高校のシンボルマークはキノコ雲…「オッペンハイマー」で注目のマンハッタン計画のもと作られた町の歴史と現在を紐解くドキュメント「リッチランド」公開
2024年7月6日 08:00

第96回アカデミー賞受賞作品「オッペンハイマー」で注目された、第2次世界大戦下米国のマンハッタン計画。核燃料生産拠点「ハンフォード・サイト」で働く人々とその家族が生活するために作られた町、リッチランドの知られざる歴史と現在を映したドキュメンタリー「リッチランド」が公開された。アイリーン・ルスティック監督が本作を語るインタビューを映画.comが入手した。

ワシントン州南部にある平和で美しい郊外の町リッチランド。地元の高校のシンボルマークはキノコ雲だ。「原爆は戦争の早期終結を促した」と町の歴史を誇りに思う者がいる一方で、多くの命を奪った原爆に関与したことに逡巡する者もいる。また、暮らしやすい町に満足している人々も「川の魚は食べない」と語り、現在も核廃棄物による放射能汚染への不安を抱えながら暮らしている。また、高校生たちの意見交換や、被曝3世であるアーティストの川野ゆきよが町を訪れ、住民たちとの対話を試みるさまも映し出される。

ルスティック監督が初めてリッチランドを訪れたのは2015年。フェミニストの雑誌「ミズ」に関する映画製作時、リッチランド出身のとある女性が「ミズ」に送った手紙がきっかけだったという。
「彼女がつづったのは、ハンフォードで働く父を放射線関連の病気で亡くした経験で、私はリッチランドで撮影を行い、トリシャ・プリティキンにこの手紙を朗読してもらいました。トリシャはリッチランド出身の反核アクティビストかつ“風下住民”であり、彼女の被ばくと喪失の物語は、手紙に記されたそれとほぼ完全に重なります。彼女はリッチランドの『アルファベット・ハウス』歴史地区を車で案内してくれました。アルファベット・ハウスとは、ハンフォード・サイト職員のために同一規格で建てられた郊外型の家々のことです。トリシャは自分が育った『F型』の家を指さして教えてくれました。それからリッチランド高校へと私を連れてゆき、大文字の『R』から噴き出すキノコ雲が学校の背後の壁いっぱいに描かれているのを見せてくれました」

この訪問後、2016年の米国大統領選挙戦を経て、何年もリッチランドのことを考えずにはいられなかったルスティック監督。「共同体が自らの歴史のシンボルとして核兵器をああも誇らしく押し出すとはどういうことなのだろう、と私は思い惑ったのです。やがて、リッチランドのような共同体は米国人が自らの暴力の歴史をいかに処理してきたのかについて示唆を与えてくれるのではないか、それを理解したい――という思いに駆られるようになったのです」

ルスティック監督はチャウシェスク政権下のルーマニアから政治亡命者として逃れてきた両親の間に生まれた米国人1世であり、初長編作品で自分の家族の歴史を時間をかけて紐解いた。その経験から、人が痛みを呼ぶ歴史と向き合う過程を、ケアと共感をもって支えることを学び、映画作家として、人々とその過去の間を繊細に仲介する使命を感じているそうだ。
「リッチランドで辛抱強い人間関係構築とコミュニティ・リスニングを数年かけて行う中、核兵器製造のもたらす膨大な環境的・人的コストについて語ることを避けたくありませんでした。しかし同時に、ハンフォードの職員たち――もっぱら私とは大きく異なる政治的姿勢を持っている人々――の物語も、尊厳を惜しまず聴く耳をもって表象したかった」と明かす。

本作は「簡単な答えを与える映画ではないし、政治的立場を示すものでも、シンプルな原子力産業批判を行うものでも、原子力の専門家とのインタビューを含む作品でもありません。代わりに行うのはもっとやっかいな作業――異なる声や立場が共存できるよう忍耐の中で開いてゆく空間を作り、いくつもの絡まり合った歴史をそっとひとところに抱き入れるような映画的形式にしてゆくことです」と構成を説明し、
「私たちが今生きている時代は、人間存在を否定するような根深い構造を持っています。そんな時代だからこそ、感情と信条の仕組みをテーマとしたこのプロジェクトには差し迫った必要性があると感じています。核推進派VS反核派という二項対立のような、簡単に消化できるような世界をスクリーン上に作り出すよりも、より居心地悪く、人との距離が近く、アンビバレントな空間に身を置きたい。その空間こそやがて、私たちが心に抱くさまざまな形を教えてくれるでしょう」と本作の狙いを語っている。
映画はシアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開中。

(C)2023 KOMSOMOL FILMS LLC
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