大泉洋主演「ディア・ファミリー」は、ありそうで無かった「医療技術の開発」×「家族愛」。どのくらいの破壊力か?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2024年6月15日 07:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末2024年6月14日(金)から「ディア・ファミリー」が公開されました。
本作の大きな特徴として、冒頭に幾つかの時代が登場します。
ただ、それは最終的に非常にうまくつながっていくので、大まかに見ていても問題はありません。
本作は「実話」のため、細かすぎるエピソードなどが満載だったはずですが、それを2時間を切る116分で見事にまとめきったと感心しました。
まず、予告編を見た段階では「心臓病を患い余命10年の宣告を受けた次女を救うべく、自らの手で人工心臓を作る決意」というくだりが紹介されていたので「医療」×「家族愛」の映画なんだと想像していました。
ただ、「人工心臓」というモノを1つとっても、実は医療機器には2つの側面があることに気付かされます。
医者はあくまでデータなどの「基礎研究」はできますが、そもそもの機器は「モノ作り」の専門性が求められる、ということです。
つまり、医療機器とは、「医者」と「モノ作りのプロ」の2つの世界が協力しあわないと作れないわけです。
しかし、新型コロナウイルスのような特殊すぎる状況が起こらない限り、医療現場には「切迫感」が、やや欠けてしまう面があるのも仕方のないことなのでしょう。
一方で、町工場の「モノ作りのプロ」が、余命10年とされる状況を乗り越えようとすれば「切迫感」が違ってきます。
本作が興味深いのは、新たなチャレンジに対する「コスト」の現実問題を突きつけられる点にもあります。
「医療技術の開発」は人間社会において極めて重要なものですが、その際に膨大な「コスト」がかかるのです。
では、その「コスト」は誰が負担するのでしょうか?
通常は、医学部などの基礎研究のために大学が負担するようなものなのでしょうが、それを頼っていたら「余命10年」といった期限にはとてもではないですが間に合いません。
そこで劇中では、親が自ら、その「コスト」を惜しまず負担しようとします。
ただ、その医療という分野における「コスト」は、想像を遥かに超えるものであることも本作で理解できます。
世の中の大きな課題を乗り越えるには、膨大な費用や時間などの「コスト」を要することになるのですが、本作では大泉洋が演じる父親が、そのすべてを負担しようとします。
単なる「夢想家」なのかもしれませんが、主人公を突き動かすのは「家族愛」に尽きるのでしょう。
このように、本作は、「医療技術の開発」における「無謀すぎるチャレンジ」、それによって浮き彫りになる「医療界の様々な現実」を知ることができるのです。
特記すべきは、脚本が無駄なく丁寧に整理されているため、「医療の現実問題」や「医療の技術開発」、そして「家族愛」など、どれをとっても過不足なく描き出されている点です。
そのため、引きの強い「医療」や「家族愛」など、引っかかる要素が多いので、「ディア・ファミリー」は「口コミ」が広がりやすい作品だと思われます。
本作は東宝とWOWOWが幹事会社の作品ですが、「WOWOW映画」は、ビッグプロジェクトであった「ゴールデンカムイ」あたりから、かなり様相が変化しつつある気がしています。
「ディア・ファミリー」は、意外と制作コストをかけていると感じるので、まずは興行収入10億円突破、そして2次利用も含め採算ラインと想定される興行収入14億円突破と、このところ元気のない映画業界を盛り上げてほしいです。
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