本作は現在、テアトル新宿にて、7月3日までの1週間限定でアンコール上映が行われている。そこで今回、公式パンフレットに掲載されている主演・龍村仁美と河野聖香による対談の一部を公開する。二人が主演になるまでの経緯や撮影当時の話を聞いた。(インタビュー・構成・撮影/日比楽那)
■二人が主演になるまで
――まず、二人が『
天使たち』に参加することになった経緯を教えてください。
河野聖香:私は
木村ナイマ監督の前作「
ファースト・ピアス」から参加していて、そのときは高校生のマリアを、今作では大学生のマリアを演じました。もともと私は、この2作のプロデューサーである荒尾(奈那)と大学のよっ友で。会ったら挨拶するけど特に会話はしないみたいな関係でした。そんななかで荒尾が「映画をつくりたいからお手伝い募集中」とSNSで発信しているのを見て、「おもしろそう。宣伝とか手伝いたい!」って連絡したら、マリア役で出演してほしいと言われて。まさか出演することになるなんて思ってなかったのでびっくりしたけど、楽しそうだと思ったので参加することに決めました。
龍村仁美:もともとナイマも聖香ちゃんの存在を知っていてずっと気になってて、マリアを探しているときに聖香ちゃんがぴったりだと思ったって話していました。
聖香:それで荒尾とナイマと私の三人で顔合わせをしたんですけど、ナイマも私も初対面の人と話すのがあんまり得意じゃなくて、ほぼ話をすることはなく、ひたすら会釈をする時間でしたね(笑)。でも、そんなこんなで撮影が始まって、進んでいくにつれて、お互いに普段どういう風に生きているのかが見えてきて、仲が深まりました。その後、撮影が終わってひと段落した頃に、当時私がバイトしていたスナックにナイマと荒尾と「
ファースト・ピアス」では撮影補佐をしていた(望月)尋加ちゃんが飲みに来てくれて。四人で「また映画つくりたいね」っていう話になって、そこで2作目をみんなでつくる約束をして、引き続きマリア役で参加することになりました。
聖香:マリアと一緒にいた女の子・羊役を演じた
佐藤たらも大学の友達で、お互い演技未経験だったので、心強かったですね。「やってみてはいるけど、合ってるのかな? 大丈夫かな?」と探り探りでしたが、ナイマが自然さを大切にするために演技をそこまでさせたくないと話していたこともあって、演技に対するハードルはそこまで高くなかったです。
――その後、「
天使たち」への参加を決めたのにはどんな背景があったのでしょうか。
聖香:まず、製作の三人(ナイマ、荒尾、尋加)の考え方がすごくよくて、共感する部分も多かったです。それと、ナイマの感性に全幅の信頼を置いていたので、ナイマの映画なら絶対にいい作品になると思って、参加したいと思いました。
――仁美さんはどんな経緯で「
天使たち」への出演が決まりましたか。
仁美:私は小学生の頃から英語劇をやっていて、その後もお芝居をやりながら、自分でも映画もつくってみたいと思っていました。高校卒業後、上智大学に入学して、映像制作ができるゼミに入ったのがナイマ監督と知り合ったきっかけです。私はみんなより少し年下なので、2年生でゼミに入って初めての顔合わせのときに、5年生になったナイマがへそ出し姿で遅れて入ってきて(笑)。「映画つくりたいと思ってるので、手伝ってくれる人いたら言ってください」って言ったのを聞いて、「私やりたいです」って手を挙げました。そのときナイマは私のことを「すべてをぶっ殺す目をしてる女の子だ」って思ったらしいんですけど(笑)。
それから、荒尾Pに「ファースト・ピアス」のスクリーナーを送ってもらって作品を観たり、私が出演した舞台をナイマが観に来てくれたりして、なるというキャラクターを演じることになりました。最初から出演したいとは言っていなくて、聖香ちゃんと同じように制作のつもりで、あとはお芝居の経験もあるから手伝えることがあれば、という感覚で手を挙げたら、結果的に主演になりました。
(C) 映画「天使たち」製作委員会■根底でつながりあう関係性
――二人のコメントなどを拝見すると、お芝居をすること、役を演じることを超えて、二人がナイマ監督の思いや、「
天使たち」で描かれていること、マリアとなるという人物に対して共鳴している様子が窺えました。
仁美:マリアは「
ファースト・ピアス」から引き続き聖香ちゃんに当て書きで、なるは最初は当て書きじゃなかったけれど、私と近しいところもあって、ナイマと話していくうちに、私にあわせて書き換えていってくれたから、というのもあるかもしれません。だから、自分となるという役の境界線があまりなくて、本読みから撮影が終わるまでの半年間くらい、なるをとても近くに感じていましたね。お芝居をしている感覚がなくて、それは初めての経験でした。
私はガールズバーで働いたことはなかったし、役づくりで一度体験入店行ったんですけど、それまでは夜のお仕事をしたことがない大学生で、バックグラウンドは違うはずなのに、なるが生きているなかに自分がどんどん入っていった。設定的に、躁うつっぽかったり、危ういところがあったりするなるという役を演じていた自分を今観ると、本当に傷ついている目をしていると感じます。それは、そう演じようとしたわけじゃなくて、ナイマと話していくなかで、ナイマの傷つきや救いたい女の子たちに自分も近づいていったからじゃないかな。
――今の自分と「
天使たち」のなるとの間には距離があると感じますか?
仁美:多分……でもわからない! 実際の自分は、人といるときは明るいから、当時は撮影でずっと歌舞伎町にいたので、街の空気のなかでなるとして在ったところもあると思います。
聖香:たしかに、あのときの仁美ちゃんと今の仁美ちゃんはちょっと違う。
仁美:マリアはほんとにマリア。マリアと聖香ちゃんはもちろん違うけど、マリアのときはマリアで、セリフを言っているように見えないし。
聖香:ナイマにも言ったことあるんですけど、マリアのセリフが、私にとってはセリフじゃないんですよ。ナイマの書くマリアのセリフは、自分が感じていること、考えていることがそのままセリフになっているみたい。
仁美:ナイマも「マリア=聖香。聖香しかできないし、聖香でしかない」ってずっと言っ
てる。
――それは、ナイマ監督と聖香さんが普段から話していることが反映されているのか、ナイマ監督と聖香さんの関わりが自ずと反映されていったのか、どちらなのでしょうか。
聖香:どうなんだろう。でもナイマと話しているとき、内面の話もたまにはするけど、基本的には他愛のない女子トークしかしてない!
仁美:多分、ナイマと聖香ちゃんがもともと持ってるものが似ていて、根底の部分でつながっているのと、ナイマのなかにある理想のマリア像に聖香ちゃんが一致したんじゃないか
な。
(C) 映画「天使たち」製作委員会――撮影終了後、作品が完成して、上映が始まってからはどんな心境ですか。
聖香:撮影当時は大学生で、社会人になった今、「
天使たち」を観て思うのは、あの頃だったからできた作品だということですね。物語もそうだし、なるやマリアの弱さや繊細さは、あの年代の女の子だったから撮れたものだったと思いました。あとは、撮影した歌舞伎町にほど近いテアトル新宿で上映できたのが本当にありがたいです。縁があってよかったと思います。
仁美:もちろん多くの人に観てもらうこと、新宿で上映することを目標にしていましたが、それは「
天使たち」に関わった誰も経験したことのないことだったので、どこか夢見心地でした。なので、撮影してたときはこんなことになるって思ってなかったですね。
作品に対しては、私たちは深く関わりすぎていて、客観視できる立場ではないと感じます。でも、傷ついた人たち、生きづらさを抱えている人たちに届けたいという思いを共有して、20代前半の初期衝動の映画なので、一人でも多くの人に届いてほしいと思います。
――今、あらためて「
天使たち」で描かれていることに対して、二人が感じていることを伺いたいです。
聖香:ほとんどの人がみんな、なるとマリアのように繊細な時期があったんじゃないかと思っています。あとは、歌舞伎町のガールズバーを舞台にしていますが、作品を通して男性や嫌なお客さんを断罪したいわけじゃないんですよね。個人的にも、悪い人ってあんまりいないと思っていて。それは性善説ではなくて、育った環境とか、いろいろなものが作用して人ってできているから。
仁美:今、聖香ちゃんが言ったことがまさにマリアですよね。
聖母マリア的というか。でも聖香ちゃんがどういうことと闘ってきたかも知っているし、当たり前だけど、こういう考え方ができる人でも傷つきます。あと私も、この映画を通して誰かを糾弾したいわけじゃないというのは伝えたいですね。私たちは、ただ傷ついた自分たちを救うためにこの映画をつくったから。
ナイマが「もう誰も死にたいなんて言わないで」って言ってるけど、本当にそう思います。ナイマが女性監督で、上智大生を中心にしてつくった映画で、歌舞伎町で撮影して、ガールズバーで働く女の子たちが出てきて……って、バイアスがかかった見方をされる要素がいろいろあると思うんですけど、その内側にあるものを受け取ってもらえたら嬉しいです。
ポスタービジュアル (C) 映画「天使たち」製作委員会【映画「
天使たち」上映情報】
6/27(金)〜7/3(木)1週間限定アンコール上映
・7月2日(水)20:30〜の回
【登壇者】
松浦りょう(俳優)、木村監督
・7月3日(木)20:30〜の回 最終日御礼!大舞台挨拶
【登壇者】木村監督、
龍村仁美、
今田竜人、
本田カズ、もともとこ、風起、
芦原健介、
目黒貴之、ジョージ吉田、
望月尋加(助監督)、
荒尾奈那(プロデューサー)
※登壇者は予告なく変更になる場合がある。
《チケット》
オンラインチケット予約(https://ttcg.jp/theatre_shinjuku/)および劇場窓口にて販売。
■オンライン販売は各上映日の2日前0時(=3日前24時)~上映時間20分前まで販売。
※前売券はオンライン予約では利用できない。