「モロカイ・バウンド」あらすじ・概要・評論まとめ ~二重のアイデンティティをめぐる葛藤と眼差し~【おすすめの注目映画】
2025年10月16日 11:00

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本記事では、「モロカイ・バウンド」(2025年10月17日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

ネイティブ・ハワイアンで沖縄にもルーツを持つアリカ・テンガン監督の長編劇映画第2作で、現代ハワイに生きる父子の絆を描いたドラマ。
ハワイ諸島の中でも観光地化されておらず、手つかずの自然と伝統文化が残るモロカイ島。モロカイを離れオアフ島で暮らすネイティブ・ハワイアンのカイノアは、とある事情で服役した後、仮釈放される。「前科者」というレッテルに苦しみながらも、疎遠になっていた息子ジョナサンとのつながりと、先住民としてのアイデンティティを取り戻すべく、険しい道を歩みはじめるカイノアだったが……。
テンガン監督が2019年に手がけた同名短編をもとに、自ら長編映画化。主人公カイノア役のホールデン・マンドリアル=サントスをはじめ、キャストにはテンガン監督とともにハワイで育った友人たちを起用。2024年・第44回ハワイ国際映画祭で最優秀メイド・イン・ハワイ長編劇映画賞とカウ・カ・ホク賞(新人監督賞)、第2回Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際映画祭で太平洋島嶼特別賞を受賞した。

“塀”の外。眩しい陽の光の下、前を向いた男の思いつめた面差しが観客の眼に飛び込む。ああ、と映画ファンには多分、もうおなじみのそんな光景。そんな顔。刑務所での勤めを終えて更生を誓った男の新たな人生へと共に歩み出すように映画は幕を上げる。
迎えに来た妹が運転する軽トラックの荷台で揺られ、陽が沈み夜風がここちよく頬を打つ頃にようやく目的地、慎ましい暮らしぶりが見て取れる妹一家の家へとその男、カイノアは到着する。が、門口へと進もうとする兄をすまなそうに、しかしきっぱりと呼び止める妹の態度に更生への道が必ずしも平たんではないのだと、観客もまた覚悟をきめることになる。
そうやって始まる映画はやんちゃをした挙句、家族に迷惑をかけ、妻の心を傷つけたひとりがそれでも前へと進もうとする姿を丹念に追う。とりわけ思春期を迎えた一人息子ジョニーとの関係修復の努力に目をこらす。魚釣りを教える、漁場に共に船出する、あるいは路肩に並んでランチのムスビ飯をほおばる――その折々を小細工を弄することのない語り口で追う映画は、しかしそれだけだったらよく出来た家族再生の物語、いってしまえばよくある良心的佳作のもう一本といった程度の淡い記憶と共に通り過ぎていったかもしれない。

もちろんそういう一作をおろそかにするつもりはない。ただ、同名の短編映画をもとにこの長編第二作「モロカイ・バウンド」を撮った監督アリカ・テンガンにとってはそこで自らのルーツにまつわるもう一つの物語を語ることこそが肝心だった。その大事な主題がじわじわと家族再生の物語を独自の色に染め上げていくこと。それが映画をいっそう輝かせる。忘れ難い快作にする。
先走ってしまったが、映画はそのタイトルにもあるモロカイ、ハワイ5番目の大きさをもつ島に残る観光化されたハワイとは別の、先住民独自の文化継承の意志を物語のそこここに響かせていく。おなじみのハワイアンとは一味違う静かにはらわたに染み入るような歌の調べ。独自の言葉(台詞もオリジナルの言語がまじっているから英語字幕が添えられている)。タロイモをたたききつぶして調理することを“(芋の)魂をなくす”と語るような独特のいいまわし。そうしてハワイ先住民としての名前。アメリカ風にジョニーと名乗っていた息子が祖母の住むモロカイにやって来た時、ルーツを想う父の心をゆっくりと汲み取ってハワイ語の名を名乗る。

そうした細部、二重のアイデンティティをめぐる葛藤、それは例えば「宝島」で描かれた沖縄の問題とも、あるいは製作に名を連ねるフォレスト・ウィテカーのアメリカ/アフリカの自恃とも無縁ではないはずだ。父と息子の関係とも、家族の物語とも同様に普遍的な自身のアイデンティティへの眼差し。それをしっくりと鍛えて「モロカイ・バウンド」は確かな忘れ難さを観客それぞれの胸に植え付けていくだろう。
執筆者紹介

川口敦子 (かわぐち・あつこ)
映画評論家。著作に「映画の森―その魅惑の鬱蒼に分け入って」(芳賀書店)、訳書には「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」(キネマ旬報社)などがある。
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