「オッペンハイマー」全4フォーマット制覇レポート 迫力のIMAX®、繊細なDolby Cinema®、丸ごと贅沢な35mm、回数観るなら通常DCP版
2024年4月5日 12:00

第2次大戦下、核兵器の開発に取り組む物理学者の苦悩に満ちた半生を描き、本年度アカデミー賞の作品賞、監督賞を含む最多の7冠に輝いた注目作「オッペンハイマー」がついに日本でも公開された。ここではその4つの上映フォーマットを全て鑑賞、そのレポートをお届けする。
●35mmフィルムフォーマット:影の部分に特有の柔らかいにじみ、字幕に“小さな発見”――「映画を観た」という充足感

公開初日に先立つ3月25日(月)、新宿歌舞伎町の「109シネマズプレミアム新宿」で19時から行われた35mm・字幕版の上映を鑑賞。入場料金CLASS Aが4500円、CLASS Sが6500円というプレミアム価格のため、とにかくゴージャスな雰囲気で映画を楽しめるのがポイントだ。
広く落ち着いた雰囲気のラウンジでは全ての観客が上映までの時間を過ごすことができ、入場料にはコーヒーやコーラなど11種類から選べるソフトドリンクと、ポップコーンがセットになったウェルカム・コンセッションが含まれている。

CLASS Aの座席はゆったりとしたリクライニングのソファとなっており全席サイドテーブルを装備、荷物も傘もトレイもスッキリ収納できる。75席のキャパシティで男女比はざっと3:1、男女カップルも多く、年齢層は20~30代が中心と意外に若い。
この劇場は音楽家の坂本龍一氏が音響設計の監修をしており、上映前に生前の同氏が登場してその説明をする短い映像が流れる。日本最速上映、というイベント感もありチケットは早々に売り切れており、そんな先取り感もあってか静かな興奮が漂う。

そしてついに本編がスタート。水たまりに落ちる雨粒の波紋と、それを見つめるキリアン・マーフィ扮するオッペンハイマーの顔のアップから作品は始まる。そして人類に火をもたらした神プロメテウスに関する字幕が出たところで小さな発見が。35mmというレトロなフォーマットに合わせたからか、字幕が手書き風の写植になっていた。スクリーンサイズは2.35:1の左右に広いシネマスコープ。クリストファー・ノーラン監督自身が、オリジナルネガの 質感を可能な限り再現した、と自負するポジプリントを取り寄せ、日本国内で日本語字幕を打ち込んだものだそうだ。
フィルム素材のためか、日中の室内などの低い光量のシーンの影の部分に、特有の柔らかいにじみを感じる。モノクロのパートを含め、わずかに青みがかったように感じる画面が「フィルムで観ている」という想いを強くしてくれる。

最新式の音響システムは音楽家の坂本氏が監修した影響か、BGMの抜けの素晴らしさを感じた。この作品はバックに音楽が流れるシーンも多く、ストーリーに合わせトラックが細かく当てられており、その旋律の美しさを存分に堪能できた。ゆったりとした座席で映画を楽しむ、充実の3時間だった。
●IMAX®レーザーGT:全てがパキッとエッジが立ったクリアな映像×別格の音響システム=画と音を浴びるような体験

初日3月29日(金)の初回は、迷わず「グランドシネマサンシャイン池袋」のIMAX®一択。チケットの事前売り出しタイミングに少し乗り遅れたがなんとか座席を確保。東京では唯一、監督が意図する映像を可能な限り再現している上映フォーマットということもあってか、この回のネット予約は異次元の速さ、サイトをリロードする度に、見る間に空席が埋まっていく。
前夜から続いた季節外れの豪雨、当日朝8時前のビルはひっそりとしていたが、スクリーンのあるフロアに到着すると、多くの観客がすでに入場し、早くも熱気が伝わってくる。ロビーにあるIMAX®ロゴとポスターの前には写真を撮る人の列が出来ている。
劇場スタッフが適宜、座席に向かってスマートフォンの画面に関する注意喚起を行っている。そんな混み合った場内で座席番号を探し着席。予告編に続き、いよいよ本編が開始された。

1.43:1の特徴的なアスペクト比は思った以上にスクエアで、IMAX®特有のもの。オッペンハイマーのアップでは、シネマスコープではマスクされていた頭頂部から顎の先まで余すところなく映し出される。一つの顔でもピントが来ているところとボヤケている部分があり、その陰影がオッペンハイマーの持つ複雑な感情を丸ごと、こちらにぶつけてくるかのようだ。
一方、引いたカメラが捉えたロスアラモスの雄大な遠景や、大人数で奥行きのある記者会見場面はどこまでも明るく美麗だ。星や粒子が飛び交ったり、光線の束が湾曲し震える特撮のシーンは吸い込まれるような美しさに唸る。ここには35mmフィルムにあった曖昧な表現はどこにも見られない。全てがパキッとエッジが立ったクリアな映像に仕上がっている。

また、フルサイズIMAX®で上映されている劇場のみで感じる事象として、同じセットでの撮影でも動きの少ないクローズアップや風景はフルサイズ、セリフが飛び交うカットバックのような場面になると上下に少しマスクが入るなど、2種類の画角に切り替わるのも興味深かった。これは監督自身が意図したもので、重要なシーンは高く広げたサイズで観客に見てほしい、という思いが込められているという。
そして、音響システムも別格だった。核実験のシーンや、聴衆が足踏みするストンプ・ショットでは、劇場の床やシートの背もたれまで振動が伝わり、低音の響き方は他の追随を許さない。とにかく画面からの情報量が多く、画と音を浴びるような体験だった。上映終了直後、会場のあちこちから拍手が起こっていたのも印象的だった。
●Dolby Cinema®:サウンドの位置、黒の具現化に説得力 人影とその動き&皮膚の質感がリアルに描写されていた

池袋の後は有楽町に移動して「丸の内ピカデリー」のDolby Cinema®。初めて体験したが、HDRの密度の高い映像と、天井にも設置されたスピーカーによって、リアルな映像体験が可能になった、というのがこの劇場の持ち味だ。
本編上映前のデモ画面でも、サウンドの位置、黒の具現化に説得力があった。この環境を作り出すため、座席数も減らし、映画館を丸ごと作り変えたそうだ。確かに席の間隔も通常の映画館よりゆったりしている。そしていよいよ上映開始。


冒頭から雨粒や風の音、人の息遣いなどが独立して聞こえてくる。これがDolby Cinema®かと感心した。重低音はIMAX®に軍配が上がるものの、セリフの聞きやすさはDolby Cinema®も負けてはいない。
また、夜間のシーンでは暗闇に浮かぶ人影とその動きが、フローレンス・ピューが登場する場面では、皮膚の質感がリアルに描写されている。そういった何気ないシーンが精緻に表現されており素晴らしかった。画角は劇場に問い合わせたところ1.85:1のビスタサイズとのこと。

●通常DCP版:少しでも広く観られるような工夫――“発見”は少ないが、リラックスして鑑賞可能

最後に観たのが通常フォーマットだった。映画館は「吉祥寺オデヲン」。昔からの古い映画館で先ごろ同様の吉祥寺プラザが閉館してしまったため、唯一の老舗劇場となった。日曜の初回ながら中高年を中心にほぼ満席だった。
ここはスクリーンサイズを横に開くカーテンで調整する昔ながらの方式を採用しているのだが、そのカーテンを見ると予め設定されたシネマスコープ・サイズよりも内側に少し黒みが入っている。つまり、左右に少しマスクがかかっているのだ。
ネットで調べてみると、通常DCP上映の画角は2.20:1となっている。つまりシネマスコープのサイズで上下を合わせているので、それぞれのサイドが若干狭くなっており、その分切り捨てられるはずだった天地の部分を、少しでも広く観られるような工夫がなされている。他のフォーマットに比べると発見は少ないものの、その分リラックスして鑑賞できた。

上映フォーマットに関しては、やはり迫力の面ではIMAX®が圧倒的。一拍遅れて届く爆発音などは、ジャンプ・スケア演出を差し引いても、かなりの衝撃を感じさせる。
そして、繊細なテイストで言えばDolby Cinema®だ。会話パートが多い登場人物も多い本作において、人物造形の妙や、時制を行き来する編集といった、ノーラン監督独自の演出を味わい尽くせる方式だと言えよう。
レトロな風格といえば、やはり35mmフィルムだ。3時間の人間ドラマを贅沢なシートで楽しめて「映画を観た」という充足感に浸れるフォーマットだ。
そしてこれらを体験した後、比較として通常形式のDCP上映を観ることで、今の映画館の進化ぶりがより明確に分かるようになっている。
どのフォーマットにするか迷われている方、このレポートが皆さんの鑑賞の参考になれば幸いです。
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