【「秋が来るとき」評論】のどかで穏やかな秋の情景とは対照的な緊張感をかもしだす
2025年5月25日 18:00

ルース・レンデルのペーパーバックを読んでいたミシェル(エレーヌ・バンサン)が、レンデルの短編「茸のシチュー事件」を彷彿させる毒キノコ騒動を起こす。ドラマの発端に遊びを盛り込んだフランソワ・オゾン監督だが、映画の着想は、子供のころに家族の食事会で起きた実際のキノコ騒動から得たのだとか。
ミシェルの料理を食べて病院行きになるのは、孫を連れてパリからやって来た娘(リュディビーヌ・サニエ)。毒キノコの混入は、うっかりミスなのか、老いが原因か、それとも折り合いの悪い娘を疎ましく思う潜在意識からなのか。ミシェルが自分自身に向ける疑念ととまどいが、のどかで穏やかな秋の情景とは対照的な緊張感をかもしだす。
毒キノコ騒動を発端に、ミシェルと親友のマリー=クロード(ジョジアーヌ・バラスコ)、彼女の息子ヴァンサン(ピエール・ロタン)、そしてミシェルの孫ルカ(ガーラン・エルロス)は、「自分にとっての正しさとは何か?」を問う選択を迫られる。
いや、ミシェルとマリー=クロードに関しては、我が子のために良かれと思って経済的安定を優先させる選択を過去に行い、それが正しかったのか間違っていたのかという葛藤を今も引きずっている。そんなふたりが、新たな倫理的葛藤に直面していることを、少ない言葉と表情で確認し合う場面は、この映画のテーマが凝縮された名場面だ。「良かれと思ったことが裏目に出ることがある」と苦しい胸の内を吐露するマリー=クロードに対し、「良かれと思うことが大事」と応じるミシェル。マリー=クロードの意図を瞬時に察し、すべてを受け止めて赦すと決めたミシェルの覚悟を、まなざしの中に映すバンサンの演技が見事だ。
ミシェルの人生のプライオリティは、愛する孫を守り抜くこと。孫と自分自身がこれから生き抜くのに最善だと思う選択に、彼女は正しさを見出す。しかし、孫のルカの場合はどうなのか? 後半、ルカが何を良かれとするかの選択を迫られる場面を、オゾン監督は緊迫感満点に描き出し、ミステリーの醍醐味を味わわせてくれる。
忘れてならないのは、自分の正しさを貫くためについた嘘や抱えた秘密は、いつまでも心の中に闇となって残り続けること。もはや春や夏の自分には戻れない。時を経た場面でも変わらない乾いた秋の光景は、それを物語っているかのようだ。
(C)2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
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