
  • 『目明しやくざ』(桃源社) 1973、のち光文社文庫、徳間文庫
  • 『練塀小路のやつら』(講談社) 1973、のち改題『練塀小路の悪党ども』(新潮文庫)、徳間文庫
  • 『色仕掛 闇の絵草紙』(新潮社) 1975、のち文庫、徳間文庫
  • 『江戸妖花帖』(桃源社) 1975、のち光文社文庫、徳間文庫
  • 『馳けろ雑兵 御先祖様功名記』(桃源社) 1975、のち光文社文庫
  • 『お江戸探索御用』(桃源社) 1976、のち徳間文庫
  • 『開化回り舞台』(双葉新書、ポピュラー・ブックス) 1977.4、のち改題『開化怪盗団』(光文社文庫)
  • 『用心棒』(新潮社) 1978.11、のち文庫、徳間文庫
  • 『肌に覚えが 富太郎捕物ばなし』(桃園書房) 1980.3
  • 『色あそび お丹浮寝旅』(サンケイ出版) 1980.5、のち光文社文庫
  • 『鼠小僧の冒険』(双葉社) 1981.6、のち改題『鼠小僧盗み草紙』(新潮文庫)、徳間文庫
  • 『岡っ引無宿』(講談社) 1981.10、のち徳間文庫、光文社文庫
  • 『武田軍団壊滅』(成美堂出版) 1981.12、のち改題『武田騎兵団玉砕す』(光文社文庫)
  • 『飼われた男 お夏太吉捕物控』(実業之日本社) 1982.3、のち改題『お夏太吉捕物控』(徳間文庫)
  • 『後家ごろし 四方吉捕物控』(光風社出版) 1982.8、のち『四方吉捕物控』1 - 4(徳間文庫)
  • 『毒のある女 四方吉捕物控』(光風社出版) 1982.9
  • 『暗闇草紙』(講談社) 1982.5、のち新潮文庫
  • 『首打人左源太』(双葉社) 1983.12、のち文庫、のち改題『首打人左源太事件帖』(徳間文庫)
  • 『追われて中仙道』(光風社出版) 1984.3、のち大陸文庫、新潮文庫
  • 『偽りの刑場』(双葉ノベルス) 1985.9、のち改題文庫化『首打人・偽りの刑場』文庫、のち原題で徳間文庫
  • 『闇与力女秘帖』(講談社) 1985.7、のち徳間文庫、光文社文庫
  • 『片手斬り同心 首打人左源太』(双葉ノベルス) 1987.2、のち文庫、徳間文庫
  • 『晴れ曇り八丁堀』(双葉社) 1989.4、のち文庫、のち改題『かどわかし』(徳間文庫)
  • 『お江戸捕物絵図』(光風社出版) 1989.2、のち改題『闇十手』『鬼十手』(祥伝社、ノン・ポシェット)
  • 『江戸の一夜』(光風社出版) 1989.11、のち新潮文庫
  • 『春色天保政談』(新潮社) 1990.6、のち文庫、徳間文庫
  • 『深川あぶな絵地獄』(新潮文庫) 1990.7、のち徳間文庫
  • 『悪の絵草紙』(講談社) 1975、のち徳間文庫
  • 『居座り侍』(光文社文庫) 1990
  • 『紅屋お乱捕物秘帖』(双葉社) 1991.9、のち文庫、徳間文庫
  • 『落花の人 日本史の人物たち』(光風社出版) 1991.11
  • 『心中くずし 紅屋お乱捕物秘帖』(双葉社) 1992.5、のち文庫、徳間文庫
  • 『ご破算侍』(光文社文庫) 1993.5
  • 『江戸の敵』(光風社出版) 1994.6、のち新潮文庫、徳間文庫
  • 『情なしお源金貸し捕物帖』(双葉社) 1994.1、のち文庫、徳間文庫

「ゆっくり雨太郎捕物控」

  • 『ゆっくり雨太郎捕物控』(新潮社) 1968、のち春陽文庫、徳間文庫(1 - 6)、講談社時代小説文庫
  • 『雨太郎無頼帖』(桃源社) 1969
  • 『悪い連中 ゆっくり雨太郎捕物控』(新潮社) 1973
  • 『魔性 ゆっくり雨太郎捕物控』(新潮社) 1975
  • 『蔦屋の心中 ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1980.11
  • 『二人の浪人 ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1981.7
  • 『犬を飼う侍 ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1981.10
  • 『からくり茶屋 ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1982.1
  • 『人形屋お仙 ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1982.4
  • 『天狗の使い ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1982.6
  • 『狙われる奴 ゆっくり雨太郎捕物控』(光風社出版) 1982.7

随筆

  • 『兵隊・青春・女』(七曜社) 1962

関連項目

  • 日本の小説家一覧
  • 時代小説・歴史小説作家一覧
  • 推理作家一覧

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