【「プレゼンス 存在」評論】ソダーバーグのパーソナルな想いが込められている作品
2025年3月9日 14:00

スティーヴン・ソダーバーグが初のホラーを撮った! ジャンル映画に強い執着を持ち、斬新な切り口でジャンルの可能性を広げてきた映画作家なだけに「え?ホラーには手を出してなかったの?」と改めて驚くが(東宝怪奇映画「マタンゴ」のリメイクを考えたことはあったらしい)、実にソダーバーグらしい遊びを感じさせる作品に仕上がった。
今回の趣向は「幽霊屋敷」もの。しかも全編が幽霊視点、全シーン主観カメラの長回しというトリッキーなスタイル。引っ越したばかりの一軒家で、ティーンエイジャーの娘クロエは“何か”の存在を感じ始める。とはいえ身も凍るような怪奇現象が起きるわけではない。どうやら“何か”の力は限定的か、非常に微弱なようで、実害があるのかも不明だが、とにかく“何か”はそこにいるらしいのだ。
しかしこの一家、両親も兄もそれぞれに問題を抱えていて家庭崩壊の一歩手前。“何か”の正体は亡くなった親友の霊ではないかと考えるクロエ以外にとって、自分の問題の方がずっと大変なので(特に序盤は)目に見えない“何か”のことがほとんど頓着されていないのが可笑しい。
可笑しいといえば、家族のゴタゴタを見つめている“何か”はことあるごとにクロエの部屋のクローゼットに戻っていく。なぜそこが定位置なのか? 一種の地縛霊なのか、クロエに執着を残している誰かなのか? 謎はほんのりと明かされていくが、平凡な家族の危機にまつわるドラマもほぼ拮抗して進んでいくので、ホラーというより幽霊と一緒に他人の家庭を覗き見している感覚に陥る。
ソダーバーグはいつものように自らカメラを担いで撮影監督も兼ねているので、すべてを見つめている“何か”役を演じているのはソダーバーグ自身だとも言える。つまり本作は、どん底時代に撮った奇作「スキゾポリス」以来となる監督兼主演作であり、相変わらずヘンなことをやる人だなあと思わせてくれるのもまた楽しい。
ちなみにハリウッド随一の理性派監督であるソダーバーグだが、本作に際して母親が霊能者だったと告白している。劇中に登場する霊能者がどこにでもいそうな一般人の佇まいをしているのも、特殊な力と日常が隣り合わせだった実母を反映しているという。本作の物語が(ソダーバーグ比で)思いのほかセンチメンタルな帰結を見せるのは、ソダーバーグのパーソナルな想いが込められている作品だからなのかも知れない。
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執筆者紹介
川口敦子 (かわぐち・あつこ)
映画評論家。著作に「映画の森―その魅惑の鬱蒼に分け入って」(芳賀書店)、訳書には「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」(キネマ旬報社)などがある。
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