【「ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女」評論】誰もがステラになり得る危うさに気づかせてくれる
2025年2月15日 14:00

ナチスの協力者になったユダヤ人女性ステラ・ゴルトシュラークの波乱の人生を、ピーター・ワイデンの著作「密告者ステラ」や、1946年と1957年の裁判記録を基にたどる。「史実に基づく架空の作品」として製作された人物史だ。
1940年から始まるドラマは、おもに4つのパートに分かれている。アメリカに渡り、ジャズシンガーとして成功することを夢見ているパート1のステラ(パウラ・ベーア)。しかし3年後、パート2の彼女は、ユダヤ人であることを示す黄色い星を胸に軍需工場で働き、その後、恋人ロルフ(ヤニス・ニーブナー)の影響で身分証偽造ビジネスに足を踏み入れる。ゲシュタポに捕まってからのパート3では、迫害を受ける被害者から、ユダヤ人の居場所をゲシュタポに密告する加害者へと転身。そして、戦後の裁判を描くパート4では、ステラが自分の密告行為をどう総括していたのかが明らかになる。
監督は、パリ同時多発テロの被害者家族の葛藤をリアルに描いた「ぼくは君たちを憎まない」のキリアン・リートホーフ。彼が、この映画に敢えて「架空の作品」というレッテルを貼ったのは、ステラが同胞を売る行為を続けた理由に独自の分析を施したからだろう。自身も友人の密告によってゲシュタポに捕らえられたステラが、密告者の道に進んだのは、自分と両親の強制収容所行きを免れるためだった。それは、やむを得ない死の回避行動だったが、密告が日常化するにつれ、ステラの中には自己を正当化する別の言い訳が構築されていく。
それが鮮明になるのはパート4。罪を償うように諭す友人に対し、「私が金髪だから彼らが妬むの。美人の私を嫌うのよ」とステラが言い放つ場面だ。セリフの中の「彼ら」とはユダヤ人のこと。一見アーリア人に見えるブロンドのステラは、他のユダヤ人に対してナチスさながらの優越意識を抱き、密告する側とされる側の間にはっきりと境界線を引いていた。そして、そんな彼女の志向性を念頭にパート1~3を振り返ると、どのステラの中にも優越意識が芽吹いていたことに気づかされる。もしも彼女が輝くようなブロンドの持ち主でなかったら、おそらく密告者にはならなかったのではないか。
「この映画の中で私たちは常に自分自身と向き合っているのです」とリートホーフ監督が語るように、この映画は、もしもステラと同じ立場になったら自分はどうするかを考えさせる。死を覚悟して強制収容所へ行くか、密告者になって生き延びる道を選ぶか? しかし、そうした選択の問題以上に突き付けられるのは、自分を正当化して罪悪感を封じ込めるのがいかに容易かという事実だ。誰もがステラになり得る危うさに、この映画は気づかせてくれる。
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