津島佑子 : ウィキペディア(Wikipedia)
津島 佑子(つしま ゆうこ、1947年3月30日 - 2016年2月18日)は、日本の小説家。本名は津島 里子(つしま さとこ)。
東京都北多摩郡三鷹町(現在の三鷹市)生まれ。太宰治と津島美知子の次女。実姉は元衆議院議員で厚生大臣を2度務めた津島雄二の妻・津島園子。作家・太田治子は異母妹、衆議院議員・津島淳は甥にあたる。白百合女子大学英文科を卒業した。『謝肉祭』で文壇に登場した。父、兄、長男との死別から「不在の者」をモチーフに、人間関係における孤絶と連帯の実相を追求し、高い評価を受けた。現代文学(昭和後期から平成)を代表する作家の一人である。また、作品は英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・オランダ語・アラビア語・中国語などに翻訳されており、国際的にも評価が高い。
来歴・人物
1歳のとき父を失い、母子家庭に、さらに12歳のとき3歳上の実兄が病没し、母・姉と"女系家族"に育つ。白百合学園中学校・同高等学校を経て、1966年、白百合女子大学文学部英文科に進学。在学中、ガリ版同人誌『よせあつめ』を創刊。処女作『手の死』『夜の……』を発表。同年「文芸首都」会員となる。1967年、成人式を迎えるに際して山梨県の富士五湖を訪れ、父の文学碑を見る。白百合大学大学卒業後、1969年4月、明治大学大学院(英文学専攻)に入学
1970年11月、結婚により財団法人放送番組センターを退社した。1971年、第一作品集『謝肉祭』を刊行した。この時期は母子家庭のテーマを繰り返し描く。1972年5月、長女・香以(石原燃)を出産した。後年夫とは不和となり離婚した。またこの男性との間に1976年8月、長男を出産するが、長男は1985年3月に呼吸発作のため死去した。この体験は後に『夜の光に追われて』『真昼へ』などの作品の主題となる。
1991年、湾岸戦争への自衛隊派遣に抗議し、柄谷行人、中上健次、田中康夫らとともに『湾岸戦争に反対する文学者声明』を発表した。
1991年10月、パリ大学国立東洋言語文化研究所に招聘され翌年6月まで日本の近代文学を講義した。
1998年、構想から5年をかけた作品『火の山―山猿記』を完成させた。家族、生と死、言葉の隔たりといったそれまでのテーマを集大成し谷崎潤一郎賞・野間文芸賞を受賞した。この作品は後に2006年4月から放送のNHK連続テレビ小説『純情きらり』の原案となった。
2000年から2015年まで川端康成文学賞選考委員、2000年から2014年まで野間文芸賞選考委員、2002年から2012年まで読売文学賞選考委員、2007年から2014年まで朝日賞選考委員をそれぞれ務めた。
2016年2月18日、肺がんのため死去した作家の津島佑子さん死去68歳 太宰治の次女 毎日新聞 2016年2月18日閲覧。68歳だった。
父・太宰治について
『山のある家 井戸のある家』で次のように記している。
『透明空間が見える時』では、「また、これは私の個人的な事情なのだが、太宰治の作品だけは、その人が私の父親であることから、かなり早くから読みはじめていた。(中略)芥川や谷崎の愛読者であった私は、太宰の作品をも芥川と同列のところに並べて読んでいた。すなわち、価値をすでに見いだされて、教科書にも載るような作家として読んでいたわけで、時代背景の生き生きした臨場感はほとんど味わうことはなかった。」と記している。
主な受賞作品
- 1976年 - 『葎の母』 第16回田村俊子賞
- 1977年 - 『草の臥所』 第5回泉鏡花文学賞
- 1978年 - 『寵児』 第17回女流文学賞
- 1979年 - 『光の領分』 第1回野間文芸新人賞
- 1983年 - 「黙市」 第10回川端康成文学賞
- 1987年 - 『夜の光に追われて』 第38回読売文学賞
- 1988年 - 『真昼へ』 第17回平林たい子文学賞
- 1995年 - 『風よ、空駆ける風よ』 第6回伊藤整文学賞
- 1998年 - 『火の山―山猿記』 第34回谷崎潤一郎賞、第51回野間文芸賞
- 2001年 - 『笑いオオカミ』 第28回大佛次郎賞
- 2005年 - 『ナラ・レポート』 平成16年度芸術選奨文部科学大臣賞、第15回紫式部文学賞
- 2012年 - 『黄金の夢の歌』 第53回毎日芸術賞
家族・親族
- 祖父 - 石原初太郎(地質学者)
- 父 - 太宰治(作家)
- 母 - 津島美知子
- 姉 - 津島園子(政治家津島雄二の妻)
- 異母妹 - 太田治子(作家)
- 娘 - 石原燃(劇作家・本名:津島香以)
- 甥 - 津島淳(政治家)
著作
小説
- 『謝肉祭』(河出書房新社 1971)のち文庫
- 『童子の影』(河出書房新社 1973)のち集英社文庫
- 『生き物の集まる家』(新潮社 1973)
- 『我が父たち』(講談社 1975)のち文庫
- 『葎の母』(河出書房新社 1975)のち文庫
- 『草の臥所』(講談社 1977)のち文庫
- 『歓びの島』(中央公論社 1978)のち文庫
- 『寵児』(河出書房新社 1978)のち文庫、講談社文芸文庫
- 『氷原』(作品社 1979)
- 『光の領分』(講談社 1979)のち文庫、文芸文庫
- 『最後の狩猟』(作品社 1979)
- 『燃える風』(中央公論社 1980)のち文庫
- 『山を走る女』(講談社 1980)のち文庫、文芸文庫
- 『水府』(河出書房新社 1982)のち文庫
- 『火の河のほとりで』(講談社 1983)のち文芸文庫
- 『黙市』(新潮社 1984)のち文庫
- 『逢魔物語』(講談社 1984)のち文芸文庫
- 『夜の光に追われて』(講談社 1986)のち文芸文庫
- 『真昼へ』(新潮社 1988)のち文庫
- 『夢の記録』(文藝春秋 1988)
- 『草叢 自選短篇集』(学藝書林 1989)
- 収録作品「蝉を食う」「粒子」「透明な犬」「林間学校」「基地」
- 「草叢」「空中ブランコ」「静かな行進」「廻廊」「夢の道」「野一面」
- 『溢れる春』(新潮社 1990)
- 『大いなる夢よ、光よ』(講談社 1991)
- 『かがやく水の時代』(新潮社 1994)
- 『風よ、空駆ける風よ』(文藝春秋 1995)
- 『火の山―山猿記』(講談社 1998)のち文庫
- 『私』(新潮社 1999)
- 『笑いオオカミ』(新潮社 2000)
- 『ナラ・レポート』(文藝春秋 2004)のち文庫
- 『あまりに野蛮な』(講談社、2008)のち文芸文庫
- 『電気馬』(新潮社 2009)
- 『黄金の夢の歌』(講談社 2010)のち文庫
- 『葦舟、飛んだ』(毎日新聞社 2011)
- 『ヤマネコ・ドーム』(講談社 2013)のち文芸文庫
- 『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』(集英社 2016)のち文庫
- 『半減期を祝って』(講談社 2016)
- 『狩りの時代』(文藝春秋 2016)のち文庫
随筆
- 『透明空間が見える時』(青銅社 1977)
- 『夜のティー・パーティ』(人文書院 1979)
- 『夜と朝の手紙』(海竜社 1980)
- 『小説のなかの風景』(中央公論社 1982)
- 『私の時間』(人文書院 1982)
- 『幼き日々へ』(講談社 1986)
- 『本のなかの少女たち』(中央公論社 1989、中公文庫 1994)
- 『伊勢物語/土佐日記 古典の旅2』(講談社 1990)
- 『「伊勢物語」「土佐日記」を旅しよう』講談社文庫 1998
- 『アニの夢 私のイノチ』(講談社 1999)
- 『快楽の本棚 言葉から自由になるための読書案内』(中公新書 2003)
- 『女という経験』(平凡社 2006)
- 『夢の歌から』(インスクリプト、2016)
作品集
- 『津島佑子コレクション』全5巻(人文書院 2017-18)
- 大いなる夢よ、光よ
- 悲しみについて
- 夜の光に追われて
- ナラ・レポート
- 笑いオオカミ
共著・編
- 『何が性格を作るか 性格学講義』(宮城音弥との対談 朝日出版社レクチャーブックス 1979)
- 『キャリアと家族』(マーガレット・ドラブルとの対談 高野フミ共訳 岩波ブックレット 1990)
- 『蜻蛉日記・更級日記・和泉式部日記 新潮古典文学アルバム』三角洋一編(新潮社、1991)、エッセイ
- 『日本の名随筆 別巻 77 嫉妬』編(作品社 1997)
- 『津島佑子・金井美恵子・村田喜代子』女性作家シリーズ(角川書店 1998)
- ※『草の臥所』、『水府』、『黙市』、『夢の記録』を収録
- 『山のある家 井戸のある家 東京ソウル往復書簡』(申京淑共著、キム・フナ訳 集英社 2007)
- 『トーキナ・ト ふくろうのかみのいもうとのおはなし』(杉浦康平構成 福音館書店 2008)
- 『いまこそ私は原発に反対します。』 「「夢の歌」から」(日本ペンクラブ編、平凡社、2012)
- 翻訳
- クリステン・ビヨンケア『愛の時代』(福井信子共訳 福武書店 1990)
- 『うつほ物語 少年少女古典文学館』(講談社 1992、新版2009)
- 現代語訳、他は干刈あがた「堤中納言物語」
作家論
- 『津島佑子-土地の記憶、いのちの海』(河出書房新社 2017)
- 川村湊「津島佑子 光と水は地を覆えり」(インスクリプト 2018)
- 川村湊編『現代女性作家読本3 津島佑子』(鼎書房 2005)
- 『津島佑子』(庄司肇コレクション9/沖積舎 2003)
- 井上隆史編『津島佑子の世界』(水声社 2017)
翻訳
- Child of fortune(寵児、英語)Geraldine Harcourt, Kodansha International, 1983/Penguin Classics, 2018
- L'enfant de fortune(寵児、仏語) Rose-Marie Fayolle, Des Femmes, c1985
- Kind van de wind(寵児、蘭語)Kathleen Rutten, De Geus, 1985
- Territoire de la lumière(光の領分、仏語)Anne et Cécile Sakai, Des Femmes, c1986
- Au bord du fleuve de feu(火の河のほとりで、仏語)Rose-Marie Fayolle , Des Femmes, c1987
- Les marchands silencieux(黙市、仏語)Rose-Marie Fayolle. Des femmes, c1988
- The shooting gallery and other stories (短編選集、英語) Geraldine Harcourt. London : Women’s Press, 1988.
- Poursuivie par la lumière de la nuit(夜の光に追われてk、仏語)Rose-Marie Fayolle, Des Femmes, c1990
- Domein van het licht(光の領分、蘭語)Noriko de Vroomen en Han Timmer Meulenhoff, c1990
- Woman running in the mountains(山を走る女)Geraldine Harcourt. New York : Pantheon Books, c1991.
- Lichtkreise(光の領分、独語)Heinrich Reinfried.Theseus, c1991,
- Il figlio della fortuna(寵児、伊語)Maria Terasa Orsi.Giunti, c1991
- La femme qui court dans la montagne (山を走る女、仏語)Liana Rosi.Albin Michel, c1995
- Ô vent, ô vent qui parcours le ciel (風よ、空駆ける風よ、仏語) Ryôji Nakamura et Renê de Ceccatty.Seuil, c1995
- Vous, rêves nombreux, toi, la lumière! (大いなる夢よ、光よ、仏語)Karine Chesneau - Philippe Picquier, c1997
- The Shooting Gallery: & Other Stories(射的〜短編集、英語), New Directions Publishing Corporation, 1997
収録作品: A sensitive season「発情期」 South wind「南風」 The silent traders「黙市」 The chrysanthemum beetle「菊虫」 Missing「行方不明」 The shooting gallery「射的」 Clearing the thickets「草叢」 An embrace「抱擁」
- タイ語訳「光の領分」2000
- 微笑的狼(笑いオオカミ、中国語) 竺家荣 [訳] 中国文联出版社, 2001
- 나(私、韓国語)김훈아(キム・フナ), 문학과지성사(文学と知性社), 2003
- 웃는 늑대(笑いオオカミ、韓国語)김훈아, 문학동네(文学トンネ), c2008
- 불의 산(火の山―山猿記、韓国語)김훈아, 문학과지성사, 2008
- Album de rêves(夢の記録、仏語), Le Seuil, 2009
- Laughing wolf(笑いオオカミ、英語)Dennis Washburn, Monograph, 2011
- 묵시(默市、韓国語)김훈아, 문학동네, 2013
- Territory of Light(光の領分、英語), Penguin Classics, 2017
- Of Dogs and Walls(犬と塀について、英語)Geraldine Harcourt, Penguin Classics, 2018
- Jestem, tęsknię, mówię (私、ポーランド語) Państwowy Instytut Wydawniczy, 2018
- Uśmiechnięty wilk(笑いオオカミ、ポーランド語)Państwowy Instytut Wydawniczy, 2023
関連項目
- 日本の小説家一覧
外部リンク
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