オラフ・ステープルドン : ウィキペディア(Wikipedia)
オラフ・ステープルドン(William Olaf Stapledon, 1886年5月10日 - 1950年9月6日)は、イギリスの小説家、哲学者。壮大なスケールの作品で、後年のSF作家に大きな影響を与えた。
経歴
イギリスのリヴァプールの南のウィラルで生まれ、6歳までは父親の赴任先であるエジプトのポートサイドで過ごした。オックスフォード大学のベイリオル・カレッジで近代史を学ぶ。第一次世界大戦では、英国赤十字社を通じて友徒救急隊に入隊し、フランスの戦場で負傷した兵士を救急哨所に搬送する運転手の任務を果たし、戦後フランス政府より戦功十字章を授与されたが、亡くなるまで家族にも語ることはなかった。またこの部隊でともに働いた多国籍、多民族の人々との交流はのちの『オッド・ジョン』などの作品にも影響を与えたと言われる。浜口稔「訳者あとがき」(『火炎人類』ちくま文庫、2025年) 1919年に従姉妹のアグネスと結婚、ウエストカービーで暮らし始める。1920年にリヴァプール大学で哲学の博士号を取得、その後、英文学、哲学、心理学の講師を務めるなどした。
1930年に発表した『最後にして最初の人類』で小説家として認められた。1948年にはポーランドで開かれた「平和のための世界識者会議」に出席。同年、英国惑星間協会でアーサー・C・クラークの招待を受け講演した。千里眼、予知、念動力。憑依、二重人格、感情移入などの超常現象や超能力に生涯にわたって関心を持ち、1946年頃にはこれらを題材にした短編集を出そうと準備していたが、公私にわたる多忙のため実現しなかった。
1950年9月6日に、冠状動脈閉塞で死去した。 夫人との結婚前のラブレターの他、作家のH・G・ウェルズ、ナオミ・ミッチソン、ヴァージニア・ウルフ、アーサー・ケストラー、オルダス・ハクスリー、哲学者のバートランド・ラッセルらとの書簡も残されている。
2001年に、第1回コードウェイナー・スミス再発見賞を贈られた。
作品
長編小説『最後にして最初の人類』は人類の20億年に渡る未来を描いた作品で、当時無名でありながらも高い評価を得た。ちなみにこの時まで、ステープルドンはほとんどSF小説を読んだことがなかったという。
続いて1937年に発表した『』は、さらに宇宙規模のスケールを拡大した幻視的な作品で、第一次大戦後の次の戦争の危機が忍び寄る時代を背景に、平和への思いとその観念的な解決を遠未来から俯瞰して見せ、そのあまりに冷たく美しいヴィジョンによりブライアン・オールディスによって「堪えがたいほど壮麗な作品」と評された。ホルヘ・ルイス・ボルヘスはスペイン語版の解説で、文学の新しい形態である「科学的な性格を持つ寓話あるいは空想譚」のうち、ポーはその両者に取り組み、ステープルドンは両者を結合させたと述べ、また「世界の複数性とその劇的な歴史の、蓋然性と信憑性を備えた表現でもある」と評している内田兆史訳「オラフ・ステイプルドン『スターメイカー』」(『序文つき序文集』国書刊行会 2001年)。また物理学者フリーマン・ダイソンは、ダイソン球を始めとする宇宙文明に関するアイデアを『スターメイカー』から得たとしている。
他に代表的なSF小説として、現代に現われた超人類を描いた『オッド・ジョン』、人間と同等の知能を持った犬の物語『シリウス』がある。どの作品においても、人類の未来についての深い洞察が込められている。1944年にアーサー・ケストラーがユートピアを題材にしたアンソロジーを企画し、集まった原稿の出来が悪く企画は頓挫したが、ステープルドンの書いた「新世界の老人」だけには満足し、単行本として刊行された。
存命中に最も売れた本は、素人向けの哲学の歴史と実践のための入門書"Philosophy and Living, 2 volumes"だという。
作品リスト
小説
- 最後にして最初の人類、Last and First Men、1930年
- Last Men in London、1932年
- オッド・ジョン、Odd John、1935年
- スターメイカー、Star Maker、1937年
- Darkness and the Light、1942年
- シリウス、Sirius、1944年
- 新世界の老人、Old Man in New World、1944年
- Death into Life、1946年
- 火炎人類-ある幻想、The Flames、1947年
- A Man Divided、1950年
詩
- 末日詩篇、Latter-Day Psalms、1914年
評論など
- A Modern Theory of Ethics: A study of the Relations of Ethics and Psychology、1929年
- Waking World、1934年
- Saints and Revolutionaries、1939年
- New Hope for Britain、1939年
- Philosophy and Living, 2 volumes、1939年
- Beyond the "Isms"、1942年
- Youth and Tomorrow、1946年
没後刊行
- サム・モスコウィッツ編『はるかな未来からの声-サイエンス・フィクション&ファンタジー未収録作品集」Far Furure Calling : Uncollected Science Fiction & Fantasy of Olaf Stapledon、1979年
翻訳
- グーテンベルク21(電子出版、2018年)で再刊※
- 上記の児童向け訳
- 「シリウス」中村能三訳
- 改訂新版(解説 ヤマザキマリ)
- 改訳版※
- 改訳版※
- kindle版も刊※
- 傑作選
- ※は電子書籍も刊
映画化
- 現代の魔術師、A Modern Magician、2019年、Mark Heller監督
注
参考文献
- 浜口稔「オラフ・ステープルドン スターメイカー」(「國文學」誌1989年12月臨時増刊号「幻想文学の劇場」學燈社)
外部リンク
- リヴァプール大学オラフ・ステープルドン・アーカイヴ1983年設立
- ウィリアム・オラフ・ステープルドン邦訳有
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 | 最終更新:2025/09/26 12:59 UTC (変更履歴)
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