ホウ・シャオシェンから伝えられたことは? 台湾ニューシネマの系譜を受け継ぐ俊英、新作「オールド・フォックス」を語る【アジア映画コラム】
2024年6月26日 19:00
「オールド・フォックス 11歳の選択」(6月14日から公開中)を手掛けたシャオ・ヤーチュエン監督は、台湾で取材を受けた際、同作の製作を務めた名匠ホウ・シャオシェンについて、このように語りました。
「彼の名前がクレジットとして入っている。だからこそ、私はしっかりしないといけません。これは“製作”としての最大の威力ですから」
1990年代に映画業界に入ったシャオ・ヤーチュエン監督。最初の仕事は、ホウ・シャオシェン作品の助監督でした。歌が大好きなホウ・シャオシェンに頼まれ、彼のアルバムのミュージック・ビデオも担当。長い歳月をかけて厚い信頼関係を築いていきました。00年、監督デビュー作「Mirror Image」はカンヌ国際映画祭監督週間に入選。ホウ・シャオシェン監督は、同作からずっとシャオ・ヤーチュエン作品のプロデュースを担当しています。
バブル期の台湾を舞台に正反対な2人の大人の間で揺れ動く少年の成長を描いた「オールド・フォックス 11歳の選択」は、シャオ・ヤーチュエン監督の長編第5作です。昨年東京国際映画祭でワールドプレミアが行われたあと、第60回台湾金馬奨で最優秀監督賞を含め、4部門を受賞しました。
今回は、そんなシャオ・ヤーチュエン監督のインタビューをお届けします。
【「オールド・フォックス 11歳の選択」あらすじ】
昨今、全世界のどこでも階級闘争が激化し、我々もその影響を身近に感じています。だからこそ、それをテーマに映画を描きたいと考えました。そして、私は父親であり、子どもは10歳になった頃。子どもから社会について、いろいろと質問されるようになりました。 例えば「公平や正義はあるのか?」など。それに答えることは、とても難しいと感じています。なぜ、こんな質問が出てくるのでしょうか。おそらく彼らが見ている世界が、彼らが学んできた世界とは、異なっていたからなのでしょう。学校で習ったことと見たことが同じであれば、このような質問をすることはなかったと思います。
子どもの質問に真剣に答えたかったのですが、これが本当に難しい。自分自身と議論しなければならないことさえありました。 子どもたちとの長い対話の末に、いくつかのアイデアが蓄積されたので、本格的に動き出しました。
1989年、当時の私は22歳でした。あの時は台湾の貧富の差が広がった原点とも言えるので、それを振り返るためです。なぜ貧富の差が広がったのかというと、実は台湾の政治と関わっています。台湾は1987年に戒厳令が解除されました。その後、多くのルールが変更となりました。投資、金融、株など、一気に裕福になる手段が増えたんです。その瞬間から“台湾”が大きく変わりました。
戒厳令の時代は、一生懸命働けば、多くの給料が得られました。一方、一生懸命働かなければ、給料が少なくなりました。しかし、戒厳令解除後、その方程式が崩れたんです。それがとても興味深くて。あの時代、あの空間の中で物語を展開したかったと思いました。
リャオ・タイライという人物のすべては、私の母親から発想したものです。激動の時代の中で、私の母親は古い時代の側にいました。彼女の生い立ちや価値観はもう変えられなかったんです。世界全体が大きく変化していた当時、彼女はとても混乱し、道を彷徨っていました。そして新しい時代の生き方を教えてくれる人もいなかったので、今まで通りに私を育ててくれました。
この映画に関わっている俳優のほぼ全員が“当時の経験”はない、あるいは非常にかすかな記憶しか持っていません。ですから、彼らは“自分の両親”を投影しています。
リャオ・タイライに関しては、先程私の母親から着想したと言いましたが、グァンティンは「あれは、ぼくの父だ、本当に同じです」と言っていました。彼は、自分の父を思い出して、そのまま演じたんです。ちなみに、私以外にも「自分の母に似ている」と言っている者もいました。つまり、それぞれがリャオ・タイライに“自分の両親”を重ね合わせていたのです。
私は500人ぐらいのオールド・フォックスに会ったことがありますよ(笑)。 学校を出て、社会に出たとき、最も資本主義的な産業に入ったのですが、あそこのすべての議論は“お金”でしかないんです。私は広告の仕事もしたことがあるのですが、広告は基本的に、どのような“偽装”をすべきかについて話し合っています。私の母親の教えとは真逆ですね。
もちろん、オールド・フォックスの考え方は悪いことではありませんし、母の考えは時代遅れでもないと思います。基本的に自分の人生は、自分自身のもの。どのようにバランスをとるかは、人それぞれじゃないかなと思います。
バイ・ルンインとの出会いは、とても幸運でした。 実は、最初からバイ・ルンインに、この難役をお願いしたかったのです。彼は5、6歳のとき、いくつか舞台に出ていました。出演回数はそれほど多くはなかったのですが、とても印象深い存在でした。しかし、彼をキャスティングをしようとした時、学業のため、役者を引退すると言われました。私も子どもがいて、親の気持ちもわかるので、バイ・ルンインのキャスティングを断念し、リャオジエ役をオーディションで探そうと思いました。
しかし、なかなか良い人が見つからなかったので、改めてバイ・ルンインに連絡しました。すると両親から「ずっと待っていました」と言われたんです。「役者を引退したのではないのですか?」と聞いたら「こんなに良い役を諦めたくない」ということで出演が決まったんです。
バイ・ルンインは非常に素晴らしい役者です。子役ではなく、役者ですね。この年齢の役者はなかなかコントロールできない時がありますが、バイ・ルンインはそれが一切なかったし、役について常に私とディスカッションしていました。リャオジエというキャラクターは、バイ・ルンインがいなければ成立しなかったと思います。
今の世界はとても複雑だと思っています。私は自分の子どもたちに、世界はとても無垢で完璧なものだとは教えたくありません。そして、世界はとても邪悪で危険に満ちているとも教えたくはありません。この世界はある意味、2つの世界が密接に関係しているといえるでしょう。自分の人生は、自分で選ばなければならなりません。結果が異なれば、別の道に進み、自信で納得ができるまで探し続けなければならないんです。
女性キャラクターがいないと、階級に関する描写が足りないのではないかと思います。リャオ・タイライとヤンジュンメイの関係があのような結果になったのも、階級による影響だと考えています。
運命だと思います。本作のプロデューサーのひとりは、日本から参加している小坂史子さんです。小坂さんから「日本の役者と一緒に映画を作ることに興味はありますか」と聞かれました。私はとても興味を持っていました。昔、ホウ・シャオシェン監督の助監督を務めていた頃、監督から何度も「日本の俳優と仕事をする機会があれば、ぜひ挑戦してください」と言われました。日本人俳優の仕事への取り組み方や考え方は「とても面白い」と言っていましたね。
門脇さんはこの物語をとても気に入ってくれて「どうしてもこの映画に出たい」と言ってくれたので、すぐに出演が決まりました。彼女は本当に素晴らしい俳優だと思います。
美術に関しては、私自身がとても誇りに思っている部分です。時代をしっかりと再現するために、かなりの工夫を凝らしました。脚本を書く時、私は“あの時代”を経験してはいますが、記憶の誤りも多いため、いろんなことを調べました。そこで集めた資料に基づいて、小道具をたくさん作っています。とにかく細かい部分まで、全部丁寧に再現しようと思いました。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
犯罪が起きない町で、殺人事件が起きた――
【衝撃のAIサスペンス】映画ファンに熱烈にオススメ…睡眠時間を削ってでも、観てほしい
提供:hulu
映画料金が500円になる“裏ワザ”
【知らないと損】「映画は富裕層の娯楽」と思う、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーン中!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【史上最高と激賞】人生ベストを更新し得る異次元の一作 “究極・極限・極上”の映画体験
提供:東和ピクチャーズ
予想以上に面白い!スルー厳禁!
【“新傑作”爆誕!】観た人みんな楽しめる…映画ファンへの、ちょっと早いプレゼント的な超良作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。