プライベート旅行は三島由紀夫文学館へ…日本を愛する仏教徒のロシア鬼才が「チャイコフスキーの妻」で描いた女性のエゴと執着
2024年9月5日 17:00
ロシアの天才作曲家を盲目的に愛した“世紀の悪妻”アントニーナの残酷な愛のかたちを描いた、第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作「チャイコフスキーの妻」が9月6日公開される。ロシアではタブー視されてきた「チャイコフスキーは同性愛者だった」という事実と、“世紀の悪妻”という汚名を着せられたアントニーナの知られざる実像を、史実をもとに大胆な解釈を織り交ぜて描き出す。
フランスで異例の大ヒットを記録した本作の監督、キリル・セレブレンニコフの特別インタビューを映画.comが入手した。
チャイコフスキーを人々が期待するような形で描くつもりはありませんでした。ある意味では、社会問題やロシア社会を描いたといえるかもしれません。ロシア社会では、チャイコフスキーのような天才作曲家の私生活について信じない人々もいれば、彼の噂やゴシップをもっと聞きたがる人々もいます。それはアントニーナも同様で、彼の私生活について何かを聞いても信じようとしません。彼女は夫と愛し合っていると確信していますが、現実は異なり、その事実を知ることは彼女にとっては悲劇でした。それと同時に、この物語はアントニーナという一人の女性の物語とも言えます。彼女は、男性社会の中で周囲の男たちに立ち向かい、男性によって作り上げられた法律に反発したのです。愛のために社会と戦うというアントニーナの女性像は、現代に生きる私たちにとっても影響を与えるものがあると思います。
女性は時として、現実ではなく空想を愛してしまうような気がします。そして、アントニーナはチャイコフスキーという人物ではなく、イデア的な“ロシアの天才作曲家”を追い求めていたといえるでしょう。またこの物語は、巨大なエゴに関する話であるとも思っています。仏教徒である私には身近な話ですが、エゴは人にとても悪い影響を与え、周囲を破壊してしまいます。彼女のエゴとチャイコフスキーへの執着は大きく関係していると思います。
私はロシアのインディペンデント系の音楽シーンが大好きなのです。彼らは皆、私の友達で、ショートパリスは私のこれまでの映画にも曲を提供してくれています。オクシミロンもとても良い友人で、今回初めて映画に出演してもらいました。彼らにとっても、19世紀を舞台にした映画に参加できたのは興味深い経験だったのではないでしょうか。
日本に訪れたのは今回が2度目でした。前回は国際交流基金の招聘だったのですが、今回はプライベートでの来日でした。日本はとてもユニークで、見るものすべて美しく、特に伝統とモダンなものとの融合が素晴らしいと思います。現代アート、自然、禅…様々な素晴らしいものを堪能しました。日本や日本で暮らす人々からインスピレーションを得たので、いつか日本で映画を撮りたいと思っています。ショッピングもとても楽しかったです!渋谷で売っている中で最も大きなスーツケースを2つ買って、日本製の服などを沢山購入したので、私はかなり日本経済に寄与したと言えるのではないでしょうか(笑)。皆さんにお見せしたいものがあって…(ゴジラのマスクを被って登場)。昨日はルール・トリエンナーレのオープニングがあったのですが、そこでこのマスクを被り、「日本から来たゴジラです!」と挨拶をしました(笑)。
黒澤明や大島渚、今村昌平などのレジェンド達には、幼少期から強い影響を受けていて、それは今の日本への関心に繋がっていると思います。また、三島由紀夫の文学や彼のパーソナリティもとても興味深く、今回の来日で三島が最期に行った食事処を訪れたりしました。彼も私の人生に大きな影響を与えた人物と言えます。映画とは離れますが、ふじのくに⇄せかい演劇祭の初代芸術総監督である鈴木忠志さんはモスクワ芸術座で演出をしていたり、舞踏家である工藤丈輝さんはモスクワの劇場で公演を行っていたり…彼らの活動からも影響を受けています。
私は日本、そして日本の皆さんのことを愛しています。今後、もしかしたら演劇作品、ミュージカル作品もしくは映画作品を日本で制作することがあるかもしれません。私の作品に興味を持っていただけたら、とてもうれしく思います!
「チャイコフスキーの妻」は、9月6日から、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。
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