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心を揺さぶられた「青春 苦」「青春 帰」ワン・ビン監督との対話 ドキュメンタリーの“映像使用許諾”についても言及【アジア映画コラム】

2025年5月1日 14:00

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「青春 苦」(公開中)
「青春 苦」(公開中)
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing

北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!


2024年に観た映画の中で、もっとも心を揺さぶられた1本は?――そう聞かれたとき、私は迷うことなくこう答えます。

「ワン・ビン監督の『青春 苦』、そして『青春 帰』です」

中国の巨大経済地域の小さな縫製工場で働く若き出稼ぎ労働者たちの姿を記録したドキュメンタリー「青春」三部作の第二部&第三部――これらの作品は私にとって衝撃的でした。そして、その余韻はいまも簡単には言葉にできないほど、深く心に残り続けています。

2024年に日本公開された第一部「青春 春」は、9時間40分にも及ぶ三部作の“ほんの序章”にすぎませんでした。カメラを手に、織里という縫製工場の町に飛び込んだワン・ビン監督は、取材を重ねるうちに、単なる社会の記録を超えた“何か”へと踏み込んでいきました。そこには、現代中国という巨大な存在の「輪郭」があり、さらにその先に広がる、名づけようのない“領域”が確かに映し出されているように思います。

「青春 帰」(公開中)
「青春 帰」(公開中)
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing

「青春」三部作は、ワン・ビン監督のキャリアにおける最高傑作――決して言い過ぎではないでしょう。

今回のコラムでは、フランスに滞在中のワン・ビン監督にオンライン取材を敢行。9時間40分にわたる壮大な記録について、じっくりと語っていただきました。監督の一言一句は、まるで縫製工場に響くミシンの音のように、静かでありながら確かなリズムを持って、私の胸に刻まれました。


ワン・ビン
ワン・ビン
──「青春」三部作は、どのような出会いから始まったのでしょうか。
2014年、雲南で数人の若者たちと出会いました。彼らは浙江へ出稼ぎに行くと言うのだけれど、どこに行くのか、自分たちでも分かっていませんでした。僕はその言葉に惹かれ、一緒に列車に乗り、たどり着いたのが織里という町でした。
到着してまず驚いたのは、町全体がひとつの巨大な縫製工場のようだったことです。通りには布地を積んだ軽トラックが並び、裏路地にはミシンの音が響く。24時間稼働の工場、ベッド代わりの縫製台、子どもと一緒に住み込む夫婦労働者……まるでひとつの“労働都市国家”のような景観が広がっていました。
それ以上に重要だったのは、この町が比較的“開かれて”いたことです。多くの産業都市は、撮影や取材に対して閉鎖的です。けれども、織里では住民も経営者も、僕たちの存在に干渉してこなかった。黙認のなかで、僕たちは静かにカメラを構えることができました。
「青春 春」(第一部)
「青春 春」(第一部)
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
──当時撮った映像素材を、どのように構成したのでしょうか?また、「青春」というタイトルには、どのような意味を込めたのでしょうか?
この作品に映る若者たちは、何の資格も学歴もない、ただ「働く」ためだけに都市に流れてきた人たちです。「青春」とは、彼らにとって恋愛や夢ではなく、汗と騒音と過労と孤独にまみれた日々そのものでした。
第一部では、個人の生活にフォーカスしました。例えば、18歳の青年・リュウ。彼は朝6時に起き、昼も夜もミシンを踏み続け、工場の一角でカップ麺をすする姿が印象的でした。彼は休憩中に、隣の部屋に住む女の子に小さな手紙を渡そうとしますが、なかなか話しかけることができない。恋のようで、恋ではない。生きているという実感を、どこかに探し続けているような姿でした。
第二部「苦」では、より構造的な視点に切り替えました。契約書の未整備、賃金の不払いや突然の解雇、事故の補償問題など、制度が個人をどう取りこぼしていくのかを映し出します。ある女性労働者は、「お金が足りないから家に帰れない」と言いながら、無言でミシンに向かっていました。工場は、利益を上げるためにシフトを常に変動させ、彼女の生活は常に不安定でした。
第三部「帰」では、彼らの“帰る場所”を記録しました。春節を迎えた若者たちは、故郷の雲南や安徽へと戻っていきます。ある村の結婚式では、かつて織里で働いていた若者が新郎となり、村人全員が集まって盛大な儀式を行いました。都会での顔とは違い、そこには誇りと安心が漂っています。ですが、その幸福は、一時的な“帰還”に過ぎず、すぐにまた都市へと戻っていくのです。
「青春 苦」
「青春 苦」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
「青春 帰」
「青春 帰」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
──縫製工場そのものの構造や環境についても詳しく教えてください。
織里には大小さまざまな工場がありますが、多くは10人前後の家族経営の作業場です。1階が作業スペース、2階が住居という構造が多く、労働者はミシンの横で寝起きしながら働いています。
ミシンの音は昼夜絶えず、扇風機が埃まみれの空気をかき混ぜる。縫製ミスや納期遅れがあれば、すぐに罵声が飛び、出荷の前には徹夜が当たり前になる。食事は簡易コンロで作るインスタント麺、洗濯は屋上の水道。トイレも工場の一角にある簡易式です。
僕はこの“工場という身体”を、ただの労働の場ではなく、欲望・恐怖・信頼が交錯する空間として記録しました。ある時、急ぎの発注で徹夜が続いた際、女工たちが泣きながらミシンを踏む場面がありました。僕たちはカメラを止めるべきか迷いましたが、彼女たちは言いました。
「これは私たちの現実だから、記録して」と。
「青春 苦」
「青春 苦」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
──この三部作は、時間と空間の構造そのものを提示しているように感じました。
はい、僕にとってドキュメンタリーは、“今を記録する”だけのものではありません。それは、時間の圧力、制度の見えない構造をも浮かび上がらせるべきものです。
たとえば、若者たちが都市に来て得るものと、故郷に戻って失うもの。それは経済的な問題ではなく、存在の問題です。都市では彼らは“見えない労働力”ですが、故郷では誰かの息子であり、夫であり、祭りの参加者である。つまり、“語られる存在”に変わるのです。
雲南や安徽での結婚式や年末の儀式、あるいは巫術的な正月の習俗は、そうした複数の時間のレイヤーを示しています。近代化した国家に生きながら、なおも人々は農耕社会のリズムを身体の中に刻んでいる。その共存の姿に、僕は強く惹かれました。
「青春 帰」
「青春 帰」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
──湖州の方言や、各地からの出稼ぎ労働者の言語が混じり合っていましたが、撮影時のコミュニケーションはどうされたのですか?
僕自身、湖州の言葉はまったく分かりませんでした。けれど、中国では多くの人が方言と共に標準語を話します。だからこそ、対話は成立しました。
しかし問題は、映像にどう言葉を定着させるかです。僕たちは撮影後、地元の人々に協力してもらい、すべての方言を普通話に変換し、それをベースに翻訳を行いました。字幕を通して“他者の声”をきちんと伝えること。それは、記録者としての責任だと思っています。
──長期にわたる撮影のなかで、制作体制や資金面の困難はありましたか?
はい、このプロジェクトは9年におよびましたが、資金面でのサポートは常に不安定でした。大規模なプロデューサーがついていたわけでもなく、国からの助成も受けられなかったため、フランスやドイツの国際共同製作基金に何度も申請を繰り返しました。
一度、制作費が尽きた際には、自分で以前の作品の放映権を交渉し、その収益で撮影を再開しました。スタッフも数人で、編集は自宅で夜通し行いました。素材は数百時間に及び、最初の編集案では15時間を超えていましたが、何度も削り直し、9時間40分にまで凝縮したのです。
三部作に分けるという構成も、撮影後の編集段階で決まりました。素材を見返してみると、年ごとに映る人物の関係性も変化し、時間の流れそのものが「章立て」になっていたのです。
「青春 苦」
「青春 苦」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
「青春 帰」
「青春 帰」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
──昨年、日本の映像ジャーナリスト・伊藤詩織氏による初長編監督作「Black Box Diaries」が、世界中で高い評価を受けました。アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にもノミネートされましたが、一方で映像使用の許諾に関する問題などにより、現在も日本国内では上映されていない現状があります。被写体と監督の間で交わされる「映像使用許可」ということについて、ワン・ビン監督ご自身はどのようにお考えでしょうか。
国ごとにドキュメンタリー制作に関する法制度は全く異なるので、「これが正しい」という答えはないと思っています。中国の場合、僕はインディペンデントで活動しているので、いわゆる正式な“映像使用許可契約”のようなものは結びません。撮る側と撮られる側のあいだに、まず「信頼」がなければ成立しない。それが僕のやり方です。
特に僕の作品は、制作に何年もかかる長期的なものです。短期間でカメラを回して立ち去るわけではない。だからこそ、被写体とのあいだに自然に育まれる信頼関係こそが、作品の土台になる。もしその信頼が壊れれば、作品もまた成立しないでしょう。
僕が記録してきた人々は、撮影後に自分たちがどのように映されているかを問い詰めることも、使用許可を求めることもありません。それは、僕が彼らに対して敬意を払い続け、彼らもまた私たちを受け入れてくれたからだと思っています。
「青春 苦」
「青春 苦」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
「青春 帰」
「青春 帰」
(C)2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing
──この三部作を9年にわたり撮影し続けた原動力は何だったのでしょうか?
現実を変えることは、僕にはできません。でも、見つめ続けることはできます。そして、それを記録として残すことが、未来への小さな証言になると信じています。
彼らの名は記録に残らず、労働履歴も消えていく。けれど彼らが見た風景、聞いた音、踏んだミシンのリズムは、このフィルムのなかに生きています。語られなかった青春を、映像という形式で語ること。それが、僕の唯一の仕事です。

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