【「シンシン SING SING」評論】芸術がもたらす、悔悟を抱えた者たちの“自負心”
2025年4月19日 20:30

米ニューヨーク州の最高警備刑務所である「シンシン収容施設」は、犯罪映画やサスペンスドラマなどにおける誇張された引用が遠因し、ネガティブな印象を自分は過去に抱いていた。手に負えない重罪人が投獄され、そこでは彼らの人権などいっさい保障されない、といったレベルのものだ。
その認識が和らいだのは、同施設の収監者たちが「Breakin' the Mummy's Code」という演劇に取り組んだネットニュース(出典は「エスクァイア」誌に掲載された記事)に由来する。抑圧的な場所で創造行為が勧奨されたことに、なんともアンビバレントな印象を覚えたのだ。
この「シンシン SING SING」は、そんな演目がいかにして生み出されたのかをヒントに、芸術を通して収監者の更生をうながすプログラム「RTA(Reform Through the Arts)」の存在と、そこに身を投じる者たちの挫折や再生を描いた、塀の中のヒューマンドラマだ。身に覚えのない罪でここに送られたディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)を中心に、彼と共にRTAで自分自身を見つけようとする男たちの物語だ。
ディヴァインGはRTAで演目を作成し、それを上演する決定権を持つ服役人だが、新たな演劇参加者の非協調的な態度や、仮釈放を得るため法律と取り組まねばならない、受刑者としての両立がせめぎ合う。こうした事実がベースとなっているだけに、作品はあたかもドキュメンタリーを見るかのような迫真性をまとっている。16mmフィルムによる撮影も、そうした要素を視覚面からフォローする。
なにより、この映画を説得力あるものにしているのが、キャストの多くをRTAプログラムで学んだ元収監者が担っている点だろう。彼らは劇中で自身を演じ、更生プログラムの有効性を自分たちで立証していくのだ。このように登場人物の実体験が映画とシームレスにつながっていき、作品を熱い血の通ったものにしている。
刑務所という懲罰と孤独の空間で、収監者たちにもたらされる個々のつながりと友情、そして自負心。ああ、こうして称賛すればするほど、ますます「Breakin' the Mummy's Code」に思いが募る。本作が古代エジプトを舞台に、グラディエーターやロビンフッド、果てはシェイクスピアまでもが入り乱れる、タイムスリップコメディと知ってはなおさらだ。そこにはさらに深い何かがあるのか、それともあまり意味を追求してはいけないものなのか……。
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