「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」富野由悠季監督&出渕裕が濃密トーク! 日本の漫画界、宮﨑駿監督のオスカー受賞にも言及
2024年3月17日 21:33
新潟市で開催中の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」で、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988)の上映が3月16日にあり、「機動戦士ガンダム」シリーズ産みの親であり、キャリア60周年を迎えた富野由悠季監督、「ガンダム」シリーズモビルスーツデザインを担当した出渕裕氏がトークを行った。
本上映は観覧チケットが発売初日に即時完売。満席の観客を前に、舞台に立った富野監督は、キャリア60周年という歴史に「いやだなあ」と照れ隠ししながらも、今回の新潟国際アニメーション映画祭での高畑勲監督特集に触れ「僕にとっては高畑監督は師匠。ですので、師匠と一緒にこうやって上映されるのはうれしいけれど、ちょっと照れるなっていう感じ」と挨拶する。
そして、ガンダムシリーズ初のオリジナルストーリーの劇場版である「逆襲のシャア」について、出渕氏が「富野さんの作品では、僕はいつも敗戦処理係ですよって話をしたんです」と切りだす。
富野監督は「敗戦処理係とは誰かの代打という言い方もありますが、僕の意味は全然違っていて、出渕っていう人は本当に器用で便利な人で、デザイナーとして絵描きとして、こんなに便利な人はいないと思っていました。その思いに関しては、現在まで全く変わってません」とその仕事ぶりを称える。
その一方で「これまでいろんな方と仕事をしてびっくりしたことは、一つのことしかできない人の方が多いんです。名前をあげてもいい人が一人いますが、永野護っていう奴はあれしか描けない(笑)」「一芸に秀でるっていうのはああいうこと」と数々のガンダム作品のデザインを担当した永野護氏を名指し、会場から大きな拍手が上がった。
そして話題はかつて富野監督が勤務していたアニメ制作会社「虫プロダクション」の手塚治虫氏の漫画に移行し、「手塚さんは、漫画というジャンルの中でいろんなことを試してきた人」と出渕氏。富野監督は「手塚先生がいたおかげで、戦後70年、80年という歴史の中で漫画のベースを作られ、手塚先生を追いかけたら、みんなができるようになって、その後少女漫画の隆盛なども起こりました。そして、つい最近お亡くなりになった鳥山明さんは『ドラゴンボール』という時代を画するようなものを作ってしまった。そこで終わるかと思ったら、もう一つ、化け物が出ました。『ONE PIECE』です」と分析。
「そういう系譜を考えると、手塚治虫がやったことから『ONE PIECE』まで繋がってるんです。それだけではなく、文芸作品を超えるような作品まである。ですから、漫画やアニメを一面的にだけ見て喜ぶのではなく、そこから俺もやるぞ、プロになるぞっていう気持ちのある人に言えるのは、かなり広い視野を持たないと、これら以後の(優れた)漫画家、アニメの作り手っていうのはなかなか出ないだろう」と語る。
そして、「そういう意味でアニメでは、今回我々はとてもいい人を目標とすることができた。宮﨑駿の『君たちはどう生きるか』、ああいうとんでもない作品がアカデミー賞を獲れたこと。なぜとんでもないかっていうと、ハッピーエンドでないアニメをついに作ってしまってそれがアメリカの映画界で、アニメーション界ではなく映画界で、こんな面倒くさいアニメーションが受賞できてしまったことは、『ONE PIECE』をひょっとしたら超えるかもしれない」と持論を述べた。
その論に対し出渕氏が、「時代が寄り添っているということもあるかも」と意見を述べると、「もちろん。それはどういうことかというと、映像が好きで、アニメや漫画の仕事をやりたいとと思っている若者、舐めてもらっちゃ困るよ、本当に命かけないと宮﨑を超えられなくなるんだよ。『ONE PIECE』も超えられなくなるんだよ。そして『Dr.スランプ』を超えなくちゃいけないってのはどういうことなのかってことを本当に考えなくちゃいけない」と、日本を代表するクリエイターたちの偉業と努力を強調した。
そして、「手塚治虫といえども、『虫プロ』を作ったんだったら、社長(業)をやらなければいけないって言い続けたんだけれど、虫プロに4年いてこの人は漫画しかできない人なんだっていうのもわかった」と再び手塚治虫氏への複雑な思いを吐露すると、出渕氏が「最近の富野さんのインタビューを読むと、手塚さんに対する愛情みたいなのがわかる。富野さんのラフ画を見ると、ああ、富野さんってやっぱり手塚さんが好きなんだなって思う。富野ラフって、基本的にリアルじゃないんです、特にモビルスーツなんか。そこで、これは手塚さんなんだってわかった。手塚さんの漫画の、良く言うところのダイナミズムじゃないですか?」と問いかける。富野監督は「そうか? 俺、手塚カラーには絶対染まってないと思うけど」と反論するも、「自分で気が付いてないだけですって(笑)」と出渕氏に押し切られていた。
トーク予定時間のなかばとなり、ようやく本題の「逆襲のシャア」の話題に。
出渕氏は「逆襲のシャア」を見返し、新たな発見をしたそうで、「(『機動戦士Zガンダム』の)クワトロ・バジーナ(実体はシャア・アズナブル)がいたじゃないですか。あれは富野さんにとっては、失敗作なんですよ。失敗っていうか、これはアムロたちと一緒にしといた方が膨らむかもしれないと、クワトロをいい人にしちゃった。これ言うと皆さん反発する方もいるかもしれませんが、シャアってサイコパスみたいなんですよ(笑)」「独善的で自分がやろうとしていることに対して、手段を選ばず、共感力がなくて、人に嘘をつく。交渉の時も、女性に対しても部下に対しても嘘ついてるんです。シャアの言ってることで本当のことなんて一つもない。だから、もしかしたら最後にアムロと対峙してる時も、嘘ついてるのかな、と思うぐらい」と激しい持論を展開する。
その主張に富野監督は驚きながらも「そんな指摘は初めて聞いたけども正しいね」と同調し、「ラストシーンで、シャアとアムロのセリフを作っている時に、実を言うとその(出渕氏の)感覚があったっていうのを思い出した。なんか気持ち悪いな。本当はこういう風に作りたくないんだけれども、もう時間切れたからしょうがなくて……というのが本当のところです」と心情を明かす。
さらに出渕氏が「最初のシャアって、かっこいい敵の悪役みたいなオブラートに包まれてるので、みんなそれに騙されてるんです」と述べると、富野監督が「あのファッションがいけないよね。それは認める」とコメントし、会場の笑いを誘う。
出渕氏の鋭い指摘は止まらず、「富野さんは『Z』の時のクアトロはどっちかというといい人、主人公を導くような設定で作っちゃったんですよ。『逆シャア』を見るとわかるのですが、『Z』がないことにしてるみたいなところがある。とはいえ歴史として(過去の)作品はあるから、昔戦った仲間やハマーン(・カーン)のことも一言だけ触れたりするけど、富野さんの、もうこれには触れたくないなぁっていうようなのを感じる。ニュータイプにしてもファーストガンダムの中では綺麗にまとまっている。人の革新が、その後どうなるだろうという余韻で終わっている。余韻だから美しいのに、続編を作るとなると、それを説明しなきゃいけなくなっちゃって困っちゃってるよう。だから『逆シャア』でもニュータイプにそんなに触れてないんですよね。僕の偏見かもしれないけど、富野さんが『逆シャア』でやりたかったのは生っぽい人間。最後もスピリチュアルかオカルト展開だけども、これには一応理屈はつけたよっていうような方便を見せてるだけ」と解説。
富野監督は「方便を見せてるだけじゃなくて、まさに方便です」と認め、「そういうふうにしないと繋がらないんだろうなっていうプレッシャーがあったんです。それは本当に自覚してます。だから『サイコフレーム』のカットを書いてる時も、困ったな、本当はこういう意味は出したくないんだよねって。その辺のことを今思い出しました。今の出渕君の『逆シャア』の解説はすべて正しいです。否定するところは一切なく、コンテを切ってる時の違和感を全部思い出させてくれて、正直びっくりしてます」と出渕氏の見解に驚きを隠せない様子だった。
次に出渕氏は富野監督の編集について言及し、「コンテや編集がいいんですよ。みんなあまり指摘しないんですけど、キャラクターが喋ってる途中で次にセリフがあるだろうなっていうところの頭を残して切る。あれで、不思議なリズムが出るんです」と褒めると、「それに関して言うとね、『富野の編集下手だよね』ってクソミソに言う、庵野(秀明)っていう奴がいた!」と立ち上がる富野監督。出渕氏は「でも庵野『逆シャア』大好きだからね。僕も最初に『逆シャア』見たときにちょっと違和感があったんです。でも、その後見返したら、これ面白い…って。要するに一回目じゃわかんないことがたくさんある」「富野さんって親切設計してないんです。説明するところも全部ダイアログのやりとりの中で込めてるんです。段取らなくて済むんです」とフォローする。
すると富野監督は「ちょっと忘れてたので、今日見直して本当にびっくりしたのは、頭の3~4分の編集うまいなあって」と自画自賛。出渕氏が富野監督の編集のうまさはリズム感にある、ということ、「『逆シャア』は段取ってないんです。この状況があって、倒置法的に後でこういうことだった、っていうのが分かるような構造になっている」と特徴を挙げると、「長編映画を作る面白さというのは、映像のリズム感で物語を語れる部分があるんです。そういう意味では、『逆シャア』はそれなりに頑張ってるんじゃないのかなって気はしてます」と振り返り、「僕がうっすらとしか覚えてなかったことを全部言葉にしてくれてとっても嬉しい」と感謝の言葉を述べる。
さらに、出渕氏は「俺がメカデザインをやってるから、自分のモビルスーツが戦うのはいいんですけど、もう少し切った方がいいんじゃないかなって」と戦闘シーンの長さを指摘。富野監督も「自分でもよくわかんないんだけども、大体作り終わった後で、あと2分切りたかったっていうのが実を言うとありますので、戦闘シーンに飽きたら目つぶって、音が変わったら見てください」と会場に呼び掛けた。
そのほか、女性キャラクターの解像度の高さについて、フレームの中の人物への目くばせの仕方などに話題は移り「富田さんの作品は、後ろで演技してる人も見てほしい」と出渕氏。トーク終了後も、お互いに軽口を叩きあいながら、仲の良さを見せつけた二人。富野監督は自身のキャリアを振り返り、そして富野監督と同世代である宮﨑駿監督の名を再び出しながら、アニメ業界を背負っていく若者たちにエールを送っていた。
同トークのアーカイブは3月23日(土)23時59分まで有料配信中。(https://www.ticketpay.jp/booking/?event_id=50159)
第2回新潟国際アニメーション映画祭は3月20日まで開催、チケットは絶賛発売中。公式HP(https://niaff.net)でのクレジットカード決済、または上映会場にて現金でも購入可能(※一部例外もあり)。チケット販売、プログラム、会場など詳細は公式HP、SNSで随時告知する。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。